第144話 新軍団長ウルエル

 夜のイベノラ村に多くのモンスターたちが集まっていた。


 ゴブリン、リザードマン、オーク、マンティスにオーガ。

 獣臭い匂いが周囲に充満しており、至る所に人骨が散らばっていた。


 北側にある半壊した家の前に、外見が二十代前半の背の高い男が立っていた。髪は金色で上下赤色の派手な服を着ている。額には一本の黒い角が生えていた。


 男は髪を整えながら、ひざまづいているリザードマンの報告を聞いていた。


「…………ウルエル様の予想通り、騎士団どもはウロナ村の西の草原に陣取っています。数は三千前後」

「三千ですか…………」


 男――ウルエルは首を左側に傾ける。


「つまり、五千人が村に残ってますね。なかなか用心深いことで」

「はっ! 他にも冒険者が百名前後いて、その中にSランクの冒険者もいるようです」

「王都のほうは?」

「他の騎士団や兵士も状況によっては動きそうです」


 リザードマンは淡々とウルエルの質問に答えた。


「ならば、早めにウロナ村を落とすべきですね。部隊の編成のほうは?」

「ウルエル様の指示通りに終わってます。しかし…………」

「んっ? どうしました?」

「いえ。ヨムの国と戦争するには我らだけでは厳しいかと。他の四天王にも軍を動かしてもらうべきでは?」

「今は無理でしょう」


 ウルエルは肩をすくめて、首を左右に動かす。


「一時的にゲルガ様が手伝ってくれましたが、本格的に軍を動かすとは思えません。ただ、ウロナ村を我らが落とせば、状況は変わるはずです」

「明日の戦いは重要ですな」

「安心してください。勝ちは決まってますから」

「決まってる?」

「ええ。この私が指揮を取るのですから」


 ウルエルの唇が裂けるように耳元まで吊り上がった。


「…………たしかにウルエル様が負けることはないでしょう。あなたが変身すれば」

「変身の必要などありませんよ。皆さんが私の指示通りに戦ってくれればね」


 その時、ダークエルフの男がウルエルに近づいた。


「ウルエル様、報告がございます」

「何でしょう?」

「いくつかの別働隊が何者かに襲われたようです」

「…………いくつかという言葉は美しくありませんね」

「すっ、すみません」


 ダークエルフは顔を強張らせて、頭を下げる。


「連絡が取れなくなっている別働隊は四つです」

「四部隊は多いですね。襲った者の特徴は?」

「逃げ延びた者が黒髪の人間にやられたと言ってます」

「黒髪の人間…………」

「はい。たったひとりに七体が殺されたそうです」

「七体…………ですか」


 ウルエルの金色の眉がぴくりと反応する。


「…………それは氷室彼方でしょうね」

「氷室彼方?」

「知りませんか? ザルドゥ様を倒した異界人ですよ」

「ザッ、ザルドゥ様を!」


 ダークエルフの両目が大きく開いた。


「その話は本当だったのですか?」

「ええ。氷室彼方は強力な攻撃呪文でザルドゥ様を消滅させたそうです」

「…………あのザルドゥ様を」


 青黒いダークエルフの唇が微かに震える。


「四つの部隊が襲われた場所はわかりますか?」

「…………あ、みっ、南の湿地帯です」

「では、ダルモスの部隊を湿地帯に送ってください」

「はっ? ダルモスの部隊は二百体です。たった、ひとりの人間を殺すのに二百体も使うのですか?」

「それだけの相手ですよ。氷室彼方は」


 ウルエルの声が微かに震えた。


「…………これは面白くなってきましたね」

「面白い…………ですか?」


 無言だったリザードマンが首をかしげた。


「だって、そうでしょう。あのザルドゥ様を殺した人間と戦えるのですから。ふっ、ふふふっ」


 ウルエルの甲高い笑い声が冷たい風に乗って、イベノラ村に響き渡った。

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