2話 メイドたちの語らい

「ねえ、どう思う?」


 ベッドが三つ並ぶ、従者の寝室にてサリーは二人に尋ねた。

 勿論その言葉の意味は、先程主に問われた言葉についてだ。

 はじめに答えたのはメリアスだった。


「とても、喜ばしい事だとは思っている。」

「だが、私などでレイ様の御相手が務まるか、不安もある。」


 はっきりと力強く言うメリアスに、ツバキが尋ねる。

「ねえメリアス。女の子同士っていうのはいいの?」


「私は彼女にとうに惚れこんでいる。」

「そのレイ様が私を求めて下さるのならば、感無量だ。しきたりも世間体よりも何もかも、私はレイ様の上にあるものはなく。そしてレイ様が私を求めて下さるのならばなんと喜ばしい事か。」


 続けて問いを投げたのはサリーだった。

「女の子同士って事に忌避感は無いの?」


「無い。」


 はっきりとサリーにメリアスは言い放つ。


「レイ様程の御方は居ない。きっと、生涯を賭けて伴侶を私が求めて、そしてその先に嫁ぎ、子を産んでも、私の心にはレイ様が在り続けるだろう。」

「その前にはたかだか性別など、さしたる問題だ。」

「第一、レイ様は王となる御方。そのような壁などなんの障害になる?」


 メリアスは、メイドとしての忠義心からそう言っているのではない。

 心の底からレイが王になると疑っていないし、そして神よりも深く敬愛している。


 メリアスの様子を見て、ツバキも口を開く。


「わたし……は。元々、故郷だと同性での婚姻は少なくなかった。」

「だから、性別はそう問題だと思っていない。」

「でも……。」


 ばつが悪そうに、まごついてから、続けた。


「レイ様をあるじとして、それから妹のように思っているけれど。」

「これが、恋愛としての好きかは、ちょっと分からない。」


 惑いながら話すツバキ。それは、複雑だが正直な心様でもあった。

 ツバキに続き、サリーも言葉を紡ぐ。


「私は、正直言って反対。」


「えっ。」

「なんだとサリー。それは、レイ様に叛逆するという事か?」


 驚くツバキと、レイに賛同していたメリアスは強い拒絶を示す。

 サリーは続けて話す。


「魔物に襲われて、そして私達は一生残る傷を負った。」

「今やカルラシード家は敵で、まともな手駒は私達三人だけ。」

「お嬢様は、私達に哀れみを以て接しているだけなんじゃ、と思えてしまうの。」


 その言葉にメリアスはぐぐ、と怯む。

 内心薄々、メリアスもまた同じように思っていたからだ。


「それに。」

「魔物から救い出した私達は、きっとまだ十歳のレイ様には格好良く映っても仕方のないこと。」

「祭りで浮かれる気分のように、浮ついた気持ちで私達を娶る、だなんて言ってしまっているのかもしれないわ。」

「レイ様は王になるかは私には分からない。けれど、レイ様は必ず大成なさる。」

「悪辣さと清廉さで真逆ではあれど、第一王子であるアクシャーダ=フォン=アーグリード殿下と同じ、頂点に立てる器であると私は思っている。」

「その時、レイ様にとって私達の存在が枷になったら?私達との約束で、将来を閉ざしてしまったら?」

「私はそれが怖いの。」

「熱に浮かされた娼婦の様な恋をするのは、乙女は皆通る道。レイ様にとっては、それは今かもしれない。」


 ツバキは黙って聞いていた。

 メリアスは時々うぐぐ、と唸りながら聞いていた。

 サリーはレイの愛慕にこの時直接答えはしなかった。

 けれど、レイを確かに慮っていた。レイの為を想い、その慕情を保留としたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る