第2話 赤いチューリップ

赤いチューリップ姫は、それはそれは

妖艶な姫でした。


女性らしい体つきを存分に見せつける赤いドレス。裾には大きなスリットが入っていて、

ちらりと覗かせる足は男性を虜にしてしまいそうでした。


赤いチューリップ姫を気に入ったのは、

宝石商でした。

高級なスーツに宝石が散りばめられた時計、

ネクタイピン。

「ほほう、こんな貧相な店には似つかわない

真っ赤なルビーのようなチューリップ。

これは、うちの店の宝石にも負けないな。」


そう言うとお付きの人に大切に運ばせました。



チューリップ姫が連れられたのは、

豪華なシャンデリアが煌めき、赤い絨毯が

敷き詰められた宝石店でした。


「みんな、見てごらん?」

そう言うと赤いチューリップ姫を見せました。


「こんなチューリップは見た事がないわ。

チューリップの王妃様って感じだわ。」

みんなは感嘆の声をあげました。


チューリップ姫はみんなが褒めたたえるのを

くすくすと笑って聞いていました。

「そうよ、私は特別なんだから。

赤い薔薇なんて、大した事ないわ。

あんなつんけんした高慢チキな薔薇なんて。

ただ、派手なだけよ。」


お付きの方は言いました。

「この美しさをそのままに残しましょう。」


「うむ、そうだな。では、いつものように

しておくれ。」


赤いチューリップ姫は

プリザーブドフラワーになりました。

枯れることはありません。

夏がきても秋がきても冬がきても

同じ姿で咲いていました。


赤いチューリップ姫はガラスのケースに

入れられてました。


「私は風も太陽も蝶も無くしたのね。

水も吸わなくていい。土から栄養を貰わなくてもいいのね。

私は生きてるの?」


赤いチューリップ姫はいつまでも、そう

いつまでもそこに同じ姿で咲かせられていました。

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