第8話 戦々恐々!!

 ――戦国時代に築城され、現在は石垣や天守台のみが残された山城跡。

 その一郭におかれた複数の校舎群から、かい学園はなる。


 正門にあたる南側には敷地と公道を区切るおほりが水をたたえ、生徒たちはその上にかかるおおばしを渡って通学する。


 橋長約40メートルの大手橋と全高約5メートルのおおもんはいずれも創建当時の木造を再現し復元されたもので、観光スポットとしても有名だ。

 今朝の爽やかな空気を肌に感じながら、俺、もうはじめもまた、登校者の1人として大手橋の上を歩いている。


 白骨化した長髪に、ドロリと腐った白目をむいた、どこにでもいる高校1年生男子。

 痛みは感じないが、骨とただれた皮ばかりの呪われた体。

 亡者属性の転生徒ではあっても、なるべく周囲の皆さんに溶け込めるよう、あくまで自然体で歩を進める。


 てくてく。


 おほりから吹き上がる風が、ときおり、道行く女子生徒たちのスカートのすそを揺らす。

 お、見え……。

 いや、キョロキョロするのはよそう。パンチラなんぞ期待してどうするというのだ。

 たとえ腐敗した白目むきの俺でも、心まで腐ってはいない。

 ちなみに、黒目はドロドロに溶けてもはやなくなっているが、いちおうちゃんと視力はある。


「バサッ」

 背後でひときわ大きな音がたった。

 たとえるなら、そう、布地が風にあおられるような。


 !

 急いで振り向く俺の白目に飛び込んできたのは――さえざえとした、青。

 青の、パ…………マント。


「なんだ、ユーシヤかよ」

「なんだはないだろう、もう。アッハハ、その湧きでる陰気きわまりない負のオーラ、朝から陰キャ属性全開だね、君」


 ……今日も今日とて、青髪碧眼青マント(おでこに《勇》の紋章入り)、かいユーシヤの登場である。

 陰キャな俺とは違い(誰が陰キャだ)、さっそうとした立ち居振る舞い。

 転生徒を見とがめる周囲の視線など、どこ吹く風で。


 隣りを歩きだすこいつこそは、正真正銘の転生徒、勇者属性少女だ。

 おまけに、聖剣使いの聖属性体質でもある。

 その左手からほとばしるのは、聖剣をも生みだす聖属性エネルギー。

 頼もしいと言えばそうかもしれんが、亡者な俺にとっちゃ、触れられるだけで浄化されかねない、むしろ心休まらぬ存在第1位。

 手が触れあったときのあのビリビリくる聖なる激痛は、いまだいんも冷めやらず。


 それに、だ。

 先日の茶道部食中毒事件といい、どうもみなぎる勇気のせいか、こいつは何事にでも凛々しく首を突っ込んでいくタイプと見える。

 その意気や良し、だが慎重さに欠ける。

 こいつといると毎日何かしらの騒動に巻き込まれそうな、危なっかしいフラグ勇者の匂いがプンプンなのだ。


「何だろ、あれ! おおもんの前、すごい人だかりだ。いくよん、もう。ついてきて!」


 ……とまあ、こんな風に。



        ♢



 はたして、黒山の人だかりが囲んでいたのは、おおもんまえきにされた3人の男たち。

 何者かにこっぴどく打ち負かされた後のようで、失神したまま仲良く門柱わきにへたりこんでいる。

 で、この男たち、何を隠そう登校初日に校舎裏で俺やユーシヤとひともんちゃくあったあの半グレ3人衆なのであった。

 半グレAの肩口には、『果たし状』と書かれたわら半紙が貼りつき、風にあおられていて――。


『 果たし状


 前略

 聖剣使いの転生徒、かいユーシヤ。

 テメーに決闘を申し込む。

 本物の勇者属性なら、

 今晩十時、おおばしへ来い。

 断れば、

 もっと犠牲者が出ると思え。 草々』

 

 状況からして、この果たし状の主が半グレ3人衆をきにしたようだ。

 見せしめがわりというわけか。

 名指しで決闘を申し込まれるなんざ、転生徒会うちの勇者は案外と人気者なのかね。

 いやまったく、きなくさい。

 せんせんきょうきょうとする俺の横で、


「アッハハ、おもしろそうじゃないか。誰だかわからないが、このボクを聖剣使いの勇者属性と知っての挑戦、うけて立つよ!」


 ユーシヤは果たし状を握りしめ、ゆうかんぼうにその左拳を突き上げる。


 ……しかし、まあ待て。

 1日はまだ、はじまったばかりだ。

 昼休憩あたりりん先生とあん先輩も呼んで、飯でも食いながら対策をば練らねばなるまいよ……。

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