夜明けからの逃亡
@karudera1234
1章
第1話
「みはるさんの素敵なお客様からシャンパンを頂きました!!ありがとうございました!!」
携帯から元気な声が聞こえてくる。
僕の気持ちと裏腹にSNS上には今日も華やかな世界が広がっている。
「みはるさん今日もたくさん高いボトル入れてもらっててすごいなぁ」
ベットに寝そべりながら心からのつぶやきが溢れた。
平凡なサラリーマンの僕からしたら、こんなに頻繁にお店に行ってお金を使うなんてとてもじゃないけどできない芸当だ。
元々こういった夜の世界には縁がないと思っていたし、実際に本来は縁がないのだと今でも思っている。
自分には、夜の世界で遊ぶことには全く向いてないことがわかった。
それでも、みはるさんの魅力には抗えずお店に行けない日でも彼女のSNSを見て鬱屈したため息をこぼす日々を吐いているワケだ。
お店に遊びに行くのは、せいぜい月に1回でその時のお会計も10万円程度と年間の売り上げが億に届こうかという彼女からしたらいてもいなくても変わらない細客でしかない。
元々は会社の辞令で全国を転々としていたが、これまでの仕事ぶりが認められたのかようやく東京で仕事ができるようになった。
転勤族になって分かったことだが、女性との縁が本当になくなるのだと気付いた。
地元にこだわる人、都会にしか行きたくない人など様々だが、皆が共通しているのは“田舎に行くかもしれない男はイヤ”ということ。
お付き合いをしても、結婚などを意識するようになると彼女たちの家族たちの思惑もあり大体がお別れになってしまう。
こういった生活を長く続けているうちに女性との出会いを求めることにエネルギーを割くことができなくなってきた。
人並みに欲求はあるので、そういったときは手軽に自分でするかそういったお店にお世話になるという悲しいアラサーの日常である。
そんな時に会社の人たちに連れて行ってもらったのが歌舞伎町だった。
僕が歌舞伎町では遊んだことないことを知り、東京での夜遊びを教えてやる!と意気込んで連れてこられたキャバクラにいたのがみはるさんだった。
彼女があまりにも自分の好みだったこともあり、その場で指名し先輩たちに茶化されながらも最初から最後まで横にいてもらった。
その結果がガチ恋と言われるような状態に陥ってしまい、この有様だ。
自分だって清く正しい青少年ではないから夜の世界のことは理解している。
彼女がそばで笑ってくれること、ボディタッチがあること、たまにアプリで連絡をくれるのは全て営業で僕のことを好きでないことも理解している。
それでも彼女の笑顔を見ると嬉しくなるし、連絡があるとどうしようもなく楽しくなる。
もうどうしようもないんだ。
きっと僕の経済的な事情でお店に通えなくなるその暇でこの思いを持ったままでいるしかない。
これはそんな僕の憂鬱な日々の一部を描いたものだ。
どんな結末になるのかは見えている物語。
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