第17話 ふぅん、えっちじゃん
ふぅん……エッチじゃん。
まさかそんな条件を出してくるとはね。
勝ったほうの言うことを聞くって言われただけですぐにエロいことを考えちゃうのは仕方ないよな。童貞の性だもん。
でもこういう時って多少なりとも頬赤らめたり、えっちなことはダメですよっ! とか言うパターンじゃねぇの?
至ってシリアス顔なんですけど!?!?
ダメだ……ここで「へぇ、何でも良いの?」とか聞ける雰囲気じゃねぇ……!!!
むしろ聞かれないためにシリアス顔なのでは……?
「それだけ本気ってことか」
「ええ。負けたら私は何でも言うことを聞きましょう。……まあ、それがメリットになるかは分かりませんが……アルス様がそういったことを言うとは思いませんし……」
っしゃ言質取っぞゴラァ!!!
……ん? なんか続き言ってた? 何でも言うことを聞くって発言が嬉しすぎて記憶飛んでるんだけど。
「本気で来るなら本気で返す。負けたらなんちゃら、ってのは置いておいてな」
嘘です、めっちゃ気にしてます。ワクワクしてます。何なら俺が負けたとしても、メイからのお願い事でワンチャンあるんじゃないかな、みたいな腐った思考まで湧いてます。
とはいえ、ハイ。戦いは本気でやりますよ。
こんな真面目に俺と戦いたいなんて言ってくれてるんだ。それに応えねば男が廃る。
煩悩は一旦隅に避けて──勝つ。
俺は剣を構える。
お互いに真剣で、どちらの攻撃も当たれば怪我は免れない。模擬戦なのに真剣なんかい、とツッコまれるかもしれんけど、この修練場に大剣は無いし、技術を磨いてきたなら尚更真剣でないと発揮できないからな。
怪我を避けて強くなれるわけがねぇんだよ。
「来い」
「行きます」
メイが駆け出す。
身の丈を超える大剣を持っているとは思えない俊敏さだ。
勿論、魔力強化があるからこそできる芸当ではあるものの、重心の移動……歩法など、戦闘技術を使用しているのが分かる。
一 撃 必 殺 。
大剣は重すぎて、まともに攻撃を受ければ手首の骨がバッキリ行くし、奇跡的に受け切れたとしても体勢は絶対崩れる。
だから避ける──わけねぇぇんだよなぁ!
「っ、何を!」
突っ込んできた俺を見てメイが驚愕と疑問を顕にする。俺はニヤリと笑いながら近づく。
大剣で一番食らってはいけないのが、振り下ろした後のインパクトの瞬間。最も打撃と重撃が鋭い瞬間。
大剣本体の重さと重力を使った攻撃は、メイの使う古神流において基本であり奥義でもある。
だからこそ俺は大剣が振り下ろされる前に剣を差し込む。
まだ威力が決まりきっていない段階で剣を交わし──滑らすように受け流す。
「なっ……!」
魔力強化があるからこそ出来る暴力的な技ではある。まあ、一歩間違えれば受け損なって死ぬし。
相手が剣を振り下ろすタイミングと、力の抜ける瞬間を見極めなければ、ただ剣に突っ込んで攻撃食らうおバカさんになるのだよ。
そして──攻撃を受け流したことによって体勢を崩したメイに、そのまま袈裟斬りを仕掛ける。
「──ハァァッ!」
「くっ、まだ……ッ!!」
──マジか!! 相当無理な姿勢で避けたなおい!
てかこれ避けんのか!! すげぇ!
確実に入るはずの一撃だった。
でも避けた。体を無理やり捻って、攻撃を躱したのだ。女性だからこその柔軟性だったな。
俺がやったら腰が死ぬ。
──となると至近距離でカウンター受けるのが怖くなってくるな。生憎と俺の攻撃は何回か耐えるだろうけど、メイの攻撃は一回でも食らうとマジでヤバい。
バックステップで距離を取った──瞬間、まるでそれを見計らったかのようにメイが距離を詰めてくる。
「なるほどね」
空中を這うような動きでメイは大剣を横に振るった。……速い。
ジャンプで避けれる高さでないし、体を逸らしたところで隙が生まれるだけだ。だからといって前述の通り剣で受け切るのはほぼ不可能。
大剣の強みを上手く活かしてるのが良く分かる。
──ほなしゃがみ超えてうつ伏せになりましょか〜。
「はぁ!?」
そして、地面に当たる反動を利用して剣が通り過ぎた瞬間、即座に立ち上がる。
師匠に教わった技だ。
『お前は体の使い方が上手い。一見曲芸のような仕草でも、戦闘時に上手く活かせれば武器になるじゃろうて』
とのお言葉を貰った。
「そんな避け方あります……!?」
メイからは当然のように困惑の声が上がった。
ですよね。でも真面目にやってるんで許してください。
「──隙あり」
剣を振るった後のメイ。さすがにその隙を見逃すほど俺は愚かじゃあない。
がら空きの胴体に剣を振るい──直前でピタッと止めた。
「勝負あり、で良いかな? 俺の攻撃だと数回は耐えるだろうけど、できれば傷つけたくない」
「……分かりました。私の負けです」
メイは大剣を地面に降ろし、悔しげな表情で頷いた。……確かに技術的な部分……大剣という武器の強みを上手く活かしていたと思う。
なんというか……前までのメイにあった脳筋的な力技がほとんど無かった。
スキルを使えばまた別だろうが、結局的には本人の技術が無ければスキルすらも当たらない。
そう考えたら、メイは確実に強くなっていると思う。普通にスキルあったら俺負けるしな。
「……まだまだ研鑽が足りないようですね」
「そうかもしれねぇけど……俺も焦んないとヤバいって思ったよ」
「それは……嬉しい言葉ですね」
俺達はお互いに笑い合った。
とんでもなく可愛いです。
──この後俺の言うこと聞かせられるってマ!?
輝かしい勝負の後にこんなことをすぐ考えてしまう俺です。
俺に賢者タイムは存在しねぇのだよ。嘘かも。
意味不明にちんちん触りながら「オハヨゥ!」とかいきなり挨拶し始めるのは賢者タイムって言えんのかな。
普通に愚者だと思うんだけどさ。
「……それでは。私はアルス様の言うことを何でも聞きましょう」
「……分かった」
覚悟を決めたような表情だ。
……いや、だからそんなシリアス顔されたら困るんだって。待って、普通に良心……痛む前に性欲が勝る。
改めて見てみよう。
俺はメイを隅から隅までじっと見つめる。
「あ、あの、そんな見られたら……」
照れ顔はNo.357に加えるとして。
サラサラの美しく輝く金髪。朝日に照らされた彼女の美しい髪は、まるで世界がメイを祝福しているようだ。
加えて俺を見る金色の瞳は、途轍もなく神々しい。それがメイの神聖さを高める一助を担っている。
各パーツが完璧なのは勿論、全体的な造形美というのも素晴らしい。
顔は誰もが振り向くほど美しくもあり、どこか可愛さというのも感じられる。
更にはくびれのある腰、美しいプロポーションに、鎧がある時には分かりづらかった豊満な胸……いや、っぱい……おっぱいが今は存在感を顕にしていた。
何と美しく綺麗なんだ。
ふふ……下品で申し訳ないんですがね……ふふ、興奮、してしまいましてね。
安心しろ、まだギリギリ勃ってない。
さて、どんな願い事を──
──その瞬間、俺は自分が吐き散らしたセリフを思い出した。
『バカ野郎がッッッ!!! お前みたいな童貞が!! 美人を襲えるわけねぇだろッッッ!!!』
──そうでしたァァァ!!!
俺、童貞でしたァァァ!!! お前みたいな童貞です!! 俺が!!
…………ダメだ、俺がワンチャンスを掴めているビジョンが見えない!!!
頼む【神託者】。俺が童貞を捨てられる啓示を授かってるか教えてくれ。神もきっと俺の初体験を気にしてる。
……まあ、そんなわけねぇけど。
「あの……願い事は……」
「これを……ッッッ!!! 着けてくださいッ!」
俺は神速の動きで、懐から猫耳を取り出し、メイに差し出した。
「これは……?」
「猫耳です。これ着けてにゃあ、って言ってください」
「そんなことで良いんですか……?」
「そんなことが!!! 良いんです!!!」
「あ、はい」
俺の勢いに困惑しながら、メイは流れるように差し出した猫耳を受け取り装着した。
──こ、これはッッッ……!!
「え、えっと……にゃあ。これで……良いですか? 少し恥ずかしいのですが……」
「猫が猫語以外喋るな」
「え……にゃ、にゃあ、にゃあ」
「ふぁぁぁあああ!!!」
大絶叫大歓喜フル勃起。
最悪の語呂合わせだな我ながら。
あぶねぇ、人の言葉忘れてた。
可愛さの権化でしかない。ただでさえ可愛いメイが猫耳を着けたことによって、何というか……大衆的な萌えというか……可愛さに変わったのだ。
近寄りがたい美人に親近感を覚えた的な。
更にはその美しい声色から放たれる「にゃあ」の声。
美しいよ世界。マジで。
猫耳は世界を救うって本当なんだよね。
美しい。美しいからこそ──
「おい貴様ッ!! 私が貴様を避けてたのはお前の────何だこの状況」
「邪魔ァ、すんじゃねぇよ、このアマァァ!!」
──不意に修練場に駆け込んできたリースに殺意を覚えずにはいられなかったのである。
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