最終話 生きる意味をくれてありがとう。
小さい頃、僕は一人で夜空を見上げながら、いつも疑問に思っていた。
流れていく星は、一体どこへ行き着くのだろうか、と。
もちろん、宇宙についてとか、星についてとか、重力について調べれば、その答えはあるんだろうけど。
僕はそういったことを何一つせず、ただ自分の想像に任せて、星の行き先を考えていた。
きっと、星にも意思がある。
色々なことを考えながら広大な空を駆け、やがて流れ着いた場所で思いに耽るんだ。
自分の生き様はどうだっただろう。
悔いのない道を選べただろうか。
答えは単純。
その一瞬一瞬で正解だと思う道を辿ってこれたなら、それはすべて正解だ。
たとえ辿る道の最中に悲しいことが起こったとしても、進み続けることができたなら、それはその星にとっての正解で。
その足跡こそが、まごうことのない正解。
だから、何一つ後悔なんてすべきじゃない。
自分の向かう先に自信を持てばいい。
君は教えてくれた。
この一瞬だった短い期間に、鮮明に、はっきりと。
死にたい、なんて思いを消し去ってくれるほど、強く。
「……流川さん……」
流川さんの耳が聴こえなくなってから三日。
まだ空が明るくなりきっていない時間帯。
目を覚ました僕は、隣で眠っていた彼女がベッドの上で冷たくなっているのに気付いた。
不思議と気持ちは落ち着いていた。
目の前で起こったことがすぐに現実だと認識できなかったからか、それともいずれこうなることがわかっていたからか、はたまた別の理由か。原因は何かわからない。
彼女の手を取り、手のひらに文字を書いてみても、何も反応はなかった。
諦めて、手を元の位置に戻す。
僕は左耳を下にして横になり、眠る流川さんの顔を眺め続けた。
話したいこと、話しておくべきことは全部伝えられたと思う。
彼女の話もたくさん聞けた。
悔いなんてなかった。
……でも、それは半分僕の話であって。
もしかすると、流川さんには悔いがあったのかもしれない。
ちゃんとした流れ星になれなくてごめん。
最後の最後まで、彼女は僕にそう言っていたから。
僕も返した。
ちゃんとした流れ星って何だろう、と。
流川さんの答えは簡単だ。
僕の質問に対して、願い主の願望をしっかり叶えてあげること、らしい。
だったら、それはもう叶えてもらった。
僕の願いを徐々に縮小させてしまった、とも言っていたが、まったくもってそんなことはない。
何もなく、死のうとしていた僕に、彼女は手を差し伸べてくれた。
ずっと傍にいて欲しい。
そう願った僕だけど、それもちゃんと叶えてもらったつもりだ。
たとえ君が動かなくなっても、空へ旅立ったとしても、僕の心の中で君は生き続けている。
僕が自分の手で死を選ばず、生きている限りずっと。
●○●○●○●
結局この手紙を君に渡せなかったのは、一つ後悔なのかもしれない。
でも、恐らく僕が後悔してるのなんて君は望まないだろうから、いつまでもウジウジしないでおく。
君と会って、一緒に過ごして、僕には夢ができた。
君みたいな輝かしいものじゃないけど、僕なりに本気で取り組めそうな夢だ。
それはズバリ、学校の先生になること。
学校の先生になって、少しでも多くの子の助けになりたい。
夜間学校みたいな、ああいう形式の授業を受け持つのもいいかもしれないね。
君が学校の先生なら、きっと皆に人気で、皆をその輝きで照らせるんだろう。
見様見真似だけど、僕もそんな君を見習って、どうにか頑張ってみるよ。
応援していて欲しい。
あと、これも最後に言っておきたい。
何度も口にしているし、これからもずっと言い続けるかもしれない。
僕に生きる意味をくれてありがとう。
強い姿を傍で見せてくれてありがとう。
何年後に会えるのかはわからないけど、いつかまた出会えた時は、僕も笑顔で君を迎えられるよう頑張る。
流川さん。
僕の流れ星。
本当に、本当に、ありがとう。
それじゃあ、また今度。
あの湖のように綺麗な場所で。
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