第9話 メイリンの特訓レポート [メイリンside]
オレは拳闘士のメイリン。
きっかけは、オレが剣聖の噂を聞きつけてリーゼロッテにけんかを吹っかけた時だったな。
当時負けなしだったオレは天狗になっていた。そんなオレを、リーゼロッテは一撃で沈めた。
オレは一撃もリーゼロッテにいれられなかった。
あの時のリーゼロッテは、とても不満げな顔をしていた。
これだけ強いのに、まだ自分の実力に満足していない。
そしてその高みを求め続ける心が、リーゼロッテの強さたらしめるものであるに違いない。
そのことに気づいたオレは、リーゼロッテについていけばもっと強くなると確信し、戦乙女をリーゼロッテと立ち上げた。
冒険をしているうちに、オレは戦乙女の副リーダーになっていた。
勿論リーゼロッテの強さも目指していたが、それと同じくらいに戦乙女との冒険が楽しかった。
そんな退屈しない日々を過ごしたがある日、オレたちの前にある男が現れた。
シン。俺が目標にしているリーゼロッテが憧れている男だった。
その男は少年だった。魔力は全く感じず、ただ剣を腰に下げただけの小さな少年だった。
「本当に強いのか?」
そう口に出してしまうほどに、少年からは強さが感じられなかった。
だが、その認識は間違いだったことに気づいた。
オレと戦った時には使っていなかった『魔纏』。それもワイバーンを一撃で倒した技を使ったリーゼロッテを、アイツは木の棒で互角に打ち合っていた。
いや、互角どころではない。リーゼロッテを殺さないよう、極限まで手加減しながらアイツは戦っていた。
見事に隠していたのだ。
あの鬼のような猛々しい力を、それも一端すら感じ取れないレベルにまで。
そして砂煙が消えた時には、勝負はついていた。
あのリーゼロッテが地に膝をつけていたのだ。
化け物だった。
底がまるで見えない。勝てるビジョンが思い浮かばない。
アイツ、いやシンは本当にリーゼロッテの先生だった。
そう認めると久々に心が高揚した。
「オレも参加させてくれ。そもそも、リーゼロッテが強くなった理由とかめっちゃ興味あるからよ」
あのリーゼロッテの強さの秘密がついに目の前にある。
オレが待ち望んだものだ。参加しないわけがない。
そしてオレは早速、先生のヤバさを次々と目の当たりにした。
先生のペットがヤバい。
一目見ただけで、1カ月前に戦ったワイバーンより強力な魔物だと分かる。
それに、先生の住んでいる所もだ。
規格外すぎてさらにワクワクしてきた。
リーゼロッテに道場を案内された。
素晴らしい。
入った瞬間、身と心が一気に引き締まった。
ジパングにある道場にも邪魔したことがあるが、それ以上だった。
道着があるのもまたいい。
これを着て特訓するオレ、心が躍っちまう。
その後、夕食にキングミノタウロスの肉が出された。
肉はいい。筋肉をつけるにはやはり肉だ!
温泉にも入ったが、腕の筋肉痛や肩こりがすぐに治った。
これなら何の心配もなく、体を鍛えまくれるぜ!
住みたい。もうここに住んで、毎日限界まで武を極めたいぜ!
◇ ◇ ◇
最初の10日は石段の上り下りだった。
お安い御用だ。小さい頃から走り込みとかやっていたから、余裕だ。
「オレはまだまだ行けるぜ。リーゼロッテと先生は……もうあそこまで上ってやがる!」
けれど、先生やリーゼロッテはさらに余裕そうだった。だって、オレよりもう1,000段先にいるし。
負けねぇぞ。オレは絶対に、追いついてみせるからな。
そして、あっという間に10日が終わった。
結局、先生やリーゼロッテに追いつけなかった。
リーゼロッテは30往復し、それに加えてキューと毎日食後の運動までやってたし……。
けど、足腰は確実に前より強くなった。この特訓が終わったら、実戦で試さねぇとな!
◇ ◇ ◇
次の10日は素振り2,000回だった。オレらは先生から竹刀を渡された。
アンやロロはともかく、オレは剣とは正反対の道を極めようとしている身だぞ?
素振りにどんな意味があるんだ?
「先生。オレたちがここで竹刀を振ることに意味はあるのか?」
すると先生は、身体能力と酸素の関係について言及してきた。
今まで聞いたことのない内容ばかりで、頭が追いつかなかった。
けれど、先生の最後の質問でオレは先生の言わんとすることが分かった。
酸素があまりない場所で生きようとするなら、自分はどうするか?
それを考えれば、すぐに答が出た。
「まさか! 無駄な動きをしないことか。そう言えばリーゼロッテもスマートに戦っていたしな」
納得だった。オレは今まで、技を覚えることに固執していた。
そして、いつの間にか基礎を疎かにしていた。
基礎をやり直すため、ひいては今までの自分を戒めるため、オレは素振りをした。
最初は2,000回を終える前に息切れを起こしていた。息切れを起こす度、オレは酸素を効率的に使うことを意識するようになった。
呼吸をするタイミング、呼吸回数、そして酸素をいかに取り入れいかに二酸化炭素として吐き出すか。
それらを突き詰めながら素振りをした結果、オレは4日目には酸素ボンベから卒業した。
アンとロロは真っ先に飛び込んできて、オレにコツを聞いてくる。
コツと聞いても、結果的に『呼吸すべき時に呼吸する』ということしか教えられない。
それだけ、この特訓は単純なものだからだ。
そうして3人で教え合って、ついにオレたちは素振りを乗り越えた。
以前に比べて、オレの動きにキレが生まれた。
技もしなやかで、かつパワフルなものに生まれ変わったのではないかと感じた。
けれど、まだだ。まだ『ナニか』足りないものがある。
基礎を詰め直してはじめて、オレはまだ明らかに足りないものが出来ていた。
「先生。次は何をすればいいんだ?」
自分に足りない要素があるのは何となく分かる。だが、その『ナニか』の正体が掴みきれていない。
だから、オレは先生の特訓にその活路を見出そうとした。
「残り10日間は自主訓練とする」
しかし先生はもう特訓をつけないと言った。
『ナニか』が分からない。分からないから、オレは先生から課される特訓を頼みの綱にしていたのに……。
だが次の言葉で、先生の真意を理解することとなった。
「この20日間で君たちは確実に成長した。そしてそれに伴い、出来ることもまた増えたはずだ。そこでこの10日間、きちんと自己分析をし、適宜鍛錬してもらいたい」
どうやら、オレが見つけようとする『ナニか』は今一度全ての技をブラッシュアップした先にあるもののようだ。
とにかくこれ以上考えても平行線だ。
まずは明日、オレが今まで習得してきた技がどのように変わっているかを試してみるとするか。
それはそうと……。
「おい、それオレの肉だぞ、アン!」
オレの肉を取るんじゃねぇ! それと野菜を押しつけんな!
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