第3話


 ―土曜日の朝―


 俺はいつも通りの時間に起き、ランニングをこなしていた。


 だが、高校生活が始まったという変化や、春休み中は少し遅い時間に寝て、朝早く起きるということをしていたせいなのか、体がダルい。


 だから、ランニングも途中で疲れてしまい、さっさと家に帰って体を休ませた方がいいと考えて、今日はいつもの半分しか走らなかった。


 家に着くも疲れがすごく部屋にたどりつくのもやっとのことで、ジャージを脱いだ後、ベッドに休憩のつもりで横になっていたら、いつのまにか寝ていた。


 気づいて起きた時には、昼になっていて、何で誰も起こしに来なかったんだと疑問に思いながらも、部屋から出て一階に降りてみると、居間にあるソファーに波瑠と陽葵が座りながら(陽葵はお菓子を食べながら)テレビで動画をつけて真剣に何かを観ている。


 俺も気になって二人の後ろから見てみたら、お菓子会社の特集のニュースだった。


「お菓子会社の特集ねぇ。」


「うぉ!兄ちゃん、起きたの!」


「拓磨君!もう、びっくりさせないでよ。」


 丁度コマーシャル中に話したのだが、二人とも俺が急に話しかけてきたから、すごく驚いている様子だが、そんなに驚くかよ。


「急に声をかけて悪かったな。でもなんで二人ともこんなに食い入るように見てるんだよ。」


「それなんだけど拓磨君、ここのロスガっていう会社は有名なのに、めったなことでテレビに出ないから珍しくて見てたんだ。」


「そうだよ、兄ちゃん。それに今私が食べてる『ポテポテ・チー』だって、ロスガのなんだから。」


 そう言って、陽葵は自分の会社でもないのに自慢げに細長いお菓子を見せてきた。


「私もここのお菓子好きなのが多いのに、メディアに出ない会社ってなんか興味わかない。」


「そ、そうか?」


 二人とも熱弁してきてとても興奮しているようだった。確かにロスガって言う会社は、あんまりお菓子を食べない俺でも知っている有名な会社なのだが。


「俺的には、いろんなバラエティー番組とかに出てると思ってた。」


「さっきその事で社長が出てきて言ってたんだけど、会社の広告とかはやるけど、あまりメディアで大々的にアピールするのはやりたくないんだってよ。兄ちゃん。」


「へー、もっといろんなのに出た方が皆に見てもらえるのにな。」


 そんなことを言いつつ、コマーシャルが終わってまた番組が始まるとスラッとした背の高い美人の女性が出てきて、「ロスガの社長」とテロップに書かれていたのだが、とある人物によく似ていた。


「お、おい。この人なんだか波瑠に似てないか?」


「「うん?」」


 陽葵は、目を凝らしながら見ていて、波瑠は、そうかな?という感じでみていた。


「う~ん、確かに言われてみると波瑠ちゃんと顔が少し似ているような気が。」


「そんなのは、他人でも似ている人はいるでしょ。」


 波瑠はそう言って否定していたが、俺が思うに大人になった波瑠はこんな感じではないかと思う。


 この人は親戚か何かじゃないのか。それか母親かもしれない、色々なことを考えて聞こうとした。


 だが、いったん落ち着いて、そういえば昔に波瑠の母親について聞こうとしたことを思い出した。


 その時は、父親だけということは複雑な家庭環境かもと思い、聞くのは止めていた。


 しかも今だって、波瑠が否定しているということは、やはり何かしらのあると思い、この後、母親の事で嫌な雰囲気になるのもなあと思いこの話は終わりにしようとしたが。


「そういえば、波瑠ちゃんのお母さんってどんな人なの?」


 陽葵、俺が聞くのためらったのに、なんでお前は聞いてるの?


 波瑠だって困るだ、


「陽葵ちゃんに話してなかったね。う~んとお母さんは優しい人だったけど、五歳の時にどこか行っちゃってさ、あまり覚えてないんだよね。」


 ………今まで悩んでた俺がバカだった。


 そんなことを考えていても話は進んでいた。


「あと、テレビに出ている人は、確かに似ているかもしれないけど、社長はあり得ないと思うな、お母さん多分そんな感じの人じゃなかったし。」


「へー、そうなんだ。」


 納得した様子で波瑠はお菓子を食べていたが、それでも俺は何となくだが気になるので、食い気味で話し始めた。


「ひょっとしたら、波瑠のお母さんだったりして。」


「そんな訳ないでしょ。拓磨君。」


「そうだよ。兄ちゃん、ほんっとうに笑えないよ。」


「ははは、冗談で言ったんだけどな~…。」


「もう、拓磨君。」


 やはり少しはお母さんのことを気にしているのか、ほっぺたを膨らませながら波瑠は怒ってきたが、そこまで真剣に怒られるとは思っていなかったから、俺は少し落ち込んだ。


 だが、それでも社長さんと波瑠は凄く似ている感じはするが、それも考えすぎか。


 そんな話をしているうちに番組の特集も最後になっており、取材をしているリポーターが「最後に社長さんが思う、今後の夢って何ですか。」といった質問に対して、一度目を閉じ笑顔で社長さんは答えていた。


「私の夢はですね。この会社を全世界に知ってもらうのもそうですが、一番は今遠くにいる家族と過ごせるように日々頑張りたいと思います。」


「一番は、家族と過ごすっていうのは一体どういうことですか?」


「普通なことですが、家族とは忙しくて何年もあっていないので。」


 そうして、リポーターが「そうなんですか、これからも頑張ってください。」と一言だけ言うと特集は終わった。


「最後は、あっさり終わったけど、ロスガの社長さんって、結構庶民的な人だったな。」


「優しい人で、私もより一層親しみが持てたよ。」


「確かにそうだね…。」


 波瑠もなんだか寂しそうにしていたが、何かを考えているようでもあった。


「私もお父さんと連絡とろうかな。」


「お、さっきの社長さんの話を聞いて、波瑠もおじさんの事が恋しくなっちゃったのか。」


「うん。お母さんは今どこで何をしているのか分からないけど、お父さんはいるからさ。」


 ほんの少しからかってみたのだが、そのような雰囲気ではなく、妹も小声で、


(兄ちゃん、空気って言うのちゃんと読んでよ。)


 と言われてしまったが、波瑠も考え込んでいて、こっちの声は聞こえていなかったらしいが、同時に何かに不安そうでもあった。


「うん?波瑠ちゃん、どうしたの?」


「実は、最近はお父さん仕事忙しいって言って、全然連絡してこなかったけど、今晩とか連絡してもとれるかな。」


「あ~、それで悩んでたんだ。波瑠ちゃん、その事なら大丈夫だと思うよ。」


「どうしてなの?陽葵ちゃん。」


 急に分かったような口調で話していたが、なんでなのか俺にも分からなかった。


「どうしてなんだ。陽葵。ちゃんとした理由とかあるのか?」


「ちっちっちっ、兄ちゃんは本当に何も知らないね。」


「何だよ、その言い方。」


「私はね。父さんや波瑠さんにおじさんのいろんな話を聞いてて、波瑠ちゃんのことを一番大事に思ってるのがひしひしと伝わって来てたし、何なら今メールしても返事が返ってくると思うよ。波瑠ちゃん。」


 少し言い過ぎてる所もあるが、(自称)いろんな話を聞いている陽葵が言ってることなんだから信用していいと思う。(本当っぽいしな。)


 あと、俺の個人的な解釈なんだが、波瑠が少し弱気になっているのを気遣って、陽葵は強気な発言をしたんだとも思った。


(俺も陽葵に前落ち込んでたとき、それっぽいのやられたことあったし。)


 まぁ、そんな事より波瑠は、さっきまでの考え込んで不安げな表情が無くなり、笑っていた。


「ふふっ。そう言われると確かに今メールしたら返事が返ってきそうだけど、お父さん困らせられないから今はいいや。」


「そう?私だったら、普通にこの時間でも父さんに連絡するけどね。」


 陽葵だったら、本当にやりそうだったが、動画も終わりにし、丁度二人で話していたから、特に俺がここにいる意味ももうなかった。


 また、俺はこの後、自室でゲームしてだらだらと過ごしたかったので、台所から昼飯を漁って部屋で食べようと思った。


(そういえば、このまえ買ったコロッケパンとか惣菜パンって、どこ置いたっけ?)


 そんな事を思いつつ、早速台所に行こうとしたが。


「私も母さんと父さんにもっと話したくなっちゃったな~。兄ちゃんはどうなの?」


 そこで俺に話を振ってきた。だが、この後の事もあるから、一応答えてからさっさと部屋に行こう。


「俺はいいかな、家に居れば毎日だって話し出来るし。それよりこの後、やりたいことがあるので俺はこれで~…。」


 そう言って、この場を立ち去ろうとしたのだが、妹と波瑠に両肩を掴まれた。


「どこ行くの。拓磨君。」


「そうだよ。兄ちゃんのやりたい事ってゲームの事だよね。そんな事より本音を話してよ。」


「いや、違うぞ~。今日は勉強しようと~…。」


 流石に勉強したいって言えば、大丈夫だろ。


「どうせ噓でしょ兄ちゃん。兄ちゃんは勉強を積極的にやる人じゃないでしょ。」


「そうだよ。この前の春休みの課題だって、私が来るまでちゃんとやって無かったでしょ。」


 確かにこの場を去りたいから出まかせで言ったが、課題の話まで持ってこられるとは思っていなかった。


 その後、三人で昼飯を取りつつ、この後も二人にいろいろと言われ、また月曜日の課題もやらされるのであった。

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