境目の家
尾八原ジュージ
わたし
「自然豊かなふるさと」なんて、わたしにはなんの価値もなかった。どうしてもっと街中に生まれなかったんだろうと、いつも思っていた。
田舎は夜が来るのが早い。空が完全に暗くなる前に表はほとんど無人となり、そんなときにテレビを点けると、東京のどこかではイルミネーションの点灯式をやっているらしい。ライトアップされた街路樹とスマホを構える人々、別世界のような夜を背景に、アナウンサーが何か喋っている。
テレビの画面を見つめながら、わたしは自分に言い聞かせる。これは百年前の画像で、この百年の間に人類は衰退して、もうほとんどいなくなってしまったんだ、って。
そういう妄想で頭の中をいっぱいにしてから外を見ると、辺りはもうすっかり暗くなって、空と山との境界すらはっきりしない。どこかの厩舎から牛の声が聞こえてくる。わたしはひどく寂しい気持ちになる。
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