ペットボトルとして その2

真夏の都内。

ビル風吹きすさぶクッソ暑い平日の昼間のこと。

俺はいつものように、自動販売機でコーラを購入して半分ほど飲んでから、はぁっと一息つく。

いつもの喧騒に包まれたこの場所で、俺はどうやら白昼夢を見ているようだ。

21世紀まっしぐら、現代日本都内新宿のビル群の一角。

およそファンタジーの一文字すら似合ないであろう、人込み溢れる青梅街道から歌舞伎町へ向かうあたりの道のど真ん中。

車の交通量も激しい「ソコ」に、なんか変なものが鎮座していた。


それはドラゴン。


周囲のビルと同じくらいの高さの、いわゆる西洋風の黒いドラゴンが鎌首を擡げていた。

もちろん道のど真ん中。

毎度クッソ渋滞する青梅街道の西新宿付近だ。車もビュンビュン走り回っている。

しかしその車たちは、その黒い身体を何事もなく通り過ぎ、平然と走り去っていく。

もちろん歩道を行き交う人々も同様。

一部歩きスマホで前すら見ていない者もいるが、ほとんどの人はその異様な影を気にすることなく歩き去る。

そんな異物に通過されながら、巨大なドラゴンは暢気に欠伸なんかしている。


それを見ながら、俺は……あまりのことに目をぱちくりさせていた。

人間、想像できないような事態に陥ると思考が停止するらしい。

「なんだあれ。特撮か?」とか、「最近のプロモは派手だなぁ」など、とぼけたことを考えてしまう。

プロジェクターでビルに時計や動画を映す技術が、最近話題になってきてるしな。

などと考えながら、ボケーっとどラドンを見上げる俺。

先ほどまで飲んでいたコーラのペットボトルを力強く握りしめる。

半分ほど残っていた黒い液体がポチャリと音を立てる。

眠そうに欠伸をしていたドラゴンが歩くそぶりを見せたから。

割と近距離で巨大な脚が、さながら地を這う蟻に気づかないようにきれいに俺に向かって振り下ろされる。

コレに踏まれたら俺もすり抜けるのかなぁ、なんてぼけたことを考えながら、走って逃げることもできずに呆然と見つめ続ける。

鉄筋やビルが崩れてきたのなら慌てもするだろうが、ビルや人や車がすり抜ける、幻のようなドラゴンに踏まれそうになっても危機感が生まれないのか、はたまた恐怖が振り切れたのかはわからないけど。


それがどうやら俺の死因だったらしい。

痛みも感じないまま、純白の世界に意識が飲み込まれていった。

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