謎解きは東雲舞にお任せを

雨宮 徹

謎解きは東雲舞にお任せを

 僕は平凡な中学生活に飽き飽きしていた。いつもと変わらぬ授業、友人とのありきたりな会話。しかし、それも今年が最後だ。来年からは高校生。刺激的な毎日が待っているに違いない。





 そんな僕の日常が崩れたのは数学の授業だった。



「明日香さん、この問題を解いてください」先生が指名する。



 先生からの質問に対する明日香さんの答えは「先生、私……解けません」だった。



 ふーん、あの文武両道の明日香さんにも解けない問題があるのか。どんな難問だろうか。黒板を見た僕は仰天した。この問題、僕にだって解けるぞ?



「あー、そういう日もありますから、明日香さん落ち込まないように。この問題の答えは――」





 次に異変があったのは、体力テストのボール投げの時だった。



「さて、次は……明日香さん。ボールを投げてください。あなたなら、学年新記録が出せるわ!」



 明日香さんは自信なさげにボールを掴むと、えいっと投げた。記録は……二メートル。二メートル!? 毎年十メートル越えを連発している明日香さんが?



 いや、明日香さんが不調なのには理由があるに違いない。おそらく双子の妹であるしずくさんが風邪で休みだからだろう。僕の偏見かもしれないが、双子は一心同体に違いない。きっとそうだ。励ましの言葉でもかけるか。



「明日香さん、先生の期待がプレッシャーになったんでしょ? 優等生も大変だね……」



「あ、まこと君。やっぱりバレた?」明日香さんはしょんぼりしていた。



「そうだ。貸してた漫画だけど、明日返してくれないかな。友達が『早く貸せ』ってうるさくて」僕は申し訳なく言う。



「漫画? 私、借りた覚えないんだけど」明日香さんは戸惑いの表情を浮かべた。



 やはり、何かがおかしい。明日香さんが約束を忘れたことは、一度もない。





 僕はお昼休み中、明日香さんの異変について考えていた。勉強、スポーツに記憶力。とても普段の明日香さんからは想像もできない出来事ばかりだ。その時、僕は閃いた。そうだ、妹のしずくさんが姉の明日香さんのフリをしているならば、どうだろうか。そうであれば、説明がつく。二人は一卵性の双子。外見だけでは区別がつかない。



 しかし、僕の推理には穴がある。そう、もし妹の雫さんが姉のフリをしているならば、動機は何だろうか。入れ替わっても、メリットがあるようには思えない。ここは我がクラスのミステリーオタク、東雲しののめまいに相談するか。



「なあ、東雲。明日香さんの不調だけど――」



 僕の相談は東雲の言葉に遮られた。



「『もしかしたら、妹の雫さんが姉の明日香さんのフリをしているんじゃないか』。その理由を推理してくれ、そういうことでしょう?」



 さすが東雲だ。僕の頼み事までお見通しか。



「真、私は理由が分かるわ」と東雲。



「東雲、本当か!?」



「嘘をついても、私に得はないわ。でも、たまには真自身が考えたらどうかしら? ここで質問よ。明日香さんはどんな人かしら?」



「どんな人って……。勉強もスポーツも優秀。その上、体調管理も万全。僕にはこのくらいしか思いつかないけれど」



「あら、答えは出ているじゃない」



「そうかなぁ」



「じゃあ、答えを言うわ。でも、他言無用よ」



「東雲、僕の口は堅いよ。どんな理由だろうと、先生に言いつけるなんてことはしない」



「そこまで言うなら。答えはよ」



 皆勤賞のため!?



「姉の明日香さんは、天秤にかけたのよ。文武両道と皆勤賞のどちらを選ぶか。答えは明白。皆勤賞を選んだのよ。勉強が出来なくなるのは一時だけ。それに比べて、皆勤賞は一日でも休めばダメよ。そして、妹の雫さんは姉の明日香さんを尊敬している。入れ替わりに抵抗はなかったはずよ」



 なるほど。それなら筋が通っている。



「東雲のおかげですっきりしたよ。それなら、明日香さんは数日後に普段通りに戻るのか」



「そういうこと。まあ、クラスのみんなも薄々気づいていると思うわ。二人が入れ替わっていることは。でも、真みたいに理由までは分からない。だから、先生に言い出せないのよ。さあ、もうすぐ理科の時間よ。席に戻りなさい」





 それから数日後だった。双子が仲良く登校しているのを見かけたのは。

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