第328話 彼方vsリックル
試合開始の合図と同時にリックルの口が開いた。
「戦闘モード赤!」
その声に反応して人形が動いた。細く長い手足を動かして、彼方に迫る。
「そうはさせないっすよ」
ベルルが二つの盾を構えて、彼方の前に出る。
「彼方くんは僕が守るっす」
「キ…………キキィ」
きしむような音を立てて、人形は左右の手を同時に振った。その攻撃をベルルは盾で受ける。金属音が響き、ベルルの小柄な体がずれるように動いた。
――ひょろっとした体型のわりにパワーがあるな。関節の動きが独特で攻撃パターンが人とは違う。それに戦闘モード赤か。別のモードがあるってことだな。
彼方は視線をリックルに向ける。
――状況によっては降参する手もあるけど、手を抜いてるってバレたら意味ないからな。理想は実力の一割以下でのぎりぎり勝利ってところか。
――とりあえず、ベルルが人形を抑えているうちに、こっちから攻めてみるか。
彼方は短剣を握り締め、後方にいるリックルに向かって走る。
「おっと、素直に攻めてくるんだ」
リックルは胸元から金属製の球体を三つ取り出し、それを放り投げた。
三つの球体は宙に浮かんだ状態で周囲に半透明の壁を作る。
――壁系の呪文をアイテムで再現したのか。ならば…………。
彼方は呪文を唱えるふりをしながら、カードを選択した。
◇◇◇
【呪文カード:ダークボム】
【レア度:★(1) 属性:闇 対象に闇属性のダメージを与える。再使用時間:1時間】
◇◇◇
黒い球体が具現化され、頭上からリックルに迫る。
「甘いよ。氷室男爵」
球体が上に移動して、半透明の壁がダークボムの攻撃を止めた。
――移動する壁か。しかも、三つとなると面倒だな。
「今度はこっちからいくよ」
リックルは腰に提げていた赤い刃の短剣を手に取り、それを投げた。
短剣は彼方に当たる前に赤い網に形を変化させる。
大きく広がった網を彼方は転がりながら避けた。
「惜しいっ! でも、赤網の短剣は、まだいっぱい…………あるんだよねっ!」
リックルは魔法のポーチから二本の短剣を取り出し、それを連続で投げる。
空中で短剣が赤い網に変化した。
――今度は二つか。
彼方はぐっと姿勢を低くして、地面と平行に跳んだ。
視線を動かすと、リックルが新たな短剣を手にしていることに気づいた。
――あの短剣…………形は今までの短剣と同じだけど、柄に埋め込まれている宝石の色が違う。別の効果があるな。
彼方は素早く斜め後ろに移動する。
短剣を投げようとしたリックルの動きが止まった。
――やっぱりな。僕の後ろで見物してるオリトール公爵を気にしたってことは爆発するマジックアイテムってところか。
リックルは唇を歪めて、赤い短剣をマジックアイテムに戻した。
「なるほどね。この手に気づくなんて、ちょっと驚きだよ。ナグチ将軍がやられるわけだ」
「柄の部分の宝石の色が違ってたからね」
「宝石の色か。戦闘中にそんなことまで気にしてるんだ?」
「細かいところが気になるタイプなんだよ」
「ふーん…………。なら、しょうがないな」
リックルは魔法のポーチから青い短剣を取り出す。
「こっちのアイテムを使う…………かっ!」
リックルが投げた青い短剣が人形と戦っているベルルの盾に当たった。
その瞬間、右側の盾が凍りつく。
「戦闘モード青っ!」
リックルが叫ぶと同時に、人形は凍りついたベルルの盾に飛び乗り、高くジャンプした。一気にベルルとの距離を取り、彼方に向かって走り出す。
――さっきより人形の動きが速い。スピード特化タイプに変わったのか。
彼方は唇を動かしながら、呪文カードを選択した。
◇◇◇
【呪文カード:グラビティ10】
【レア度:★★★★(4) 属性:地 通常の10倍の重力で対象の動きを止める。再使用時間:5日】
◇◇◇
人形の体が僅かに縮み、動きが鈍くなった。
――よし! これでベルルが追いついてくれる。その間に僕はリックルを攻める。
彼方は短剣を足元に落とし、アイテムカードを選択した。
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