第180話 暗器のリムエル再び
「あれ? リムエル」
彼方は過去に決闘で戦った女の名前を口にした。
「君がリーダーだったんだ」
「あ…………ああ…………」
リムエルは口をぱくぱくと動かし、小刻みに両足を震わせた。
「姉御…………?」
ダグラスが不思議そうな顔をしてリムエルを見つめる。
「どうしたんですか?」
「…………ダメよ」
「ダメ? 何がですか?」
「こいつはダメなのっ!」
ヒステリックにリムエルが叫んだ。
「こいつはFランクなんかじゃない! 人間に化けた上位モンスターよ!」
「無茶苦茶言うなぁ」
彼方は頭をかいた。
「僕は人間だよ。異界から転移してきた」
「ウソよっ! 絶対にあなたは人間じゃない!」
リムエルは後ずさりして、彼方から距離を取る。
「…………まあ、いいや。それより、代表者同士が戦う話はどうなるのかな?」
「た…………戦う?」
「そこのダグラスさんが言ったんだよ。僕の相手をリーダーがするって」
「するわけないでしょ!」
悲鳴のような声をあげて、リムエルが首をぶんぶんと左右に振る。
「あなたと戦うぐらいなら、呪文が使えるオーガと戦ったほうがマシよ」
「それだと、蒼冷石とガリム鋼は僕のものになるけどいいの?」
「そんなのどうだっていいから!」
リムエルは彼方に背を向けて歩き出す。
「あっ、姉御っ!」
ダグラスがリムエルの腕を掴んだ。
「どうしたんですか? 姉御なら、あんな小僧、すぐに殺せますよ」
「それなら、あなたが戦いなさい!」
リムエルはダグラスを睨みつけた。
「でも、彼方と戦ったら、死ぬのはあなたよ」
「俺が死ぬ?」
「ええ。あなたと彼方の戦闘能力の差は十倍以上だから」
「十倍っ!?」
「そうよ。こいつはAランク以上の化け物なの」
「Aランク以上って…………」
ダグラスは太い眉を中央に寄せて、彼方を見つめる。
「ねぇ、リムエル」
彼方がリムエルの名を口にする。
ぴくりとリムエルの体が反応した。
「リーダーなら、部下の教育はちゃんとやったほうがいいよ。そうしないと、どんなトラブルに巻き込まれるかわからないしね」
「…………わかったわよ!」
リムエルはいらついた表情で叫び、早足で茂みの奥に消えた。
「姉御…………」
ダグラスは口を半開きにしたまま、薄暗い茂みを見つめる。
「で、どうするのかな?」
彼方がダグラスに近づく。
「リーダーがいなくなったみたいだし、君が僕の相手をしてくれるの?」
「…………あ」
ダグラスの頬がぴくりと動く。
「…………いや、もういい」
「じゃあ、蒼冷石とガリム鋼の権利は放棄するってことでいいね?」
「ああ。石はお前のものだ」
ダグラスは舌打ちをして、リムエルの後を追う。仲間の冒険者たちも不満げな顔をして去っていった。
「さすが彼方にゃあああ! さすかなにゃああ!」
ミケが彼方に抱きつき、頭部に生えた猫の耳をぐりぐりと押しつける。
「モンスターいっぱい狩れたかにゃ?」
「うん。マジックアイテムの武器も手に入って、王都の店で換金してきたよ」
彼方は頬を緩めてミケの頭を撫でる。
「彼方くん、おかえりなさい」
香鈴が瞳を潤ませて彼方に歩み寄る。一瞬、彼方に抱きついているミケを見て、羨ましそうな顔をした。
「んっ? どうかしたの?」
「あ、ううん。なんでもないの」
香鈴は顔を赤らめて首を左右に動かした。
「ねっ、ねぇ」
コリンが彼方に声をかけた。
「蒼冷石とガリム鋼のことだけど…………」
「あーっ、それは君たちの物だよ」
彼方は笑いながら言った。
「石を鍾乳洞で見つけた話はウソだからね」
「う、うん。それはわかってたけど、ほんとにいいの?」
「もちろん。君たちが見つけた石だから」
「…………ありがとう」
「おいっ、お前すごいな」
ミックが彼方に声をかけた。
「FランクなのにDランクのおっさんを手玉に取ってたじゃねぇか」
「いいマジックアイテムを装備してるからね」
彼方はネーデの腕輪に触れる。
「いや、それだけじゃないだろ? 戦い方に余裕があったし、あの女リーダーはお前を異常に怖がってたじゃないか」
「それは前にあのリーダーと戦って勝ったからだよ」
「えっ? Cランクのトップクラスにも勝ったのか?」
「うん。リムエルが油断してたせいもあるけど」
「…………はぁ」
ミックが口をぽかんと開ける。
「…………お前、何でFランクなんだよ?」
「いや、それは僕が決めることじゃないから」
彼方は笑いながら、指先で頬をかいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます