第2話 戦争終了後

「本日をもってベクン王国はベクン魔法共和国となる! それに伴い貴族制は廃止とする! それに伴い、貴族階級であった者たちは、裁判により身の振り方を決定する。また、本日をもって平民の魔法使用による罰則を廃止する。ただし、しばらくの間原則として五級魔法のみ使用可能とする。以上。」


 それは私たちにとって死の宣告に等しいものだった。我が家は元ベクン王国で侯爵の爵位を拝しており、国境線付近の領地を治める貴族であった。


 ベクン王国の中では武闘派として知られ、魔法解放軍との戦闘にも大きく関わっていた。しかし、その戦いによって二番目の兄と三番目の兄は殺され、戦争終了後に両親と一番上の兄は私と共に戦争犯罪者として連行された。


 私の年齢は十歳と未成年であったため、未成年の者たちが集められた大部屋で過ごすことになった。その際、灰色のごわごわした服を着せられた。これが、敗者にふさわしい服装という事なのだろう。


 周りには泣きじゃくる子や、その子たちを必死にあやす者や部屋からの脱走を計画する者、覚悟を決めたような者、絶望によって抜け殻になった者など様々だ。部屋の外には衛兵が数人おり、その者たちが毎日裁判の結果を伝えてくる。


「今日の裁判の結果を伝えるぞー。今日はハート家だ。ボーデン・ハート、ワーサ・ハート、オージ・ハートはA級戦犯で死刑だ。」


 その言葉を聞いて、一人の女の子が気絶した。それを見て、その女の子の周囲は必死にその子に声をかけていた。その子が生きる意味を見失わないように。


 それにしても、今日の衛兵は嫌な奴だ。部屋に入って来た時からずっとあの子を見てにやついていた。それだけで自分の家族がどうなるかなんてすぐに検討が付く。あんな衛兵ばかりではないが、私たちに恨みを持つ人間は少なくない。


 だが、この部屋にいる限り、私たちはあの恨みのこもった悪意に晒され続ける。だから皆が明日は自分の家族の番かと怯え、そうでないことを祈るのだ。


 そんな中、私は覚悟を決めていた。今日まで一つととして、死刑でなかった一族はない。ならば私の家族も死刑だろう。何より、武闘派の一族を残しておく必要もない。


 なぜなら、わが一族が二百年以上にわたって守ってきた領地は、魔法解放軍との戦闘によって領地の戦力が手薄になったところを魔族によって滅ぼされ、民のほとんどは殺されてしまったのだから。


 この覚悟を薄情と思うのならそう思えばいい。私は決めたのだ。『家族を奪ったこの国と魔族を根絶やしにする』と。


 その目標を達成するために、私は仲間を集めるべく声をかけた。絶望に打ち勝った強き者や覚悟を決めた者、復讐を誓った者たちに。男が私、クルト、パウル、ラーム、ベン、フランツ、女がスター、ミア、フェートの九人だ。そこから私たちは、今後についての話し合いを始めた。


 これまでの歴史から考えて、私たちは無罪となる可能性が大きい。その場合、私たちに与えられる選択肢は二つ。一つ目は、平民としてこの国で暮らすこと。この場合、私たちには住居と仕事が用意されるだろう。元貴族である私たちの魔力は高く、その有用性は大きい。内戦によって疲弊している今、隣国や魔族の脅威に備える必要があるためだ。しかし、この場合必ず監視の目が付く。それでは復讐に支障が出てしまう。


 二つ目は国外追放。これは小量の金銭を持たせて国境門から追い出されるだけだ。だが、おそらく追放後に追手が来て殺される。むざむざ他国に貴族だった者たちが持つ魔力と魔法を渡すような馬鹿に、私たちが負けるはずがないからだ。


 だから絶対に追手が来る。しかし、追ってさえ回避できれば後は自由だ。私たちの復讐を果たすためには、国外追放の道しかないのだ。


 そこから私たちは様々な状況を検討し、シミュレーションを行った。幸いなことに私を含めて、国境沿いを治めていた貴族の子供たちが何人かいた為、様々な状況を話し合えた。


 話していくうちに、私たちの仲は深まっていった。その様子を見て、私たちの仲間は増えていった。途中に数人の家族が死刑判決を受けたと伝えられたが、皆で励ましあった。だが、ついにその時は来てしまった。


「今日の裁判の結果だ。元ベクン王国最北端を治める大領主、今や魔族によって自身の民を根絶やしにされた笑いもの。シュラーズ家だ。スターク・シュラーズ、ランド・シュラーズ、ブルーマ・シュラーズはA級戦犯で死刑だ。」


 その言葉を聞いて私は冷静だった。いや、怒りが頂点を超えたのかもしれない。私は冷静だった。だが、心は冷静であっても体はそうではなかった。初めてだった。魔力が制御できない状態は。


 だが心地よかった。私はまだ家族を欲していた。きっと寂しかったんだ。だから仲間を集めて、一つの目標を定めた。それで気持ちを紛らわせていただけなんだ。


 私は一人が嫌だった。家族と離れたくなかったのだ。それに気づけたことが心地よかった。


 私の魔力は暴走し、魔封じの結界によって魔力を封じられているにもかかわらず、部屋全体を私の魔力が覆った。


 部屋の中の何もかもが手に取るようにわかる。衛兵と大部屋にいる子達の驚愕した様子や怯え、仲間たちが私のことを心配してくれている様子も。魔力を通してすべてを感じることができた。


 だが、それを感じ続ける間もなく、衛兵はすぐに私の手首に着けられている魔道具を起動させ、私を昏倒させた。その後、衛兵は私を部屋から連行しようとしたそうだが、皆が守ってくれたらしい。私は良い仲間に恵まれたようだ。彼らのためにも復讐を果たそう。私は再度心にそう誓った。

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