第50話 おっさん、ドーピングしたミスリルドラゴンをボウッと燃やす

「――――――ギャギュオオオオオオ!」



 ザーイ王子の究極ポーションで、バッキバキにパワーアップした銀トカゲ(ミスリルドラゴン)がほえる。

 もはや普通の銀トカゲではない。


 変わり種だ。


 魔界で燃やしていた時にも、これに似たのはちょくちょくいた。

 原因は分からないが、進化や突然変異したやつらのことである。


 その特銀トカゲ(特ミスリルドラゴン)が大きく口を開いて、炎を吐いてきた。



 これはちょっと熱いやつだな。



 俺は【焼却】を発動して、自身の炎を銀トカゲの炎にぶつける。


 拮抗する炎と炎。


「ば、バートスが……ブレスに対抗して【焼却】を!?」

「うわぁ~~ほんとだ~バートス様いつもと違う~あのドラゴンのブレスってヤバいの?」

「いや……わしとしてはブレスはなんだろうがヤバイと思うのだが……」



 リズとカルラにアルバートたちの声が耳に入る。


 別に俺は好き好んでトカゲの炎を浴びているわけではない。


 トカゲぐらいの炎は日常的に浴びてきたから慣れているというだけだ。

 料理人の手が分厚くなって、熱いものが持てるのと一緒だろう。


 ゴミ焼却場では大量の魔物が送られてくるのだ。トカゲぐらいで手を止めていたら完全に仕事が回らなくなってしまう。


 ただしそれにも限度がある。


 熱いものは熱い。

 変わり種の魔物たちは、一般的なレベルを逸脱していることが多い。


 今回の特銀トカゲの炎は俺の見立てだと、まあ耐えられるだろうが熱いのだ。

 ここをいい加減に対応すると、のちのケガや疲労につながる。


 こういうのを馬鹿にしてはいけないのだ。

 小さな疲労が溜まっていけば、翌日翌週と未来の働きぶりに影響するからな。


 個別に対応できてこそ一人前である。



「――――――ギャギュオギャオオオオオ!!」



 俺に自慢の炎を止められて苛立ったのか、不快の混じった咆哮をあげる特銀トカゲ。


 ふむ。


 トカゲよ。止められたと思ったのなら、それはちょっと違うぞ。



「もうちょい気合を入れるか―――フンっ!」



 俺は【焼却】の出力を少し上げる。

 拮抗していた炎だったが、俺の方が僅かに押し始めた。


 そして俺自身も一歩ずつ前進を開始。



「ギャガゥオオオ!」



 俺の接近に驚いたのか、特銀トカゲの炎に乱れが生じる。

 かまわずさらに前進する。


 俺とトカゲの距離がグッと縮まったことにより、俺の炎が特銀トカゲを取り巻き始めた。


 近づくのには理由がある。

 こいつは銀トカゲの変わり種なだけあってかなり硬い。


 外側だけ燃やすと、燃やし尽くすのにかなり時間がかかってしまう。


「よし、いくか」


 俺はさらに歩を進めて、特銀トカゲの目と鼻の先まで来ていた。


 だから完全に焼却するには―――


 ―――ザッ



「―――ギャガゥオオゲェエエ!?」



 悲痛の咆哮をあげるドラゴン。

 俺が自身に高濃度の炎を集中させて、ドラゴンの腹に突っ込んだからだ。



「ええぇ!! おっさんドラゴンの腹の中に入っていく!?」

「ふわぁあああ、なんじゃこりゃ~~もう人間の戦いじゃないぞ……」

「あのおっさんなんなんだ? 聖女様の従者とんでもねぇ!」



 まわりが何か叫んでいるようだが、これが確実なんだ。

 こいつは外側だけでなく内もミスリルで出来ているからな。


 だから内部から燃やす方が良い。


 高濃度の炎を身体にまとわせて、腹から体内に入り内部のミスリルを溶かしつつ奥へと突き進む。

 なかなかにグロテスクな状況だが、しょうがないのだ。俺だってあまりやりたくはないよ。こんなのが毎日だったら気が滅入る。


 でもやらなきゃいかん時はやる。仕事だしな。


「―――ギャラァア!」


 トカゲが激しく暴れるので、進みずらい。


「―――むっ!」


 さらに体内のミスリルを伸縮して俺を潰しにかかってきた。

 四方八方から銀色の塊が俺を押しつぶそうと、空間を詰めてくる。


 流石は変わり種の特銀トカゲ。一筋縄ではいかない。


 だが―――


「体内に俺を侵入させた時点で、おまえの負けだよ――――――【焼却】」


 俺は再度【焼却】を広範囲に発動した。



 ――――――ボボボウっ!



 特銀トカゲの体内を俺の炎が駆け巡り、その硬い肉体を内部から溶かしていく。

 激しく暴れるが、俺は手を止めない。


 内部から火を通せば、全体くまなく火がまわる。


【焼却】を発動すること数分―――



「―――ギャギャギャァアアアアア!!」



 ひときわ大きな咆哮を放つトカゲ。

 これが特銀トカゲの最後の叫びだった。


 やはり内部からの【焼却】は効果てきめんだな。


「よいしょっと、これで討伐完了だ」


 溶けていくミスリルドラゴンの中から無事に出て来た俺は、ふぅっと一息ついた。


 両腕をグッと伸ばして、外の空気を吸い込む。

 狭い空間から解放されて、いい気分だ。


 俺は周りのみんなが動かないことに気付いた。


 あれ? どうしたんだみんな? 

 全員口があいているんだが。


 もしかして、討伐に時間かかりすぎたか……


「おい、リズ! どうしたんだ? これで討伐完了でいいんだろ?」



「えと……バートス。色々衝撃的なシーンが続いてみなさんが固まっているってのはあるんですが……

 ――――――取り合えず燃えてます! バートスが!!」



 うわ、俺燃えてたのか……これ久しぶりの暴走だ。




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