第2話

 入学式も終わり五日が立ち、今週も終わる金曜日になっていた。


 学校が始まって五日目なので、授業も一部の授業が本格的に始まり色々と大変だったが、どうにか今日も終わり放課後を迎えた。


 放課後のショートホームルームも担任の先生が部活動見学の話をしていたが、無理に観に行かなくてもいいらしい。


 掃除も終わった後、早速家に帰ってゆっくりゲームでもするかと考えて帰ろうとした時、廊下で俺の事を待っていた進が教室に入った来て、前の奴の椅子を勝手に使い(そいつ帰ったから大丈夫だと思うが)話してきた。


「なぁ、拓磨って部活見学って行くのか?」


「俺か?俺は行かないけど、お前は?」


「俺も行くつもりないな。」


 なんで聞いたんだと言おうとしたが、クラスの皆も掃除の時や教室でその話題が今のところ持ちっきりになっていたから、進も俺にその話をしたかったのだろう。


 波瑠も今友達とそんな感じの話しているところだったが。


 しかし、それ以外にも進は聞きたいことがあったらしい。


「じゃあ、拓磨は、部活に入ったりするのか?」


「じゃあって、…それも無い。」


「えっ?だってお前、中学の時に陸上部入ってただろ。また入んないのか?」


 中学の友達がいるとこういう事になることは予期していたが、進に俺が部活をやっていた理由を素直に言ってやろう。


「それは、内申点をよくするためにやってたのと部活に興味があっただけだ。そう言ったら、進だって俺と同じ部活だっただろ。お前が入れば。」


「俺も嫌です。」


 進は、清々しく言っていた。俺だって入りたくないんだが。


「でもさ、拓磨って中学の時の陸上部で、まぁまぁの成績を取ってたじゃん。だからどうせ、すぐ先輩達にバレて入らされるのがオチだろ。」


「確かに陸上部の先輩達にバレて誘われるかもしれないけど、その時は全力で逃げる。」


「いやー、どこからその自信が出るんだ。」


 そんなことを進に言っていた時、思い出したのだが、


「あー、そういえば進に言って無かったな。朝にランニングしていること。」


 そう言って、朝のランニングについて進に詳しく教えたら、ポカーンとしていた。


「お前、部活終わってもそんなことしてたのかよ。なんでそんなことしてるんだ。お前。」


「なんか終わっても、中学の朝練が習慣になっちまってんだよ。それでも、走るのは楽しかったからいいけど。」


「ほぉ~、それでねぇ~。俺は部活を辞めた時からそんな事、一切やって無いぞ。」


 こいつ、俺と一緒にやっていても半分適当にやってたし、朝練は特にサボっていたから普通に進がランニングをやってるイメージなんかそもそも最初からない。


「まぁ、なんでも俺は、体を動かすのが好きなだけだ。」


「だったら、なおさらお前は、陸上部に入れよ。」


 進は呆れながら言っていたが、そんな話を俺の席でダラダラとしていたら、中学の時の女友達である小波さざなみ愛空あそらが話しかけてきた。


「何々、なんの話してるの~?」


「おっ、小波、実は拓磨と部活に入るか入らないかを話してたんだ。」


「うん?須原、中学と同じ陸上部に入るんじゃないのか。」


「いや、部活には入るつもりはないぞ。元々、内申点をよくするために始めただけだからな。」


「でも、中学の地区大会で好成績を残してるし、陸上部の先輩達に誘われるんじゃない?」


「小波さんよ。それさっき、俺もこいつに言った所だぜ。」


 同じことを二人から言われたが、俺は陸上部を本気でやってたけど走るのが楽しいからそれだけのために走っていた。


 だから、大会とかは特に気にしたことはなかったし、先輩たちが俺の所に来ても絶対に入る気は無い。


「そうなんだ。でも、私は何回か須原の走ってる時の姿を見たけど、凄く楽しそうだったり、嬉しそうに走ってる感じがしたぞ。だから、部活やった方が良いと思うんだけどなぁ。」


「俺が走ってる時、そんな感じだったのか?進。」


「えっ?いや、俺に聞かれても…分からん。そんなことまで考えてみたこと無いし。」


 進も知らない事ではあったが、そんな走りをしているなんて見る奴には分かるのか。


「だからと言って、入らない。」


「そんなに頑なに入らないって言うけど、走るの楽しそうなのに入らない理由が他にもあるのか?」


「確かに、小波の言う通りでなんで頑なに入りたくないんだ?あと言っとくけど、家に帰ってゲームやりたいから以外の理由でな。」


 …確かにそれも理由としては大きかったが、他にもちゃんとした理由が俺にはある。

 その理由とは、


「俺はなぁ。中学校の時、初めて思い知った。部活の練習がきついのと、自分は走りたいだけなのに、部活では毎日練習内容が決まってて走ることがほとんど出来ない、だから高校では部活はやりたくない。」


 やっと、中学の時の部活の愚痴を仲のいい奴に言えたが、変な目で二人は俺の事を見てる。


「他の運動部の奴らにそれ言ってみな、ぜってぇ、怒られるから。」


「須原、私は聞いて損したんだけど。」


 そんな感じで二人に呆れつつ、その後も二人には陸上部に入れと説得されたが、俺は先輩にいびられたり、大会のためにやりたいこと(やっぱり、ゲームの事)が出来なくなるから、絶対に入部する気はない。


 こんな話をしているうちに、教室にいたみんなもそれぞれ帰ったり、部活動見学しに行ったりと各々していたので、二人には、「部活の件はまたということで」とはぐらかしつつ、「帰ろうぜ」と言う。


 二人は、納得していなかったが、話が進まないと分かり、諦めて帰ることになった。


 カバンを持って、教室を出ようとドアに手を掛けた時、そういえば波瑠は?と思って、教室を見渡したり、廊下を見たが居なく、俺達が話している間にでも帰ったのかと思い見渡すのをやめた。


「何、誰か探してるの?」


「大した事じゃないが、ただ俺達がここの教室で一番最後に出る人じゃないよなと思って。」


「確かに最後の人は、面倒くさい教室の戸締りをしないといけないもんな。」


 小波にも、いつかは波瑠が俺の家で同居していることを話すが今は、学校なので誤魔化し、俺達は教室を出た。


 喋りながら廊下を歩き、下駄箱で靴を履いて、玄関を出たら、先輩たちが部活勧誘をしていたが、別の同級生がターゲットで捕まっていたので、どうにか勧誘している所を横切って回避し、校門まで行けた。


 そうして、校門を出ようとしたその時、髪がツンツンしてて、爽やかそうな見た目で体操服を着た人が俺を呼び止める。


「ねぇ、君さ、須原拓磨君だよね。俺は、陸上部に所属している…。」


「人違いです。」


 陸上部の先輩と分かったがそこで、「そうです。」と答えたら、面倒なことになりそうだったので、俺はきっぱりと否定した。


 だが、横を見ると進と小波が呆れたと言っているような目でこっちを見ていたが、誰に何と言われようが俺は絶対に入部するつもりはないという目で逆に二人を睨み返した。


 てか、二人が言った通り、本当にすぐ先輩にバレるのかよ。何でだ?


「何を言ってるんだ?ちゃんと出身校の人達に話を聞いたり、君の活躍の動画を観して貰った事があるから俺が人違いする訳が無いぞ。あと、さっき名前を言いそびれたが。俺は…。」


 早速バレた理由はわかったが、明るい感じでこの人は言ってるけどな、動画って個人情報流失じゃねぇのか?それに、知ってるなら最初から聞いてくるなよ。…仕方ない。


「はい、そうですけど、陸上部に入る気ないので、先輩の名前も結構です。」


 そうして、きっぱり断って先輩の横から校門を出ようとしたが肩を掴まれた。


「俺の名前は覚えなくてもいい、だが、君って中学の時に走る競技で好成績とってるだろ?そういう人ってもっと上に行けると思うし、仲間と切磋琢磨して伸ばした方が良いと思うよ。」


 先輩は良い感じの言葉を並べてきたが、それでも入る気なんて更々無かった。


「元々、中学の時は内申点を挙げるためにやってただけなので、もう部活には興味ありませんので、入部しません。」


「でも、なぁ…。」


 流石に俺が嫌気を差しているのを進と小波は、察して話し始めた。


「先輩、拓磨本人がやる気が無いので無理だと思います。なので、諦めた方がいいです。」


「そうですよ。確かにもったいないとは思うんですけど。」


 進は完ぺきなフォローを入れてくれたが、小波はなんでもったいないと思うんだ。


「そうか。う~ん。でも、もったいなさ過ぎる。だから、俺は諦めないで拓磨君を絶対に部員にしてみせるよ。じゃあ、また今度!」


 そう言って、俺達に手を振った後、また違う人に勧誘を始めていた。


「いやー、なんというか、独特な先輩だったな拓磨。」


「なんで、途中であきらめねぇんだよ。」


「面白い先輩だったね。」


 どこが?と思いつつ、それぞれの家に帰宅していった。


 そうして、面倒なことから逃れることが出来た俺はようやっと帰宅し、疲れ切っていたので部屋でゆっくりしようとした。


「ただいま~っと。」


「拓磨君、お帰りなさい。ちょっと話したいことがあるからこっちに来て。」


 リビングから波瑠の返事が返ってきて、呼ばれたので行ってみるとソファーに波瑠と何故か陽葵が座っていた。


 陽葵も居るなら返事くらいしてほしい。


 俺は、そっちに行くのも面倒だと思い、ドアの所で立って話すことにした。


「何だよ。もう今日は疲れてるから、部屋でゆっくりしようと思ってるんだけど。」


「ねぇ、陽葵ちゃんに聞いたんだけど、中学生の時は陸上部に入ってて、地区大会の長距離走でも上位にいたんだね。すごいね。拓磨君。」


 まさか、家でもその話はしないと思っていたのにされて、一応聞かれたから答えるがこれ以上、「部活入らないの?」って聞かれるのは、どうしても避けたい。


 あと、陽葵には注意しないとな。


「まぁ、そうだけど、なんで陽葵もそのこと言うんだよ。」


「兄ちゃん達の学校って、今日から部活見学なんでしょ。それで、波瑠ちゃんと部活の話をしてたら、兄ちゃんの中学での部活について聞きたいって言うから話しただけなんだけど。どうして言っちゃいけないの?兄ちゃん。」


「話になったとしても、地区大会の事は言わないでほしかった。」


 陽葵は、前から人の秘密をすぐに言ってしまう癖があるので直してほしいのだが、今も何でというようなハテナ顔でこっちを見ていたのでまずは説明してやろう。


「あのな。なんでかって言うとな、」


「拓磨君って高校でも陸上部に入るの?」


 はい、でました。


 これ以上、聞きたくない一言。


 波瑠も今は陽葵を注意してるところなんだから、少しは空気を呼んでくれ。


「こういうことを言われるからだ。」


「ふ~ん。」


 陽葵は、目の間の机にあったポテチの袋を取り、食べながら俺の話を聞いていた。


 頼むから、兄ちゃんの話は、ちゃんと聞いてくれ。


「それにさっきだって、友人達や陸上部のツンツン髪の人に部活は入らないって言ったんだ。だから、これ以上被害に遭いたくないから、俺が中学で部活に入っていた話は、」


「あっ、そういえば、学校でいつも話してる男の子は、見沼君?っていう人なのは分かったんだけど、途中で話に入ってきた女の子は誰なの?」


 さっきから、波瑠が割って入ってくるが、放課後のやり取りを見ていたのか。小波の話ならサクッと終わりそうなので話してやることにした。


「そいつ?そいつは、」


「その人って、多分だけど小波愛空ちゃんだと思うよ。兄ちゃんって波瑠ちゃんとその子ぐらいしか女子の友達いないし。」


 何でそんなに俺が話そうとしてるのを遮って、割って入ってくるの?今の流行りなの?


 もう溜息しか出てこないが、陽葵の秘密をすぐ言う癖を今直さないといけなかったので疲れを吹き飛ばし、また話し始めた。


「陽葵、お前はなんでそんなに秘密をすぐに人に言うんだ。」


「いや、だって兄ちゃんが言うのが遅いんだもん。それに私は、兄ちゃん以外の人の秘密はバラしたことはないよ。」


「なんで、俺だけ…。」


「へー、小波さんって言うんだ。」


 もう、話すのも面倒になって来たので波瑠に注意することを託すことにした。


「波瑠も聞いてくるんじゃなくて、陽葵に注意してくれないか。」


「えっ?え~と、陽葵ちゃん、拓磨君のプライベートあまり言っちゃ駄目だよ。」


 物凄くあっさりしていた。そんなのじゃ、注意しても意味が無…、


「はーい、分かったよ。波瑠ちゃん。」


「なんで!?」


 もうなんだか頭痛もしてきたし、話す気力も無くなってきた。


「はぁー、本当に疲れたからもう俺は行くぞ。」


 そう言って、振り返り二階に上がって行った。


 何も言ってこなくなったから、流石に二人も理解してくれたらしく、俺はすんなりと部屋に行くことが出来た。


 はぁ、もう部活に関しては、こりごりだ。

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