第28話 流れ星の願い事
「え……!? な、流川さん……!? い、いつからここに……!?」
眠っていたところから目を覚ますと、僕の眼前には、同じく横たわってこっちを見つめている流川さんがいた。
彼女はにこりと微笑む。
「さぁ? いったいいつからでしょう? ……って言っても、共が眠った後なのは確定だよね。答え出てるか」
「え。ぼ、僕が眠った後……?」
ふと、壁掛け時計の方を見る。
時刻は夕方の16時を指し示していた。
3時間ほど眠っていた計算だ。さすがに寝過ぎた。
「て、ていうかダメだ! 見ちゃダメ! 僕が見たら流川さんは――」
――寿命が縮まってしまう。
そう言いかけたところで止まった。
それを口にするのはどうなんだろうかと思ったし、何よりも彼女自身が全然悲しそうでも、苦しそうでもなかったから。
笑ってたし。
いたずらっぽく。
「共が見たら、私は何かな?」
「っ……」
「寿命が縮まっちゃう? 苦しくなっちゃう? それとも、不幸になっちゃうかな?」
「……」
苦し紛れに僕が黙り込んでいると、彼女は軽い感じで寝返りを打った。仰向けになる。
「のんのんだねぇ。正解は一つだけ。君に見られると、寿命が縮まっちゃうくらい。私は苦しくならないし、不幸にもならない。幸せにしかならないよ。幸せになるために人は生きてるからね」
「……本当に?」
「本当だよ。今さらじゃん。だから私は、君にもう一度この家へ来てくれるよう言った。幸せに生きたいから」
――あとね?
彼女はぽつりと言った。
「私も共のことが好き」
時が止まったような感覚。
何も言えずにいた僕は、そのまま彼女に背を向けて、彼女の続く言葉を聞いていた。
「バカだなって思う。一瞬しか光ることのできない流れ星になろうとしてたくせに、長いこと生き続けないと叶えられない幸せを願うなんて」
「……」
「でも、流れ星になって共の願い事を叶えていくうちに、私は君の笑う姿が大好きだって思い始めてた。止められなかった。この気持ちは」
「……」
「君に見つめられるだけでドキドキする。幸せになる。でも、それなのに一緒にいられる時間は、私の思いとは裏腹にどんどん減っていく」
「……」
「私は、流れ星なのに願い始めてた。どうか、少しだけでもいいから伸びて欲しい。共と一緒にいられる時間、共と何気なく会話してる時間、共と一緒に……触れ合える時間が」
「……っ」
「……けど、ダメだった。私は流れ星だから。流れ星は、流れ星に願いを聞いてもらえないからね」
無意識のうちに握りしめていた拳が震える。
だけど、震えていたのは僕の拳だけじゃない。彼女の声もだった。
「……流川さんは……さ……」
しゃがれて、途切れ途切れになる僕の声。
でも、それを彼女は確かに受け取り、反応してくれる。
僕は続けた。
「他に……願い事とか……ある? 病気が無くなること……以外で……」
「病気が無くなること以外……?」
「うん……教えて欲しい……」
「……私は……」
それは、あの日君と出会った瞬間からの恩返しで。
地上から君を見上げる僕の、唯一できることで。
「共と一緒に色んなことをしたい。死んじゃう直前まで」
僕は頷く。
頷いて、君の方へ体の正面を向けた。
「なら、僕はそれを叶えるよ。流れ星の願いを叶える、君だけの流れ星になる」
流川さんは微笑んだ。
涙の浮かんだ顔で、確かに僕のことを見つめながら。
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