無差別PK編
第23話 無差別PK 1
「があッ……! こ、この、化け物め……! 光線銃の光線を、剣で弾きやがったな!! チーター! チーターめ!」
袴姿の美しい少女は刀を鞘に納めると、たった今斬り殺した男の方へ振り返った。一つに結わえられた銀の髪が風になびき、その蒼い瞳が男を捉える。
「……そなた、近くの『わーぷぽーたる』を知らないか?」
少女は凛々しい声でそんなことを男に聞いた。
◆◇◆
初心者狩りを狩るのがすっかり日課になっていたキララは、奪った不用品を売却するために まねきねこ へ向かっていた。まねきねこの目の前にたどり着くと、中から何やら剣呑な話し声が聞こえてくるので、キララは外壁に張り付き、耳を済ませた。
店の中では、カウンター越しにナナホシと男が話していた。男は黒いボロボロのロングコートを着て、黒い中折れ帽を被り、黒いペストマスクで顔を覆っていた。
「知ってても言えないって、どういうことだ」
「どうもこうもないっスよ、お兄さん、最近巷で有名じゃないっスか。ネットストーカー紛いのことしてるプレイヤーに、おいそれと女の子の情報なんて渡せないっスよ」
「ストーカーだと! 俺は、宿敵であるあの悪魔を成敗しにきただけだ! さぁ教えろ! キララはどこに居るんだ!」
カウンターをバシバシと叩く男を無視して、ナナホシはタバコに火をつけた。
「む……ホールモールか! いいタバコだ、お前、中々見どころがあるな」
「普段はSEVEN STELLAなんスけどね。たまには味変っス。日本では入手しにくい銘柄を簡単に吸えるのはVRのいいところっスね」
「SEVEN STELLAだと! あんな、クソ重いタバコの何がいいんだ! 健康に悪いぞ! もっと健康的なタバコを吸え!」
「ホールモールも大差ないじゃないっスか」
その時、店の扉が開いてキララが入ってきた。男は、キララを見るなり叫ぶ。
「キィラァラアアアアアアアアアアアア!」
男は懐からリボルバーを抜き放ち、キララに向けながらどすどすと歩いてきた。ナナホシは黙ってホログラムのメニュー画面を開き、プレイヤー通報ツールを起動する。
「あぁ、ナナホシさん、通報しなくて大丈夫だよ。この人ただの私のファンだから」
「そうなんスか? キララさんがそう言うならいいっスけど……」
「ファンだと! ふざけるな! この悪魔め! 俺とお前は宿敵同士であっても、馴れ合う関係じゃない!」
男はキララの額にリボルバーを突き付けながらそう言った。キララは相変わらずの無表情でけらけらと笑う。
「くすくす、私が最近HELLZONEにログインしてなくて寂しかったんだね、よしよし」
「へぇー、キララさん、HELLZONEやってたんスか」
「やってた、なんてものじゃない。コイツは直近4年間のHELLZONEのあらゆる大会の優勝という優勝を、卑劣極まりない戦法で奪ってきた、史上最悪の賞金稼ぎ、『悪魔』のキララだ!」
ナナホシの開いた口からタバコが転げ落ちる。ナナホシの反応を見てキララはくすくすと笑った。
「は、はあああ!? え、あの、強すぎて大会が成り立たないから、大会を出禁にされたとかいう!?」
「なんだ、皆結構知ってるんだね」
「そりゃ、VRゲームをやってる人間なら誰だって知ってるっスよ! はぁ……道理で強いわけだ……」
突然、キララは太もものガンホルダーのラストトリガーに手を掛ける……フリをして、自分の内太ももに手を滑らせた。キララの細い指に沿って、太ももの肉が微かに沈み込む。その艶やかな手つきに、ペストマスクの男だけでなく、ナナホシまでもが思わず気を取られてしまった。
────気づいた時には男のリボルバーの撃鉄は、キララの手で押さえられていた。
「くすくす、相変わらず同じ手に引っかかるね、クロウ君。そんなことじゃ、この前の大会みたいになっちゃうよ?」
「しまっ……キララ貴様ァ! この恥知らずめ!! 悪魔め!」
「VRの身体なんて、どこをどれだけ見られたって何も気にしないよ。だからほら、見たいとこ好きなだけ見てもいいんだよ、えっちなクロウ君。くすくすくすくす」
「きッ……貴様アアアアアアアアアアアア!!」
灰皿に落ちていたタバコをもう一度咥えるフリをしながら、ナナホシは手で赤面を隠した。
(キララさんがなんで『悪魔』なのか分かった気がする……)
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