第11話 デブと美少女ASMR。
それから、僕は更にダイエット用クッキーの試作を進めた。
同じ部活のメンバーから意見をもらい、調味料の細かな分量など、レシピの調整を行った。
もちろん僕も彼女たちのレシピ作りに協力。
充実した学校生活という感じだ。
「タカシくん、これお店に出せるレベルじゃない?」
「ありがとうございます。皆さんのおかげです……これで完成です」
「「「「「おめでとう!」」」」」
「田中くん、次のメニューは何を考えてるの?」
高橋部長だけはまだ名字呼びだ。
「まだ迷い中ですが……次もお菓子系で考えてます」
「決まったら真っ先に私に相談してね。楽しみにしてるわ」
「はい!」
暫くして、ある
広めたのは料理研究部の女子部員たち。
その噂の内容は「料理研究部で作ったダイエット用クッキーが美味しい」というものだったけど……
そんな噂が広がってたなんてしらなかくて。
そして、とうとうクラスメイトの水嶋さんの耳に入ってしまう。
『放課後、24番教室、クッキー希望』
何故か水嶋さんから放課後呼び出されてしまった。
スクールカースト上位美少女が陰キャデブの僕に何の用?
まあ、クッキーって書いてるけど……。
「遅くなりました」
「やっと来た。誰にも見られてない?」
「はい」
「じゃあ、出して」
夕暮れの校舎。
メイン校舎のはずれにある放課後の24番教室は、僕たち以外に誰もいなくて、静かだ。
つまり2人っきりだ。
彼女の様な高嶺の花、超美少女と2人っきり。
陰キャボッチデブはすぐに惚れてしまいそうになる。
(こんなトコロ誰かに目撃されたらタイヘンだ……)
いかんいかん。デブ紳士ムーブを思い出さなくては。
(なんで僕が呼ばれたんだろう。水嶋さんの目的は?もちろんクッキーしかない。だってこんな高嶺の花が僕に興味を持ってくれるなんて……あり得ない)
さっとクッキーを渡してしまって、サクッとお帰り願おう。
「私もダイエットしてるの。最近ちょっと体重が増えちゃって……」
「え、うん」
「部活とかで忙しいと、つい食べちゃうんだよね。でも、ダイエットしても効果が出なくて……だから、田中くんのクッキーが話題になってて、試してみたくて」
僕のダイエットクッキー、話題になってたんだ。
知らなかった!
「私たちダイエット仲間だね」
「え、うん」
ものすごーく大きな意味で捉えれば、同じダイエット仲間!
「これが学校中で噂になってる田中くんのダイエットクッキーなのね。食べて良い?」
「も、もちろん……」
「早く出して。誰かに見られる前に」
「う、うん」
ちょうど、持っていた(帰ってから食べようと思っていた)分を袋から取りだす。
「どうぞ」
「ありがとー、助かる」
ポク
ポク……
「はぁ……」
可愛らしく響く咀嚼音。
と、何故かため息。
ASMR音源か。
お金払いますので、逮捕はやめてください。
「想像以上に美味しい……」
「……」
彼女は、おいしいおいしいとうわ言のようにつぶやきながら、全部食べきってしまう。
流石にこの食べ方ではダイエットにならない気がするんだけど、まあいいか。
普通のクッキーに比べたらカロリーはほとんどゼロと言っても過言ではないだろう(過言です)。
「これってダイエット用のクッキーなんだよね?」
「うん」
「普通のクッキーに比べても、普通に美味しいと思う」
「ほんと?」
「才能あるんじゃないかな」
「……ありがとう」
目を合わせるのは無理。
目を反らせるのは失礼。
だから、僕は彼女の口に次々と運ばれるクッキーを見ていた。
「ゴメンね。全部食べちゃった」
「あ、全然気にしないで。この分は水嶋さん用だから。僕の分はとってあるから」
自然に視線が落ちていく。
◆
「あっこのヘアスタイル、カワイイでしょ。いまどきのシースルーフェザーバングにレイヤーカットなんだって。高校デビューで頑張ってみた」
髪を見てたと勘違いしてくれたみたい。
ギリギリセーフ。
デブ紳士ムーブを継続するぞ。
「でも、君がダイエットする必要はないと思うけどな。そのままでとても魅力的だし」
「えっ、かわいい!? そそそ、そんなことないよ。私も色んなところ引っ込めたいもん」
(かわいいとは言ってないけど、否定するのも失礼だよね)
「僕から見ると、もう十分素敵だけどね」
「えっ?///////」
鈍感な僕は、この時の水嶋さんの顔が赤く染まってることに気づいてなかった……
あれ?
紳士発言のつもりがセクハラ発言になってたらヤバい。
「じ、十分でも、もっと頑張りたいよ」
「そっか、もっと魅力的になっちゃったら、もっとナンパされちゃうかもね。僕また守れるように鍛えなきゃ」
もう自分が何言ってるかわかりません。
「また助けてくれるの?」
「もちろん。でも、1番いいのは、ナンパ野郎たちがいるところにいかない事かな」
「? それってどこかある?」
「山……とか?」
「や、山?? ウケるw」
よし。
何か分からないけど、水嶋さんの笑いを取ったぞ。
なんとなくイイ雰囲気(自己判定)になったところで、水嶋さんと別々に24番教室を出る。
思い返すと、ホント夢のような時間だった……
それが、まさかあんな展開になるなんて……(
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