第22話 星の管理者の聖国および魔法国訪問

 再稽古を通してクレアたちの調整を終えた後、俺ことシンはキューとともに国をまわるため、星霊峰を降りていた。


 理由は、どうしても確かめたいことがあったからだ。


「シン〜。アイツらを放っておいて大丈夫〜?」


「問題ない。あそこには最強の守り神がついている。今は戦いに備えて休を休ませないとな。それよりも……」


 俺は馬鹿弟子のルルーリエを直に見て、嫌な予感を抱いた。


 だからこそ、開戦前に自分の耳で直接、魔王以外の話を聞くべきだと判断した。


「さあ、キュー。あそこに下ろしてくれ」


「は~い」


 俺たちが降りたのは、いつも利用しているギルドのある町――キングミノタウロスの狩り場の近くにある町――から少し外れた所だ。


 さて、今日はギルドをやっているのやら……。


「ご無沙汰です、シン様」


 俺がギルドへ入ろうとした時、目的の人物がやって来た。


 その人物はいつものスーツ姿ではなく、本職の祭服を着ていた。


「……今はギルドの中じゃないから、受付の方ではないだろ。もっと力を抜け」


「お恥ずかしい。シン様専属の受付嬢をはじめて早8年、職業病というものでしょうか。シン様こそ、今日はいつもよりはるかに荘厳なお姿で」


 まあ、いつも外出で着るラフな服装ではないからな。


 藤煤竹ふじすすたけ色の胴着、黒い袴。


 誰でもジパング出身だと分かる出で立ちをしているからなぁ……。


「それで、お話を戻しましょう。シン様、今日はどのようなご用件で」


「受付の方……ではないな。聖国の女教皇、ハンナ。今からファウストを連れ、ペルシーアに行く。少々風向きが変わったからな……」


「それは、3週間前の神託に関わることで」


「それも踏まえてだ。今からティツールに行くぞ。キュー、頼む」


 キューは俺とハンナを乗せ、魔法国『ティツール』へと向かった。


 その途中で聖国『ライオス』に立ち寄った。


 ライオスは教会が所々にあり、炊き出しも行っているだからか、農業も盛んだ。


 食べ物がないと人は生きられない。だからこそ、農業を抑えている点は評価に値するのだが……。


「きゃー、神使様よ〜♡」


「はぅぅ。尊い。尊いわ……」


「神使様神使様神使様神使様神使様神使様……」


 うん。これ以上は語りたくない。


 ここはあの創造神を信仰する国。その名は伊達でなく、神使の俺は信仰者に片膝をついて祈られる始末だった。


 早く済ませてくれ、ハンナ……。


「お待たせしました。それでは、参りましょう。シン様?」


「……ああ。行こうか」


 逃げるように俺たちはライオスを発ち、次にティツールへと向かった。


 ティツールは建物が密集し、ローブを着用した人たちで溢れかえっていた。


 様々な種類の店は並び、生活魔導具――家具系やインテリア雑貨など――からアクセサリー――宝石や指輪など――まで取り揃えている様は見事としか言いようがない。


 ただ、やはり空気が悪いな。ここは開発が盛んだからか、どうしても排気ガスが出てしまう。


 満天の星空をここで拝むのは不可能だろうな。


 お、保管庫の最新バージョンがあるじゃないか。後で買いにいこう。


「着いたか」


 ティツールの中央区、学園地帯。


 才能を発掘し、磨く技術の心臓部。


 そのさらに中央の建物が、目的のティツールの城だ。


「これは、これは、ハンナ教皇様。聖国の教皇ともあろう御方が一体どのような御用でしょうか?」


 城門の前まで来た時、貴族服に身を包んだ金髪の青年がこちらに話しかけてきた。


 おっと、此奴こやつを放っておくと危ういな。


「私は今回、こちらのシン様の付き添いでしかありません」


「シン様ぁ? ハァ~教皇様。こんな魔力無しが偉大なる教皇様を付き添わせていい存在ではないし、ここに足を踏み入れさせていい存在ではありませんよ」


「ならば答えよ。今のティツールは何者のための国か? この国の長、ファウスト・ティツールはどのようにその地位まで上り詰めたのか?」


「何を当たり前な。我が国は魔法を以て――」


「不正解だ。愚か者め」


 俺は青年の脳天に一発、さやを叩き込んだ。


 まだいたのか、魔法至上主義者が。


 ――我が国は魔法を以て成り立つ魔術師のためだけの国だ。


 そんな定型句なんて、耳にたこができるほどに聞いてきたからな。


「何事!? グ、グルプィ殿。これは一体どういうことでしょうか、ハンナ教皇」


 城門の騒ぎを聞きつけた城の魔術師たちが俺たちを取り囲んだ。まあグルプィという者は身なりからして、ティツールの貴族といった所か。


「決まっております。この無神論者はシン様の気分を害された。ただそれだけでございます」


 ハンナ。答えになっていないぞ。ほら、魔術師たちの警戒度が上がっているじゃないか。


「君たちに問う。この国ティツールは……何者のための国か? 間違えたら……分かっているな?」


 俺はカチャリと脅しをかけた。それほどに、俺はこの国に思い入れがある。


 ――ファウストとともに、この国の改革に関わった身として。


「ヒィッ!? わ、我が国は未来ある若者のため、ファウスト様が一から改革して生まれ変わった国です。『魔法を以て成り立つ魔術師のためだけの国』だなんて口にしては、ファウスト様直々に刑を――」


「来たぞ、シン」


 どうやらファウストも騒ぎを聞きつけてやって来たようだ。


 丁度良い。こちらから出向く手間が省けた。


「ファウスト。もう少し人を……選ぶことだ。そこのグルピィとやら、俺の質問に対して『魔法を以て』と口にしたぞ? なぁ、ハンナ教皇?」


「はい。シン様のお言葉に偽りなどございません」


「そうか……。それは、大変に見苦しいところを見せたな。グルピィ、聞こえるか? 目は冷めておるだろう?」


「うぅ……はっ、ファウスト様。お待ち下さい。今すぐにそこの魔力無しを――」


「サンダースパーク!」


 ファウストに『魔力無し』や『魔術師のためだけの国』は禁句。


 バリバリと閃光が走り、グルピィは一瞬で真っ黒になった。


 詠唱なしでこの威力とは。


 前会った時よりさらに成長しているな。


「しばし反省しておれ! シンよ。貴殿とハンナ教皇がここに来たということは、並々ならぬ事態が起こったという解釈でよいか?」


「ああ。君たち国のトップには必ず耳に入れて欲しいことだ。そのためにも、今から場所を変えて話したいのだが、ついてきてくれるか?」


「良かろう。貴殿たち、魔術師団全体に伝えよ。『儂はしばしここを離れる』と」


 よし。これでここでの用事は済んだ。さあ、最後の目的地に行こうか。

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