第5話 ロロの特訓レポート [ロロside]
私は僧侶のロロと言います。
リーダーが魔物から私を助けてくれたことをきっかけに、私は戦乙女へと加入しました。
そんな私ですが、今はいつもの服装ではなく、道着というものを着用しています。
先生曰く、畳や座布団と同様、ジパングでつくられたものらしいです。
私たちも一度、ジパングに行ったことがあって、普段とは違う異色さがあったことを今でも覚えています。先生の道場に入った時も、その時と同じような印象を受けました。
先生の故郷はジパングだったりするのでしょうか……。
そんなことを考えていると、先生の説明が始まりました。
「今日から10日間、君たちにはここから石段を上り下りしてもらう。目標は下半身の筋力、とりわけ、脚力を上げることだ!」
先生の説明を聞き、私は少しホッとしました。だって、あのリーダーを強くしたという指南だから、もっとヤバいやつかと想像していましたので……。
けれど、身体能力を上げる方法ならばもっとあるのではないと疑問に感じました。なので、私がこのことについて先生に質問した所、次のように返ってきました。
「脚力が上がるメリットはあるぞ。メイリンの場合は蹴りの威力が上昇する。アンの場合は魔物から魔法を打てる距離を取りやすくなる。そしてロロの場合は、魔物の攻撃を避けやすくなる」
先生の言葉を聞いて、はっとしました。
僧侶である私の役目は仲間の補助で、主に回復や支援を任されています。敵からすれば、最初に倒しておかなければならない立場であり、自身がやられればパーティーを不利な状況へと追い込みかねません。
アンやメイリンも、私と同じように意義を見出したようです。
もしかして先生は、ただ私たちの体力や持久力を上げるだけでなく、さらに私たち自身のポテンシャルを高めようとしているのでは!?
もしそうだったとしたら、リーダーが『未だに先生の指南をまた受けたい』と口癖のように言っているのも頷けます。
そんな風に熟考している間に、私たちは石段を下り始めした。
風が気持ちいい。
山の中なので草や花の匂いがして、リラックスできます。
こういうのでいいなら、なんとか続けられそうです。
◇ ◇ ◇
ごめんなさい。呑気に考えていました。
4往復目で、私の太ももはパンパンになりました。
普段なら魔法で回復をしていますが、先生は魔法を使ったら最初からやり直させると言っていました。
1人の身勝手な行いでパーティーは全滅することもあるとのことで、連帯責任もこの特訓で採用されています。
私の隣にはアンしかいなく、メイリンは涼しい顔をして50段先を上っています。
先生やリーダーはさらに100段先の階段を上っています。
「ハァ……ハァ……。ちょっ、休憩しませんか」
アン、ナイスです。明らかにこれはやり過ぎです。
「ゼェ……ゼェ……。み、水。水飲ませて」
私もそれに便乗します。も、もう駄目です。限界です。
「オレはまだまだ行けるぜ。リーゼロッテと先生は……もうあそこまで上ってやがる!」
メイリンはそう言うと、対抗意識を燃やしたのかさらにペースを上げていきます。
ちょっと! 私たちのこと忘れているでしょう!
仲間が危機にさらされているんですよ!
後、その涼しそうな顔がちょっとムカつきます!
「いいか! A級冒険者は、この石段を5往復できるくらいの肉体は身についていることが大前提だ! 今日の夕食は、全員がこの石段を5往復するまで用意しないからそのつもりで励めよ!」
ひぃぃぃ!? なんて絶妙な追い打ち発言!?
先生、絶対にSっ気ありますよね!?
あ、ヤバい。これが明日も、それも1往復追加されるとか地獄すぎるでしょう!
「アン、ロロ。ちゃんと5往復できたら、夕食にキングミノタウロスの中でも希少な部位をつかったステーキを出していただけるそうだぞ」
「え? 本当ですか、リーゼロッテさん。キングミノタウロスの希少部位と言えば、1頭から数グラムしか取れないアレですよね? ごちそうになりま~す。じゃあ、ロロさんお先」
ア、アンの裏切者ぉぉぉ!
苦楽をともにした仲間を切り捨てても、シャトーを選びますかぁぁぁ!
無情だ。無情すぎる。
リーダーはなんて特大な飴をアンに投下したのですか。
よりにもよって、アンの食欲に訴えるなんて!
その後、私が5往復し終えた頃にはアンとメイリンが温泉に入っていました。
先生とリーダーの2人は私の帰りを待ってくれ、しかもシャトーを最初に食べさせてくれました。
……涙が出そうになりました。
アンがズルいとか言っていますが、仲間よりも食い気を選んだあなたに言われたくありません。
当然の帰結です。
明日は筋肉痛の状態で6往復に挑まなければいけませんが、温泉が解決してくれました。
なんか霊薬に近い色をそういえばしていた気がしますが、考えすぎですね。
温泉に入った後、私は2階の寝泊り部屋にいきました。部屋にはアンとメイリンしかいなく、リーダーの姿は見えませんでした。
「ああ、リーゼロッテは食後の運動とかでキューと勝負していたぞ。やっぱ、リーゼロッテは化け物じみてるぜ」
そうだね。完全に化け物だね。
リーダーが一撃でワイバーンの首を切り落とせたのも納得の理由ですね。
私は遥か上の存在から逃避するよう、布団にもぐりました。
ああ、今日は熟睡できそうです。おやすみなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます