第7話 アンの特訓レポート [アンside]

 私は魔術師のアン。


 戦乙女に加入した時には、リーゼロッテさんとメイリンさんはもういたかな。ロロさんはまだいなかった。


 そんな先輩2人だけど、先生の道場ではいつもよりオープンになっている気がする。


 リーゼロッテさんはまるで我が家を招待するかのように道場を案内するし、メイリンさんは道場や道着を見た瞬間、テンションを上げていた。


 いつもの2人はなんかこう、周りに神経を張り巡らせて他を寄せつけない感じだし、それがデフォルトだと私とロロさんは認識していた。


 ロロさんは緊張しているみたいだね。


 それにしても、ここってジパングだっけ?


 足を踏み入れる度に、まるで海を渡った後のように感じてしまう。


 そんな私を待っていたのは、高級とされるキングミノタウロスの焼肉だった。


 聞き間違いかな?


 キングミノタウロスといったら、ワイバーンと同じでA級に分類される魔物だよね!?


 ええ!? それをキューさんがまた食べたいと言っていたから3匹狩った!?


 しかもたったの1撃で!?


 先生、リーゼロッテさん以上にヤバくね?


 ◇ ◇ ◇


 1日目。


 私たちは石段を上り下りした。目的は下半身の筋力増加で、魔物から魔法を打てる距離を取りやすくなるって。


 でも、もうそんなことはどうでもいい。昨日のキングミノタウロスの味が頭から離れない。


 後、あの先生お手製のつけダレ、最高。


 あの味を覚えたら、宿屋の味付けでは満足しなくなる。


 毎日あんな料理を食べられるなら、苦行だろうと修羅の道だろうと喜んで。

 

「ハァ……ハァ……。ちょっ、休憩しませんか」

 

 ごめんなさい。特訓舐めていました。


 私は魔術師で、リーゼロッテさんやメイリンさんが誘導してくれた魔物に向かって、いつも遠くからバンバン魔法を打っていました。


 そりゃあ、身体能力よわよわに決まっている。


 アンも私と同様、脇腹を抑えながら太ももの痛みに耐えていますな。


 メイリンはまぁ、拳闘士だし。余裕でこなせるくらい予想ついていたけど。


 余裕そうにしないで。なんか当たり前のことが出来ないように見えるからぁぁぁ!

 

 え? 石段を5往復できるのがA級の大前提!?


 初日からハードル高すぎるんですけどぉぉぉ!?


 早くも心が折れかかろうとする私ですが、ここに来てリーゼロッテさんから天啓を受けた。

 

「アン、ロロ。ちゃんと5往復できたら、夕食にキングミノタウロスの中でも希少な部位をつかったステーキを出していただけるそうだぞ」


 あ、なんだか足の疲れ感じなくなったぞ。


「え? 本当ですか、リーゼロッテさん。キングミノタウロスの希少部位と言えば、1頭から数グラムしか取れないアレですよね? ごちそうになりま~す。じゃあ、ロロさんお先」


 ごめん、ロロさん。肉は正義。それもシャトーだったらなおさらなんだ。


 待ってね、シャトー様。すぐにそちらに行くからね。


 メイリンさんの次に5往復を終えた私は、メイリンさんと温泉に入った。


 なにこの温泉!? 筋肉痛があっという間に治ったんですけど!?


 これなら、明日も筋肉痛に悩まされる必要なんてないよね。


 良かった……ってあああ! 一番シャトーがロロさんに奪われたぁぁぁ!


 ズルい! シャトーをはじめに食べるのは私だったのにぃぃぃ!


 え? 仲間だと信じていたのに裏切られた?


 ぐぅの音が出ない。これが因果応報というやつか……。


 肉でお腹を満たした私は、メイリンさんと一緒に2階の寝泊まり部屋に戻った。


 30分後、温泉から出たロロさんが戻ってきた。


 リーゼロッテさんは昨日に続いて、キューさんと喧嘩しているとか。


 剣聖とSS級魔物とのバトルですか……。


 私もいつか、そのレベルに足を突っ込むんですね。今は無理ですけど。


 肉の香ばしい香りとともに、布団に寝る。


 これこそ、ヘブンですわ。

 

 ◇ ◇ ◇


 11日目。


 石段で結構、鍛えられた感があった。だって、10日ぶりに冒険者の時の服を着てみたら、ぶかぶかだったから。


 ロロさんはなんかくびれが出来たような……。


 うーん。なんか敗北感がするな。


 朝食を食べた後、私たちは道場に集まった。


 今日から素振りをするらしい。


 先生の話をまとめると……。


 酸素をどれだけ取り入れられるかが、体力や持久力を決める。だから次は素振りで動きをなくして、なるべく疲れにくくするように矯正するとのことだ。


 理解が追いついていないけれど、私はただ1つ確信していることがある。


 先生の足元にある酸素ボンベの本数がちょっと多すぎる。


 石段の時にはなかった品物が、なんであるのか理解したくない自分がいることは理解した。


 そして、素振り……いや、地獄が始まった。


 素振りは2秒に1回!?


 速すぎるよ。


 最初は先生の言うとおり、リーゼロッテさんの動きを真似て素振りした。


 最初はついていけたよ。けれど、500回くらいから息切れし始めて、700回くらいで酸素ボンベのお世話になった。

 

「ゼェ……ゼェ……。石段の時よりキツイかも……」


 そして300回やった時、私はしんどさで横になった。


 だ、駄目だ。空気を吸っても、息苦しさが全然消えない。


 先生の言う、標高と酸素の関係ってもしかしてこれ?


 酸素ボンベ、2本目。


 あ〜、生き返るわ〜(語彙力低下)。


 よし、頑張ろう。残り1,000回。


 石段の時と違って、ノルマが増えることはない。明日は慣れで、苦しさが軽いはず。


 気合いで乗り越えて、いざ肉だ。


 あ、ご飯のために頑張っているみたいになっていますけど、これはあくまでモチベーション。


 パーティの力になりたいという決意はモノホンですよ!

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