第199話 四天王ガラドス
「ガラドス…………」
彼方は一歩下がって、ガラドスを観察した。
――リザードマンとは体格が違う。肩幅が広くて足も太い。装備している鎧はマジックアイテムか。しっぽの先端のとげにも気をつけたほうがいいな。あと…………気になるのは黒い宝石を組み合わせた首飾りか。これは女のモンスターのほうもつけてるな。
「…………僕に何か用かな?」
「決まっているだろう。お前はザルドゥ様を殺した」
ガラドスの尖った歯がギリギリと音を立てた。
「ザルドゥ様は圧倒的な力で百万のモンスターの頂点に立ったお方だ。そんな偉大なお方をお前は殺したのだ!」
「復讐ってことか」
「そうだ。四天王の一人として、ザルドゥ様の仇を取らねばならぬ」
「…………だから、二人できたんだね」
「安心しろ。戦うのは俺だけだ。お前たちは全員でかかってきていいがな」
ガラドスは彼方の後ろにいたミケたちをちらりと見る。
「いや、僕もひとりで戦うよ」
「…………ほう。勇気があるな。いや、油断していたとはいえ、ザルドゥ様を倒したのだ。実力もあるか。ネフュータスも倒したようだしな」
ガラドスはワニのような口の両端を吊り上げた。
「お前の能力はもうわかっている。そして弱点も」
「弱点?」
「そうだ。お前は強力な攻撃呪文も使えるし、召喚呪文も使える。そして、ネーデ文明のマジックアイテム以上の武器や防具も具現化できる。だが、いつもそれを使えるわけではない」
「…………まあね」
彼方はガラドスの指摘を認めた。
「でも、今は使えるかもしれないよ。ザルドゥを倒した最強呪文を」
「それはない!」
ガラドスの隣にいた女が青白い唇を開いた。
「君は?」
「ガラドス様の参謀をしているキリーネだ」
女――キリーネは表情を変えることなく、言葉を続けた。
「お前の戦い方に違和感があるからな」
「違和感?」
「そうだ。お前はネフュータスの軍隊と戦う時、ザルドゥ様を倒した魔方陣の呪文を使っていない。いや、使えなかったのだ!」
キリーネは赤く輝く瞳で彼方を見つめる。
「強力な呪文を使うために必要な秘薬がなくなったのではないか? それとも最初から回数に制限があるのか? 召喚したドラゴンと同じように」
「…………そういうことか」
彼方はガラドスとキリーネを交互に見る。
――僕と会話することで、情報を引き出そうとしてるな。無限の魔方陣の呪文は使えないと断言しておいて、僕の反応を見てる。
――となると、使えた場合の保険もかけてあると考えたほうがいい。まずはそれを探ってみるか。
「おいっ、どうした? 図星だったのか?」
キリーネの唇が笑みの形を作る。
「もし、お前がザルドゥ様を倒した呪文を、この場で使えるのなら、私にかけてみろ!」
「君は部下として優秀だね。自分を犠牲にして呪文が使えるかどうかを確かめたいのかな?」
「…………違う。私は確信してるだけだ。お前が強力な呪文を使えないことをな」
「首飾りか」
「…………何を言ってる?」
キリーネの頬がぴくりと痙攣した。
「いや、一瞬、君の視線が胸元の首飾りに向いた気がしてさ。ガラドスも同じ首飾りをつけてるし、攻撃呪文を無効化するマジックアイテムっぽいなって」
「お前…………」
「んっ、少し声の調子が変わったね。顔も強張ってるし、図星かな?」
「…………戯れ言を」
キリーネが舌打ちをした。
「ただの首飾りをそこまで警戒するとはな」
「その割には悔しそうだね。さっきから眉がぴくぴく動いてるよ」
彼方は動揺しているキリーネを見つめる。
「君は頭もいいし、観察力も優れてるみたいだ。でも、僕のほうが上かな。君は呼吸数やまばたきの数まで数えてないだろ?」
「呼吸数だと?」
「うん。そこもチェックしたほうがいいよ。そうすれば、相手のウソや考えが見えるようになる」
「そっ、そんなことより、お前の呪文…………」
「もういいっ! キリーネ!」
ガラドスが野太い声を出した。
「お前の予想通りだ。この首飾りは強力な攻撃呪文を一度だけ無効化させる効果がある」
「本当のことを教えてくれるんだ?」
「気づかれても問題ないことだからな」
ガラドスは太い右手を動かした。赤黒い大剣が具現化された。刃は分厚く、魔法文字が刻まれている。
彼方は一歩下がって、意識を集中させた。
彼方の周囲に三百枚のカードが浮かび上がる。その中から一枚のカードを選択した。
◇◇◇
【アイテムカード:聖水の短剣】
【レア度:★★★★★★★★(8) 水属性の短剣。装備した者の意思を読み、刃の形状を変える。具現化時間:24時間。再使用時間:20日】
◇◇◇
青い刃の短剣が具現化された。
彼方はその短剣を右手で掴む。
「そんな短剣で俺の攻撃を受けきれると思っているのか?」
「問題ないよ」
湖面のように揺れる刃が一メートル以上に伸びた。
ガラドスの金色の目が細くなった。
「ふっ、いいだろう。ザルドゥ様を倒したお前の力、見せてもらおうか」
丸太のような太い右足を前に出して、ガラドスは彼方に攻撃を仕掛けた。
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