第24話 無差別PK 2

 クロウ、キララにそう呼ばれた男は、乱暴にリボルバーを懐にしまった。キララはくすくすと笑った。すると、店の扉が開いて今度はカガミが入ってきた。


「らっしゃっせー」


「キララ、よかった。あんたを探してたんだ、近頃この自由都市フリードで『キララはどこだ』と聞いて回ってる変質者が居るって噂になっててな。男の特徴は、黒いボロボロのロングコートに、黒い中折れ帽子、そして、黒い、ペストマスク……」


 キララの前に立つロングコートに帽子を被ってペストマスクをした男を見て、カガミは叫んだ。


「コイツだ! コイツ! コイツがあんたのことを探し回ってる変質者だ!」


「誰が変質者だアアアアアアアア!! 貴様アアアアアアアア!!」


 キララはけらけらと笑った。


◆◇◆


 キララは自分とクロウの関係について手短に話した。


「────で、このクロウ君は、ここ四年間のHELLZONEの大会でずーっと優勝してるの。まともな撃ち合いなら私より強いかもね」


「当然だ! こそこそ隠れて不意打ちばかりの卑怯者に、俺が正面戦闘で負けるワケないだろう!」


 カガミとナナホシは開いた口が塞がらなかった。


「ち、ちょっと待ってくれ。HELLZONEって確か、総プレイ人口1億人くらい居たよな? その1億人の中の、トップ2が今ここに居ると? あんたらそう言うつもりなのか?」


「大げさな言い方だね、まぁそういうことになるけど」


 カガミは頭を抱えた。


「で、クロウはなんでキララを探してたんだ?」


「クロウ君は私の大ファンだからね、私が最近HELLZONEにログインしてないのが寂しかったんだよねー。くすくす」


「違う! 俺は、この悪魔がSOOで悪さをする前に懲らしめに来たんだ!」


 そう言ってクロウは大げさにキララを指さした。ナナホシはタバコをふかしながら口を開く。


「でも、キララさんって悪さどころか、むしろ悪さをしてるプレイヤーを懲らしめて回ってるっスよ?」


「何だと! そんな馬鹿な!」


「あ、そういえば忘れてた。今日は買い取りをして欲しかったんだ」


 そう言って、キララはカウンターに大量のドロアンプルと、その他のアイテムやら何やらを広げた。


 ドロアンプルを見たクロウが嬉しそうに口を開く。


「おお! じゃないか!」


 クロウのその発言に全員が凍りつく。


「パ、パインジュース?」


「そうだ、ゲームを始めた時にもらったので、試しに飲んでみたらパイン味がして美味かったぞ! !」


 目を見開いて口を呆然と開けたナナホシが、無言で巨大な肉球型のハンマーを実体化させる。


 そして、無言でクロウに殴り掛かった。カガミが慌ててナナホシを止める。


「なっ、何をする貴様!」


「落ち着けナナホシ! 気持ちはわかる、気持ちはわかるが武器を収めるんだ────ッ!」


「止めないでくださいカガミさん! 私は! この馬鹿を殴らないと気が済まない!!!」


 キララはその様子を見て、けらけらとそれはそれは楽しそうに笑った。


◆◇◆


 クロウは店の床に正座させられて、ナナホシに『ドロアンプルはとてつもない貴重品だから、ジュース代わりに飲んではいけない』と猛烈な説教をされた。


「す、すいませんでした……」


「クロウ君は、強いけどちょっとおバカなんだよねー」


 そう言ってキララはクロウの頭をよしよしと撫でて、その手に5本のドロアンプルを握らせた。


「多分買い取ってもらえないから、このドロアンプルはおバカな初心者のクロウ君にプレゼントしてあげよう」


「ぐっ……貴様の施しなど受けてたまるか! いらん!」


 ナナホシはため息交じりにタバコに火をつけた。


「そうなんすよ、キララさん。証明書のないドロアンプルは、私のお客は買ってくれないんで買い取れないんス。ドロアンプルに飢えているノワールさんなら買い取ってくれるかもしれないっスけど、その場合キララさんがノワールさんに直接売ってあげた方がいいんでね……申し訳ないっス。あ、他のアイテムは買い取らせて頂くっス」


「大丈夫だよ。一応確認の意味で並べてみただけだから」


 そのやり取りを見てクロウは素朴な疑問を投げかけた。


「買い取ってもらえない? どういうことだ?」


 ナナホシは、これらのドロアンプルが元々は初心者狩りによって奪われた初心者のものであること、それをキララが初心者狩りから奪ったものであること、ナナホシが取引をしているプレイヤーの多くは、盗品を買わないプレイヤーであることを説明した。


「なっ……キララが初心者狩りを粛清して回ってるだと……!?」


 カガミは何か思い出したように口を開く。


「そうだ。そういえばキララに、とっておきの獲物の情報があるんだった」


「とっておきの獲物?」


「そうだ」


 そう言って、カガミは1枚の紙を取り出した。紙には和装をした美しい少女のイラストと、『懸賞金1000万クレジット』の文字が書かれていた。


「彼女の名は銀華ギンカ、SOOで最も有名な無差別PKプレイヤーだ」

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