第19話 新事実

「随分と威勢がいいな。【聖騎士】アルス」


 ところがどっこい。全然神聖じゃないんです。

 という冗談はさておき、聖女様を狙った犯人は俺の情報を入手しているらしい。まあ、間違ってるんだけど。


 勿論俺が体裁上【聖騎士】であることは極秘中の極秘。メイやリースなどの上位騎士、または国の政治に関わるお偉いさんしか知り得ない。

 つまりはそう簡単に情報が漏れることはないはずなんだけど、一体誰が盛大にお漏らしをしたんだ? 早漏め。


「随分と耳が早いようで。一体どこで知った?」

「それを言うと思うのか?」

「絶対言わんけど一応聞いた方が良いじゃん」

「……そうか」


 黒装束の男は、どこか困惑気味に返事をした。

 こういう手合いのヤツが情報をペラペラ喋るのはまず無い。でも聞いておかないと後々困るじゃん。俺が。

 なんで情報を聞き出さなかったとか、云々カンヌン。だから一応聞きましたよー、っていう体裁をとったわけだ。

 

「お前たちに恨みはないが仕事なんでな。【聖騎士】だろうと邪魔立てするなら殺す。だが、まあ【聖騎士】を殺せという依頼は入っていない。邪魔しないならお前は見逃してやるが?」

「冗談だろ。【聖騎士】が護衛対象見捨てるわけねーわ」


 まあ俺【性騎士】なんで可愛い女の子を守るのは当たり前だよね。下心的なアレで。

 助けたとこで聖女様が靡くとは微塵も思ってないけど。


 たださァ……折角彼女が一歩踏み出す決意をしてたとこなんだ。

 それを邪魔されて何とも思わねーほど腐ってねぇんだよ。


「愚問だったか。では殺すとしよう」


 不意打ちを防がれ、完全な対人戦になったのに漂う余裕。

 余程自分の実力に自信がないととてもじゃないがこんな物言いはできないし、気になるのは助けが全く来ない現状。

 男があまり急いでいるように見えないのも、この助けが来ない状況と関係がある可能性がある。

 例えば遮音結界を張っている。またはそれに類するスキルや魔道具。


 ってことは助っ人は見込めねぇってことか。


 現状を頭の中で整理して、目の前の男の一挙手一投足を観察し──目の前から男が消えた。


「────ッ」

「──ッは! やると思ったぜ腐れち◯こ!」


 俺は素早く横移動し、に割り込んだ。


「馬鹿め! 俺を殺す必要がないなら無駄な戦闘避けて対象を狙うのが定石なのさ!」

「それは私のセリフだ」

「知るかボケ!!」

 

 あっぶねぇ、冷や汗かいた。

 黒装束から僅かに見えた──ほんの一瞬だけ聖女様の居場所を確認した目線で、何とか俺は男の意図に気がつくことができた。

 こういう輩に正々堂々一騎打ちなんて言葉はありゃせん。依頼のための効率化を図ってくると師匠が言ってた。


 ありがとう師匠、と心の中で感謝を募らせ、交わした剣を外して横薙ぎに攻撃を仕掛けるが、バックステップで避けられてしまった。

 思ったより力はそんなにない。速度が厄介。

 おまけにナイフが掠ると終わる。

 

 神経使うなぁクソ!

 女性の胸を触るように、繊細な動きを心がけないと一発で終わってしまう。まあ、俺おっぱい触ったことないから知らないんだけどさ。


「だから敢えて攻める」


 ──キンッ、キンッと金属同士がぶつかり合う音が響き、交わす剣戟からは火花が散る。

 俺が攻めているように見えるが、男はかなり余裕があるようだった。


「……評判より強いな。あまり時間はかけたくない」

「お褒めいただき結構。もっとダンスを踊ってくれても良いんだぜ?」

「生憎と手を握るよりナイフを握る方が性に合ってる」

「野蛮人め!! 文化を大切にしろよカス!!」


 軽口を交わし合いながら冷静に攻撃を捌く男に俺は戦々恐々していた。

 そもそも俺と男じゃ勝利条件が違う。


 男は別に俺を倒さなくても聖女様を殺せば依頼完遂なわけで、その分手幅が広がる。

 逆に俺は聖女様を守りつつ、この男を捕縛しなければいけない。

 え、なんで捕縛? 殺せばええやん! って思う輩がいると思うんだけど、誰からの依頼かとか、この男の正体とか聞き出さなければならない。

 まあ、吐くわけないけど捕縛の方が都合いいわけだ。そんなこと言ってられる状態じゃねーんだけど。


「くそ、せめてお前が可愛い系暗殺者だったらやりようがあったのに」


 小さく呟きながら攻撃を仕掛ける。

 まさしく膠着状態。俺の方が力はあるが、速度がない。男は速度はあるが力はない。

 お互いに攻め手がなく、悶々とする状態だ。


 ──だからこそ、俺は男が仕掛けるなら今だと判断を下していて……それは当たっていた。


「……あまり使いたくはなかったが、お前の強さに敬意を評して使わせてもらおう。受けてみろ」

「そんな大技撃ちますよ〜、いっきまーす、みたいなノリをさせるとでも?」

「安心しろ。すぐに済む」

「……っ!」


 その言葉の後に、男は俺の剣を大きく弾き、距離を取った。

 それを見てすぐさま距離を詰めようとした瞬間、ぞっとした寒気が走るのを感じた。


 短剣を逆手に持ち、構えを取る男。

 俺が攻撃を仕掛ける前に男の技が放たれてしまう。


 男が見つめるのは俺のみ。

 野郎に視姦される趣味はありません──冗談はさておき、一切目線を動かさない男は今度こそ俺に狙いを定めてる──


「──【絶死】」


 ──わけがねぇんだよなァァァ!!!


「──【性なる盾ホーリーシールド】おおお!!」


 カキンッ……!!!

 硬質な音が響き渡り、次の瞬間には光輝く盾に阻まれた男が、部屋の壁を突き破って吹っ飛ばされていった。


 にある盾。

 驚いた表情で目の前の盾を見る聖女様が可愛いのは置いておいて、俺は読み通りにいったことにホッとしつつ声を上げて笑う。


「ふっはっは!! 馬鹿め!! 二度あることは三度あるんだよ!!」

「……驚いた。【聖女】を狙う気取りは見せなかったはずだが」


 瓦礫から這い出てきた男が、頭を擦りながら驚いたように言う。あれだけ吹っ飛ばされてほぼ無傷かよ。キモすぎるだろ。


「確かにお前の目線とか気配は、聖女様を狙う感じではなかった。でもな、お前のその聖女様を付け狙うような下心は隠せないんだよ」

「そんなもの……無いが……いや、殺気か」

「違う。下種な下心だ」

「…………まあいい。これだけ派手にやったらもう無理だろう。今日のところは勘弁してやる」


 周りに飛び散る瓦礫の残骸を見渡して、男は頭を振って姿を消した。

 逃がすとでも? ってイケメンフェイスで言おうと思ったのに。これだから戦闘のお約束を守らないヤツは困るんだよな。


「ふぅ……」


 とりあえず難は去ったと息を吐き──俺は気がついた。


 あれ、性欲消費したはずなのに例の変な状態になってない。俺は俺のままだし、未だグツグツと煮え滾るような性欲がバッキバキに存在している。


 前に性なる盾ホーリーシールドを使ったのは、レベル上げの時だったっけか? 

 

 ん? ってことはアレか?



「レベルアップで性欲も増える……ってコト!?」


 レベルアップって神の祝福って言われてんだけどさ。


 祝福穢れすぎだろ。





 

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