烈氷の剣姫 ~追放された第六王女、三人の侍女を娶る為に騎士の国で王を目指す~
黒曜砕
辺境追放編
序章 3人のメイドたち
序章 元騎士メリアス
貴族の家系に生まれた少女が居た。
名を、メリアス=フォン=ゲイルチュール。
剣に愛された天才令嬢と彼女を持て囃した。
古来よりこの国、フーニカール王国では女性の長い髪には魔力が宿ると云い伝えられ、彼女もまた、艶やかな金髪をサイドテールにして束ねた少女だった。
この王国は1000年ほど前から男を中心とした社会で明確に回っている。
魔法は男女の身体能力差を埋めるとはいえ、社会的地位は未だ男性を中心としている。彼女も、王女に仕える近衛騎士などであれば男の入れぬ後宮で活躍できただろう。
しかし、彼女はそれを拒んだ。自らも騎士として王に仕えたいと銘打ったのだ。
彼女の武勇は確かなものであり、騎士団長の息子を入団試験で圧倒してしまう。
これに恐れたのは貴族達であった。
自らの作り上げた地位が盤石であるのは、男という地位の強固さも紐づいている。彼女のような女傑は、あまりにも彼らにとって目に毒であった。
して、メリアスは不義の罪で捕らえられた。
国家反逆罪。第一王子殿下を暗殺すべく手引きしたのが当時14歳であった彼女であると証拠が発見されたのだ。
しかし王子殿下は寛大な処置をなされた。
メリアスをゲイルチュール家から廃嫡すれば、その罪を不問とし、ゲイルチュール家も罪には問わぬというのだ。
この器の広い処置に王子を皆、名君・優しき賢君と褒め称え、メリアスは王侯貴族の家に仕えるという身分まで保証した立場に置かせたのだ。
……というのは、真っ赤な嘘である。
彼女を騎士という立ち場から追放すべく、王侯貴族と王族ぐるみででっちあげた嘘。
そして彼女の並外れた武勇を野に放たない為に、メイドという立場に縛り付けた。
これらを無碍にする事はメリアスの恥どころか、王の寛大な心を無碍にしたとしてゲイルチュール家そのものの恥となるのだ。
その証拠に魔法の発露を封じる『罪人の首輪』を着けさせた。これにより魔法により肉体を強化できない彼女に魔物を相手に戦う力は失われ、鉄の剣の帯剣すらも許されない。
かくしてメリアスは夢を奪われ、立場を奪われ。
王侯貴族筆頭カルラシード家、名ばかりの王位継承権を有するその末女に仕えさせられる事になったのだ。
メリアスが十六の齢の事であった。
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