第16話 真面目モードに、俺はなる!

 猫耳着けながら説教する騎士がいるらしい。

 誰のことだろうな、一体。


 あの後、少年は俺を睨みつけながら「人を傷つけること以外での方法を探ってみる」と言い残して立ち去っていった。

 本当なら【聖女】を狙った時点でアウトなのだが、あの少年の表情なら信じれると判断した俺は見逃すことにした。

 まあ、もし実際に行動に移していたら、例えどんな事情があろうと捕まえていたけどな。流石にそこまで甘くはねぇし、普通に職務怠慢案件だろ。



 ──と言うわけで、一夜明けた今日。

 俺は随分と早起きをしてしまったため、素振りでもして体を動かそうと修練場に来ていた。


「なかなか自主練の機会無かったもんな。実戦熟してても技の確認とかしねぇと鈍る」


 欲に忠実だし不真面目な人間だという自覚はあるけど、長年の習慣からか自己の研鑽だけは手を抜かなかった。


 手で抜くことはあっても手は抜かない。

 俺はそう決めたんだ……!(迫真の表情)


「さて、ヤりますか」


 まだ空は白み始めた頃だ。ここ最近は目まぐるしい日々だったが、ルーティン化された一週間を送ってりゃ多少は慣れる。

 メイの好感度は分からんし、リースからは避けられてるし、聖女様とはまだ普通に話せてねぇけど。


「ふっ、ふっ、ふっ……!」


 ──剣を振る。

 レベルアップの件もあり、剣を振るう速度は確実に上がっている。

 着実に強くなっている。

 これなら護衛任務もポカしない限りは遂行できる───


 おっぱい。



「あぁ、クソ! ダメだったかぁッ! 惜しかったんだよなぁ!!」


 くっそ、これだから素振りってヤツは!!

 ダメだ真面目な思考が5分も保たない。


 師匠からかつて言われた『お前、雑念、すごい』の言葉。これ実際なんで分かんの? ってくらい的確な指摘でな。

 戦いの最中は然程でもねぇんだけど、素振り含む自己鍛錬してると勝手に下ネタが心の中に浮かぶんよ。

 

 あ、ちなみに知り合いの胸の大きさなんですが。

 

 メイ→デカい。着痩せするタイプ。

 リース→普通。

 聖女様→小さい。


 以上である。

 メイとリースはともかくとして、聖女様に関しては解釈一致というか……なんかさ。

 デカかったら『聖』感、無いじゃん。お前そんな至宝持ってんのに聖なる名乗れんやろ、みたいな。

 不敬とかは知りません。心の中まで規制できると思うなよ。


 え、こんなこと考えて恥ずかしくないのかって?


 恥ずかしくないですぅぅ!! 大事なことですぅぅ!! というか身近にこんな美人美少女がいてエロいこと何も考えないヤツなんているわけねぇだろ。


 よくいるんだよ。こういう言う奴。


『俺って……草食系なんだよね。知り合いのこと、そういう目で見れねぇっつーか……』


 ばぁぁぁか!!

 嘘を付くな嘘を。本当にそういう目で見てねぇならわざわざんなこと言わねぇんだよ。自白してるようもんじゃねーか。

 童貞の浅い思考レベルで物事を語るなよ。


 ……自虐じゃん。童貞イジりは己を滅ぼす。

 ダメだ。朝だからか情緒不安定だな俺。普段は結構ちゃんとした人間なのに。


「やめやめ。世の中には雑念落とすために素振りする人間がいるってのに、どうして俺は素振りする度に雑念生まれるんだか」


 なんてことを呟きながら剣をブンブンすること数分。

 不意に修練場の入口から気配を感じた。


「ん?」


 入ってきたのは──騎士団の制服に胸当てのみという軽装のメイだった。

 肩には彼女の体躯とは不釣り合いの大剣が携えられている。恐らくメイも鍛錬に来たのだろう。


「おはようございます。アルス様も鍛錬していたのですね」

「おはよう。メイ。まあな。なんか早く目が覚めたから体を動かそうかなと」

「良い心がけですね。リースも何だかんだ言いながらあなたのことを認めているようですし」

「リースが? ははっ、無い無い。隙あらば去勢する去勢するって喚くヤツだぜ?」

「きょっ……! ごほん。経緯はどうあれ、あの娘が人に執着するのは珍しいのです。騎士団の中でも浮いてきますから、アルス様にカマってもらって嬉しいのでしょう」


 そ れ は 無 い 。

 基本的に善意で考えているメイだからこそ出る思考だは。マジでそれだけは無いぞ。

 最近のリースはともかく、俺の下半身を見つめる鋭い瞳は狩人の目だ。いつでも斬り飛ばす、狩る。ぶった斬るって思考してんぞ。怖すぎる。

 

 あ、それはともかく去勢で顔赤くするメイ可愛いね〜。下ネタ耐性無いのに多分下ネタに嫌悪感無いから顔赤くするの可愛すぎるだろッ!!

 No.268に入れよか〜。


「まあ、最近は避けられてるけどな」

「私からキツく言っておいたのでこれからは大丈夫だと思います。ですがあの娘アルス様のことを『でっっ……もう巨人……ヤバい怖い』とか言ってたのですが何のことでしょうか」

「うーん、なんか見たんだろうなぁ」


 俺のムスコを見て気絶するとはイイ度胸じゃねぇか、と思ったよね。いや、度胸ないから気絶したのか。


 普段あんな感じなのにいざって時はウブなのは可愛いけど……うん、普段あんな感じだからノーカンだな。

 なぜか知らんけどアイツに萌えを感じたら負けだと思ってる。


「あ、アルス様にお願いしたいことがございまして」

「ん? なんだ?」


 ほう、俺にお願い事とは珍しい。  

 しかもメイの表情は深刻さは無いものの、至って真面目なものだった。……いやふざけた表情を見たことがないから何とも言えないけど。


 にしてもメイからお願い事とは本当に珍しいため、多少身構える。

 すると、それは予想外のことだった。



「私と──お互いスキル無しで手合わせしていただきたいのです」

「へぇ……」


 ははは、そうきたか。

 いずれそれは言われると思っていた。こんなに早いのは予想外だったけど。


 スキル無し。それは純粋に技術のみでの戦いだ。

 今やレベル差はあるものの、スキル無しだったら俺が勝つ。スキルも含めて実力だ。その点では俺はメイに"実力"で勝つことはできない。


 だがスキル無しとなれば別だ。

 当たり前の話だが、メイは技術的に見ても強い。【黒騎士】という上位職業に傲ることなく努力してきた跡が剣筋からも見える。


 それでも──職業が授与されるずっと前から死ぬ気で鍛錬を積んできた俺には敵わない。


 あの時──俺はメイに負けた。

 実戦不足。立ち回り。俺の粗さが目立つモノであったが、あの時もメイはスキルを使用していたのだ。

 それを完全に無くし、というシチュエーションかつ技術勝負なら俺が勝つだろう。


 それが分からないメイではないはずだ。

 

「勿論、技量ではアルス様に及ばないことは分かっています。ですが……あれから技術に重きを置いて鍛錬を積みました。力だけでは勝てないこともある。それをあなたに教わった。だからこそ。現時点での私の実力がどれほどのものなのか確かめたいのです」

「そういうことか。……燃えるじゃん」


 つまりは俺のことを想って努力してきたってことだろ? え、違う?

 ま、おふざけは置いておいて、誰かの目標になるってのは嬉しいことだよな。殊更にそれがメイというドチャクソ美人なら。


 こうまで言われて燃えない剣士はいない。

 完全に真面目モードになるとしますk──



「ですな、アルス様に何のメリットもないので。……勝ったほうが負けたほうの言うことを聞く、というのはどうでしょうか」



「ほう……」



 ちょっとそれは話が違ってくるんだよな。

 


 おっぱい。

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