第197話 領主の初仕事

「さて、始めるか」


 彼方は意識を集中させて、一枚のカードを選択した。


◇◇◇

【召喚カード:ガラスのゴーレム ゴレポン】

【レア度:★(1) 属性:地 攻撃力:100 防御力:100 体力:100 魔力:0 能力:ガラスのゴーレムを破壊した者の目を眩ませる。召喚時間:1日。再使用時間:5日】

【フレーバーテキスト:こいつ…………最弱のクリーチャーのくせに自分のことを強いと思ってるみたいだな】

◇◇◇


 青いガラスでできたゴーレム――ゴレポンが現れた。

 ゴレポンは身長が二メートル近くあり、がっちりとした体格をしていた。目は丸く、鼻はなく、口は真一文字に広がっている。


「ゴゴゴゴゴーッ!」


 ゴレポンは両手の腕を直角に曲げる。


「俺が倒す魔王はどこにいる?」

「いや、君の仕事は戦闘ではなくて、外壁の修理だよ」

「修理…………」


 ゴレポンは不思議そうな顔で太い首をかしげた。


「戦わなくていいのか?」

「今のところ、敵もいないしね」


 彼方は笑いながら、ゴレポンのガラスの体に触れる。


「とりあえず、岩を使って外壁の穴を塞いでくれるかな?」

「それは重要な仕事なのか?」

「もちろん。敵の侵入を防ぐことは重要だから」

「…………わかった。俺にまかせろ」


 ゴレポンは近くに転がっていた岩を拾い上げ、穴の開いた外壁に向かう。

 黙々と岩を積んでいるゴレポンを見て、彼方はうなずく。


 ――壁の修復作業はクリーチャーにまかせよう。強いクリーチャーを使わずに温存しておけば問題ないだろう。


 その時、ニーアが白い羽を動かして、空から降りてきた。


「彼方…………これ見つけた」


 ニーアは彼方に銀色の鍵を差し出した。鍵は複雑な形をしていて、緑色の宝石が埋め込まれていた。


「これ…………どこで見つけたの?」

「屋根の上の尖ったところに刺さってた」


 ニーアは円錐型の屋根を指さした。


「そんなところに…………」


 彼方は受け取った鍵をじっと見つめる。


 ――読めない文字が刻まれてる。マジックアイテムなのかな。

――何にしても、そんな場所にあったってことは重要な物かもしれない。


「鍵ってことは…………探すのは鍵穴か」


 彼方は廃墟の城に視線を向けた。


 ◇


 全員で城の中を探索した結果、地下の倉庫の奥で鍵穴が見つかった。

 その鍵穴はレンガの壁の高さ一メートル程の場所にあった。

 彼方は片膝をついて、鍵穴を覗き込む。


 ――真っ暗で何も見えないか。


「どうするんだ? 彼方?」


 背後にいたエルメアが彼方に声をかける。


「…………鍵を使って中を確認するよ。危険なものがあったらまずいし」


 彼方は鍵穴に鍵を差し込み、右に回した。

 カチャリと音がすると同時にレンガの壁が扉に変化した。扉には魔法文字が刻まれていて、鍵穴の上に銀色の取っ手が出現していた。


「みんな…………少し離れてて」


 彼方は取っ手を掴み、扉を開いた。


 扉の先は狭い階段だった。石でできた階段は上に続いており、左右の壁には光る石が埋め込められていた。


「上か…………」


 ――この先に建物はなくて山の斜面になってたはず。


「…………エルメア。君だけついてきてくれるかな。ミケとニーアはここで待ってて」


 彼方とエルメアは用心しながら、狭い階段を進む。


 五分後、新たな扉が現れた。その扉を開けると、直径十メートル程の部屋があった。

 その部屋は壁際に本棚が並んでいて、中央には木製の机とイスがあった。机の上には光る石とガラスで作られたカンテラが置いてある。


「ここは…………?」

「どうやら、隠し部屋のようだな」


 彼方の背後にいたエルメアがつぶやいた。


「多分、前のこの城の持ち主が使っていたのだろう」

「…………みたいだね」


 彼方は本棚に近づき、埃まみれの本を手に取った。表紙には『ネーデの歴史』と書かれてあった。


 ――ネーデ文明の本か。他の本も…………ネーデ関係ばかりだ。


「彼方、奥に通路があるぞ」


 エルメアが本棚と本棚の間にある細い通路を指さした。


「わかった。先に進もう」


 彼方は本を本棚に戻し、通路に向かう。

 通路は数十メートルで終わり、彼方たちの視界が広がった。


 そこは広い洞窟の中で均等に配置された光る石が周囲を照らしていた。


「これは…………」


 彼方はぽかんと口を開けて、洞窟の中央に浮かんでいる巨大な船を見つめた。


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