その手袋に花を添えて

主道 学

第1話

「小春ーー! 引っ越し業者さん。もう来たわよー」

「はーい!」


 私は昨日まで着ていたお気に入りのセーターを、ダンボール箱に入れると、すでに山のように入っている暖かそうな洋服でギュウギュウになった。


 他にもお気に入りの冬用の洋服はたくさんある。

 でも、服の色が全部白で統一されていて、このセーターだけがシックな黒色だった。


 一年前。高校2年生の時に、肺炎で亡くなってしまった近所に住んでいた友達と一緒に買った黒のセーター。


 街角のちょっとおしゃれな洋服店。

 イタリアン・キッドという変わった名前の海外から進出してきた洋服店で、友達と買ったことを今でも鮮明に覚えている。


 ほとんど日本人の店員だけで営んでいるのだけど、どこか外国人の雰囲気を醸し出している店員さんたち。


 まるで、イタリアに長く滞在していたかのような仕事を楽しくするその態度は、そのまま店員たちがイタリア語を話せば、店の中だけ遠い国のイタリアになったような錯覚を誰もが覚えるだろう。


 余談だけど、イタリア語で仕事はオペラというのだそうだ。


 だから、店員はいつも楽しそうだ。

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