第14話 激励!! 転生徒会

 俺たちは……、クッソ怒られた。


「バッカもぉぉぉんっ!」


 決闘クエストの夜から幾日かたち、いまやフルメンバーたる我ら転生徒会は、威厳ある学園長室にそろって呼びだされ、こわもてな学園長から大目玉をくらっているところである。


 かい学園学園長――ふうぞう

 ずんぐりむっくりがっちりした体格で、いかにも腕っぷしが強く頑固そうな中年オヤジ。学園の長というより、大工のとうりょうでもやればハマりそうな男だ。

 ハゲあがった頭頂部と対をなすがごとく、四角いあごにはモッサリとたくわえられたひげ。身長こそ低めだが、それを補ってあまりある威圧感でごえをはりあげる。


「この、バッカもぉぉぉんっ! 転生徒どうしがおおばしけん騒ぎなんぞ起こしおって、何のつもりだ‼ ……今回の件、ことのはじまりから当然ワシだって把握してはいたが、テストもかねて君たち転生徒会の動きを見ておったのだ。ところがどうだ? 決闘を阻止するでもなく、夜間に聖剣とながものでド派手に打ち合い、反省の弁でも述べにくるかと思って待っておれば、何事もなかったかのようにしれーっとやり過ごしおって。そもそも、転生徒がらみのトラブルを穏便に収めるべきが転生徒会、君たちの役割だとちゃんとわかっとるのか、ええ?」


 お怒りは、まあごもっともではある。

 転生徒会の全員が決闘に立ち会ったわけではないとはいえ、それが言い逃れの材料にはなりそうもない雰囲気。

 生徒どうし、ましてや転生徒どうしの格闘戦を学園がよしとするはずもなく、おまけに学園敷地内のおおばしでくり広げられたとあってはさらに悪い。


 横一列に立たされ、弁解ならぬ苦境に追い込まれた我ら転生会パーティー。

 いちおう教師でもあるりん先生にいたっては、なおのこと立場的にまずい状況だろう。無表情ながらすっかり顔が青ざめている。

 いや、鼻と耳と唇はもともと緑肌だが……。ああ、ゴブリン属性の転生徒。

 あん先輩はオロオロし、あますみれはフテくされる。


 こんな状況で臆面もなく発言できる勇気の持ち主といえば、それはそう、勇者属性のかいユーシヤしかいない。


「アッハハ、ボクらは転生徒として真っ当に行動したまでじゃないですか。現にこうして、あますみれだって仲間になった。クエスト達成からのパーティー結成、まさに王道の展開をゆく転生徒会に、何ら恥じることはありませんよ、学園長先生。ボクの勇気と聖剣にかけて、ね」


 ぜんと胸を張り、青のマントをはためかせるユーシヤ。

 説教されるときくらいマントははずして欲しい……、と俺もうは思った。


「その転生徒会ってのが、ところかまわずけんげきやらかすような会だとは理解しとらんさ、ワシも、それにたぶん、理事長――もな。ああ、そういえば理事長からも今回の件について君らに申し渡しがあるそうだ、はて、どこにやったか」


 くたびれたチョッキの胸ポケットから紙片を引っぱりだし、学園長はそれを読み上げた。


『  転生徒会に選ばれし諸君へ


 君たちの冒険クエストに、勇気の光あれ!


 かい学園理事長 かいひで  』


「……っ⁉ ったく、親が親なら子も子なり、だわい」

 苦り切った面持ちで、なおも続ける学園長。

「ともかく。いいかね、ただでさえ君たち転生徒に対する世間の風当たりは思わしくないんだ。うるさいことを言ってくるPTAや保護者の連中だっている。『うちの大事な子供を、転生徒なんていう異世界キャラ属性の変わり者と――皆と同じように普通にしていることすらできない不快な社会不適合者と、一緒に育てて頂きたくない』とか何とかな。ワシら管理者側としても、こう騒動を起こされたんじゃあ……」

「――先生もそう思っているんですか?」


 学園長のぼやきを、ユーシヤがいつになく真剣なトーンでさえぎった。


「んん?」

先生も、そう思っているんですか? 転生徒なんて、みんなと同じように普通にしていることすらできない不快な社会不適合者、異世界キャラ属性の変わり者だって」


 2人の視線が正面からぶつかり、緊張が高まる。

 無言のにらみ合い。

 ………………。

 …………。

 ……。


 先に音をあげたのは、ため息まじりの男の声だ。

「……はあ。ったく、何にせよ反省だけはしてもらわんとな。だいたい、決闘の現場には調理師主任のふうが駆けつけたらしいじゃないか。君らを止めに入ったんじゃないのか?」


「アッハハ。フーカちゃんなら、あの夜、ボクとあますみれの熱闘を大いに盛り上げてくれましたよ。それはもう、見事な弓さばきで、ね」

「あの人は、あーしの師匠だぜっ」


「……っ⁉ ああ、もういい! 今日はここまでだ。二度とこんなことしてはいかんぞ。それから、君、もうはじめ

「は、ハイ!」

「何だね、君のその腐ったような目は。気合が足りんのじゃないか? もっと年ごろの男らしくイキイキしたらどうだ。陰キャ属性にもほどがあるぞ」


 ……。


 おい、いま俺の横で笑ったお前ら、あとでゆっくり話そうじゃないか。

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