悪魔との日常(短編)

@AI_isekai

出会い

 仕事の帰り、家の玄関を開けると、薄着の女性が立っていた。

 

「えーと、あなたは?」

 

「私の名はデイモン、魔界を統べる大悪魔の一柱でありこの世界を滅ぼしに来た者です」

 

 開口一番、いきなりそんなことを言われた俺は、間抜けにぽかんと口を開けた。


「……はい?」

 

 目の前の女性を改めて見ると彼女の背中に、巨大な黒い翼があった。作り物ではないことが、ひと目でわかるほど自由に動くそれを見て、俺は彼女が悪魔ということを直感した。

 しかし気になることが1つ、彼女の顔には隈があり、疲れているように見えたのだ。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 家の中にいる時点で、悪魔とか関係なしに不審者なのだが、俺は何を思ったのかそう声をかけた。すると、彼女は、はっと我に返った様子で返事をする。

 

「大丈夫、です」

 

「そ、そうですか……」

 

 そう言うと、彼女は俺を睨みつけた。だが、その目元にはやはり隈が浮かんでいる。よく見てみると、息も荒いようだった。


「あっ!」


 倒れそうになった彼女を介抱しようと、俺は咄嗟に一歩足を踏み出す。


 「……なにを、する気ですか」

 

 デイモンは体をびくりと震わせる。

 

「わ、悪い。何かしようってわけじゃないんだ。ただ、介抱しようと思って……」

 

 俺がそう言うと、彼女は糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。


「だ、大丈夫か!」

 

 俺は、倒れた彼女を背負って家に運び、ベッドへ寝かせることにした。


 *

 

 時間にして3時間ほどしたあと、彼女が目を覚ました。


「ん……」

 

 彼女はぼんやりとした表情で天井を見ていたが、やがて意識がはっきりしてきたのかゆっくりと起き上がった。そして俺に気付くと怯えたように俺から距離を取ろうと後ずさる。


「な……なにを」

 

「いや、具合が悪そうだったから、介抱していただけで……やましいことは何もしてない」

 

 俺がそう言うと、デイモンは戸惑ったように首を振ると、弱々しい声で言うのだった。

 

「迷惑をかけたようですね、すみません。お気遣いありがとうございます」

 

 そして深々と頭を下げた。

 当の俺は、何が何だか分かっておらず知りたいことが頭の中で反復している状態だ。

 どうして、悪魔の彼女が俺の家の玄関前にいたのか、世界を滅ぼす、というのもよくわからない。それに彼女の様子を見るに、滅ぼしにきたというよりも、何かから逃げてきたようにも思える。

 

「その、よかったら話を聞かせてもらえませんか?」

 

 俺の提案に彼女は眉をひそめたが、しばらく考えてからうなずいた。

 

「まず最初に言っておきますが、私は悪魔です」

 

「はい、それは知っています」

 

 俺はうなずく。今更疑う理由もないだろう。

 

「そして、魔界の一角を統べる大悪魔『偽りの大悪魔』です」

 

 そう言ってお辞儀をした彼女は悪魔というより天使のような清廉さと美しさを兼ね備えていた。だが、そんな神聖な雰囲気を壊すかのように彼女のお腹の音がぐうと鳴る。

 

「先、ご飯食べますか?」

 

 俺は苦笑して訊く。すると、彼女は目を輝かせてうなずいたのだった。

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