第3話 職場の男性と居酒屋で夕飯。そして……(3,297文字)

 同窓会の次の日。現在の時刻は午後六時。仕事が終わり、俺は同じスーパーマーケットで働く男性、日高一誠ひだかいっせい、年齢は二十六歳と居酒屋に晩飯を食べに来ている。


 俺は精肉コーナー。日高一誠は青果コーナーで働いている。


「斉藤さん。ホントにホント〜に、合コンは出来ないんですか? 約束したじゃないですか〜」


「無理なものは無理。それに合コンする約束はしてないだろ?」


「え〜。したじゃないですか。斉藤さん、『分かった、分かった。はいはい』って言いましたよね」


「アレはおまえがしつこいから、その場しのぎの嘘だ」


「ひど! 楽しみにしてたのに。斉藤さんの女友達、めちゃくちゃ可愛いかったじゃないですか。性格も良さそうだったし。その友達の友達も、可愛いくて性格もいいに決まってる。楽しい合コンになると思っていたのに。シクシク」


 嘘泣きをする日高一誠。嘘泣きをしながら焼き鳥を食べ、ビールジョッキのビールを飲み干すと、追加のビールを注文した。


「泣くな泣くな。適当に言った俺が悪かったって。そんなに楽しみにしてたのか。だがスマン。立花との合コンは無理だ。その代わりここは俺のおごりで良いから好きなだけ飲め。帰りもちゃんと車で送ってやるから」


 ここの居酒屋へは俺の車で来た。なので俺はノンアルコールビールを飲んでいる。


「まじっすか! ありがとうございます。さすが斉藤さん。神様みたい」


「神様みたいって大袈裟だな」


 日高一誠は追加注文をしたビールジョッキがテーブルに置かれると、それを手に取りゴクゴクと飲む。


「ぷはぁ。おごりのビールはうめぇ。ところで斉藤さん。ホントに、あの可愛い女性とは何もなかったんですか? 同窓会が終わって、立花さん? と何もなかったんですか? 実はホテルに行ってしっぽりとヤったんじゃないんですか?」


「アイツとはそんな関係じゃないって。マジで何もなかった。同窓会は途中で帰ったしな」


「でも、ホントは立花さんと何か出来ると期待してたんじゃないんですか?」


「まぁ……な。でもさ、実際は何もないぞ。現実は甘く無い」


 おそらく俺が立花に対して積極的に行動していたら、何が起きていたのかもしれない。少しの後悔があるが、しなくて良かったとも思っている。


「そっすか。ある意味良かった。斉藤さんだけ良い思いするのは悔しいですからね。あの可愛い女性が斉藤さんの彼女になったって言われたら、羨ますぎて嫉妬しまくりでしたよ。うん。ビールがうまい」


「おいおい。人の不幸を酒の肴にするなよ」


 俺も日高一誠も結婚はしていない。彼女もいない。お互いに相手に彼女ができるのは羨ましいと思っている。


「日高は昨日は何をしてたんだ?」


 昨日は店の定休日。基本的に従業員は全員休みだ。


「俺ですか? 俺の昨日は一日中競艇場にいましたよ」


「一日中ってギャンブラーだな」


「一日中って普通ですよ。パチンコやスロットでも勝ってると朝から閉店までいるでしょ? それと同じですよ」


「確かに。俺もスロットはやってたから、日高が言っていることは理解できる」


「斉藤さんも今度一緒に競艇行きましょうよ。百円から遊べますから。それにビギナーズラックが発動して勝てますよ。なので行きましょうよ」


「う〜ん。そうだなぁ……」


 日高一誠から何度か競艇には誘われていた。だけど断っていた。なぜなら俺は十八歳になってからの一年間、近所のスロット通うようになりハマっていった。当時の貯金を使い果たし日常的に金銭的に苦労した経験があった。当時の俺はこのままじゃマズイと思いギャンブルは辞めた。


「気が向いたら行くよ。ちなみに昨日は勝ったのか?」


 日高一誠はニヤリと笑う。


「言いましたよね。勝っているから一日中いると。これだけ勝ちましたよ」


 そう言って日高一誠は親指以外の四本の指を立てて俺に見せる。


「四万か? 凄いな」


「違いますよ。四十万です」


「は? 四十……万だと。凄すぎないか? 俺の二ヶ月分の給料より多いじゃないか。そんなに勝っているのに、おごらせてるのか?」


「だって斉藤さん年上じゃないですか」


「俺とおまえの仲だろ? 年齢は関係ないよな。まぁ〜。おごるって言ったからおごるけど……何だかなぁ」


「斉藤さん。俺もいつも勝ってるわけないですよ。負けてる時もあるからね。って言っても、ギャンブル人生の収支はプラスですけどね」


「おまえ、すげーな」


「斉藤さん、話変わりますけど、最近お昼に惣菜コーナーに可愛い女性が来てるの気付いてます?」


「あー、知ってる知ってる。あれでしょ? 紺の事務服着た女性だろ? 二十……五か六くらいの」


「そうです。めっちゃ可愛くないですか?」


「確かに。かなり可愛いな」


「胸もデカいし。いいですよね」


 日高一誠とは気が合う。仕事中はお互い真面目に働いているが、プライベート時はくだらない会話ばかりしている。日高一誠と知り合ったのは、近くの大学に通う日高が大学二年生の頃にアルバイトでスーパーマーケットにきた時。大学を卒業後、そのままスーパーマーケットに就職した。


「斉藤さん。俺、風呂に行きたくなってきました」


「どっちの?」


 俺はノンアルコールビール、日高一誠は生ビールを飲みながら女性の話ばかりしていた。だから日高が行きたい風呂は分かっていたが、あえて聞いた。


「男と女が二人で入る大人のお風呂に決まってるじゃないですか」


「たよね〜」


「斉藤さんも行きましょーよ」


「いや、いま俺、金が無いんだよな。昨日の同窓会の会費と高速道路代とガソリンでかなり使ったし、今日のコレで給料日まで節約なんだよな」


 日高一誠は俺の話を聞いてうんうんと頷いている。


「分かりました。俺が斉藤さんの風呂代をおごります」


「行く!」


 俺は日高一誠の提案に即決した。


「でも、条件がいくつかあります」


「何? 日高一誠さんの言うことは何でも聞きます」


「斉藤さんの車で行きましょう」


「オッケー。まかセロリ〜」


「はは、斉藤さん、ノリノリですね〜。あと今度、一緒に競艇に行きましょ」


「あ〜、それはちょっと〜」


「俺、斉藤さんと競艇に行きたいんですよ。斉藤さんと行くと楽しそうだし」


「うーむ、悪い。ギャンブルはちょっとな」


 日高一誠に俺の過去のギャンブル狂いの話をしている。今やってもハマりはしないと思うけど、自分への戒めでギャンブルは禁止している。


「いまの斉藤さんならギャンブル狂いにはならないと思いますよ。

 そうだな……よし、斉藤さん。競艇に一緒に行くならココから少し遠いけど普通は高くて行けない、高級なお風呂にアップグレーアップします。もちろん俺のおごりで。ハズレなしのS級美女しかいない天国風呂に」


「はい。競艇行きます。日高一誠様。ぜひ一緒に競艇に行きましょう。神だ。神様がココにいる」


「あはは、斉藤さん、ちょろい。じゃあ店に予約しますね。斉藤さんはどんな女性が良いですか?」


「おっぺえの大きい子でお願いします。年齢は俺と同じくらいで」


「オッケーです。俺は先に外に出ますね。店に予約の電話します」


「分かった。俺もすぐにレジへ支払いに行くよ」


 日高一誠は先に席を立ち外へ出た。俺は残っているコーラを飲み干して席を立ちレジへと向かった。


 時刻は午後七時三十分。俺は心のワクワクで変顔にならないように細心の注意を払いながら支払いを終え店を出た。


 日高一誠は店に予約をした。高速道路を使い車で一時間の距離。


 そして店に行き俺の相手となる女性に会った。事前にスマホで店のホームページで確認はしていた。口元は手で隠し、目の部分は薄くモザイク処理されていた。それでも美女だろうと分かった。スタイルもとても良かった。


 直接顔を見て気づく。俺が立花と会わなければ、同窓会の参加を断っていたら、ドタキャンしていれば……似ている女性が俺の相手だと、終始興奮状態の楽しい時間で済んだだろう。


 相手の女性も同窓会で会ってなかったら、俺が斉藤祐一に似ている男性で終わっていただろう。


 もし俺が彼女に尋ねても、人違いと言えただろう。


 俺が相手の女性に気づいたように、彼女も俺のことは気づいている。彼女の雰囲気で分かる。


 何も喋らない女性。個室で二人きりになり、俺は彼女の名前を呼ぶ。


宇華うか……だよな……」


「ユウちゃん……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る