第322話 彼方の帰還

 二日後、カードの能力が使えるようになった彼方は、移動用にクリスタルドラゴンを召喚し、空を飛んでキルハ城に戻った。


「おかえりにゃあああ」


 城門の前でミケが彼方に抱きついた。


「四天王のデスアイスは倒せたかにゃ?」

「デスアリスだね」


 彼方は頬を緩めて、ミケの頭部に生えている猫の耳を撫でる。


「なんとかなったよ。これで当分、ここは大丈夫かな」

「それなら、お祝いのパーティーをしないといけないのにゃ。秘蔵のポク芋を食糧庫から出すにゃ。バターも昨日カナタ村から手に入れたしにゃ」

「…………カナタ村?」

「うむにゃ。新しい村の名前にゃ」


 ミケは両手を腰に当てて胸を張る。


「村の名前はミケが決めていいって、彼方が言ったのにゃ。だから、カナタ村にしたにゃ」

「僕の名前じゃないか!」


 彼方の声が大きくなった。


「どうして、そんな名前にしたの?」

「かっこいいからにゃ。村長や村のみんなも喜んでたにゃ」

「え? 喜んでた?」

「そうにゃ。英雄の名前がついてると縁起がいいのにゃ」

「…………いや、でも、僕の名前はなぁ」


 彼方は眉間にしわを寄せて、頭をかく。


 ――たしかに村の名前はミケが決めていいって言ったけど、変な名前なら、村の人たちが拒否すると思ったんだよな。まさか、僕の名前で決まるなんて。


「彼方っ、戻ったのか」


 ティアナールが緑色の瞳を輝かせて彼方に走り寄った。


「無事か? ケガはしてないな?」

「うん。この通り、問題ないよ」


 彼方は白い歯を見せて笑った。


「デスアリスもちゃんと倒したから」


 その言葉にティアナールが真顔になる。


「…………そうか。本当に倒したんだな。あのデスアリスを」

「強い相手だったよ」

「そう…………だろうな。相手は千年以上生きている化け物なのだから」


 ティアナールは彼方をじっと見つめる。


「本当にとんでもない男だ。魔神ザルドゥを倒し、四天王のネフュータスとデスアリスも倒すとは…………」


 周囲にいた兵士たちも彼方に熱い視線を向ける。


「それで、みんなのほうは問題なかった?」

「あぁ。サダル国の動きもないし、モンスターの襲撃もなかった」


 ティアナールは口角を吊り上げる。


「私がしっかりと兵士を鍛えているからな。仮にこの城が攻められても、ほどほどの敵なら対処できる自信があるぞ」

「それは心強いですね。ティアナールさんがいてくれて本当に有り難いです」


 彼方は白い歯を見せた。


「ティアナールさんたちがキルハ城を守ってくれるから、僕はデスアリスを倒しにいけたんです」

「ふっ。それが私の仕事だからな。まあ、いつも冷静沈着な私がいれば、氷室男爵も安心だろう」


 その時――。


 ウサ耳の少年ピュートが斜面を駆け上がってきた。


「ティアナール隊長! 報告です!」

「んっ? どうした?」

「約三十名の部隊が、こちらに近づいてきます」

「三十名? サダル国の兵士か?」

「いいえ。ヨム国の貴族とその私兵です」

「何だ。味方ではないか」


 ティアナールは、ふっと息を吐いた。


「もしかして、レイマーズ家のカーティスか?」

「いいえ。リフトン家のリフトン伯爵です」

「あぁ…………リフトン…………んっ?」


 ティアナールは首をかしげて、数秒間沈黙した。


 そして――。


「私の父ではないかっ!」


 ティアナールは両目を大きく開いて叫ぶような声を出した。


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