第14話 聖女の公務

「今日の段取りを確認するために参りました」

「え、段取り? 何のこと?」


 全然違った。なんか仕事の話っぽいわ。

 なんも聞いとらんけど。


「……リースから聞いていないのですか?」

「最近アイツに避けられてるから会ってすらいないな」

「……後でお仕置きしておきます。──部屋の中に、入っても?」

「ど、どうぞどうぞ。汚い上にきったねぇパンツが鎮座してるけども……」

「パンツ……? きゃっ」


 ──きゃっ? 俺は一瞬自分の耳を疑った。

 あの、メイが? 冷静沈着で何事にも動じないメイがきゃっ? たかが穢らわしいパンチー1枚を視認しただけで?

 

 ……可愛いじゃ〜ん!!!

 そんな声出せるなら早く言えよ!! 心の準備ができてねぇーんだよ、いきなりで!!


「……ん?」


 ……アレ。待てよ?

 何で俺はあの「きゃっ」を羞恥によるものだと断定した? 勝手に固定観念で決めつけた?

 全然……というか「うわ、ナニコレきもっ」って感情の後に発生した「きゃっ」の可能性の方が高いのでは??

 

 つまり?

 折角稼いだ好感度が?


 パァッ。


「きゃぁぁぁぁっ!!! 変態っ!」

「私のセリフでは……?」


 俺は急いでメイを部屋の外に追い出し扉を締め、神速の移動でパンツや脱ぎ散らかした寝間着などを片付け──再び扉を開けた。


 そこには兜を外し、スンッとした表情で佇むメイがいた。


「ごめん。なんか色々と混乱してた」

「なんか、私もすみません」


 お互いに落ち着いたということで、改めて部屋に入れる。その瞬間、メイが一瞬赤面したように見えたが、確実に俺が都合の良いように生み出した妄想に違いないので見て見ぬ振りをした。


「それで、今日の段取りっていうのは?」

「はい──今日は聖女様の公務があります。まだ【聖騎士】については事情があり秘匿していますので、騎士として会場周辺の警備を担当していただきます。私とリースは近くに控えますので、必然的にアルス様は一人になってしまいますが……」


 なるほどな……。  

 【聖女】の公務には幾つかある。


 【聖女】が安泰であることを示す"顔見せ"。

 重症者……または病人を治療する"治療行脚"。

 職業神に感謝の祈りを捧げる"神儀"。


 この三つが【聖女】の公務であり、主に月に一度開催される。周期的にそろそろかな、とは思ったがまさか当日に言われるとは思わなかったわ。

 言えよ、リース……。


「了解。とにかく怪しいやつと聖女様を狙うやつがいないか警備するってことだろ? 俺の匙加減で色々ヤっちゃって良いわけ?」

「警備の裁量はお任せいたします。捕縛するも……殺人も……許可されておりますが……できればアルス様には殺人をいたしてほしくありません」


 メイが暗い顔で俯く。

 ……正直少し驚いた。メイはどちらかというと脳筋寄りではあるし、コストがかかるし万が一のある捕縛よりは殺人を優先すると思っていた。

 

 何と言って良いのか悩んでいると、俺を真っ直ぐに見るメイが言う。


「【聖騎士】としての憧れ……人を護ると言った貴方に人を傷つけてほしくないのです。勿論、無理にとは言いませんが……」


 ……そうか。

 多分記憶にない俺が言ったんだろうけど……なかなか良いこと言うじゃねぇか。

 好き好んで誰かを傷つける趣味はないし、今の俺の仕事は聖女様の護衛騎士。


 捕縛上等じゃねーか。


「分かったよ。元々する気もねーけど、絶対に殺人を手段に入れない。俺とメイの、約束だな」

「……っ、はい!」


 拳でグータッチ。

 茶目っ気に笑うと、張り詰めた空気が霧散し、メイもふんわりと笑みを浮かべた。



 鼻の下ですか? 伸び切ってるに決まってるじゃないですか。


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