第40話 おっさんVS王国最強の火魔法使い

「貴殿がバートス殿か……わしはラスガルト王国魔法師団長アルバートだ」


「ああ、俺が聖女リズロッテ第一の従者バートスだ」


 うむ、なんか流れで変な名乗りを上げてしまった。


 ぶっちゃけ俺に肩書とかない。おっさんだし。

 第一の従者とか、今初めて言ったよ。


「さて、多くは語る必要もあるまい。手加減なしの全力でいかせてもらうぞ」


「ああ……こい!」


 全力かよ……


 任せろとリズに啖呵はきったものの、王国最強の火魔法使いか。

 ヤバいな。これは本気でヤバイな。


 さっきの火球はそれほど熱くはなかったが、あんなの小手調べもいいところだろう。



 などとごちゃごちゃ考えていたら、アルバートが速攻で仕掛けて来た。



「これで終わりだ!―――七重詠唱レインボーマジック

 ――――――上級火炎魔法ハイファイアーボール

 ――――――上級火炎拡散魔法ハイスプレッドファイアーボール

 ――――――上級火炎炸裂魔法ハイファイアーバースト

 ――――――上級火炎連弾魔法ハイファイアーガトリング

 ――――――上級火炎鞭魔法ハイファイアーウイップ

 ――――――上級火炎圧殺魔法ハイファイアーグラビティ

 ――――――上級火炎熱風魔法ハイファイアーウインド!!」



 なんかめっちゃ唱えた!


 そしていっぱい飛んできた!



 いろいろ俺に直撃して眼前が爆炎で真っ黒になる。


 しかしなんだろうか。


 それほど熱くないな……

 これ全力なのか?


 視界が爆炎で防がれていくなか、前方のアルバートを探す。



 ―――!? いない!!



 じいさんいないぞ!


 ―――むっ!?


 真横に気配を感じて視線を向けると。


 爆炎を切り裂いてアルバートが突っ込んできた。



「―――上級火炎剣ハイヒートソード!!」



 アルバートの手に炎の剣が現れる。

 これで終わりだ、とか言ってたくせに次弾の攻撃を仕込んでいたな。


 ―――こっちの攻撃が本命だ。


 つまり先刻の火炎魔法は煙幕みたいなもんってことか。

 どうりでたいして熱くもないわけだ。ただし爆音と煙が凄かった。


 ぶっちゃけ戦闘素人のおっさんが近接戦闘が得意なわけもなく、回避行動は間に合わない。


 苦肉の策で、左腕をあげてアルバートの斬撃をなんとかガードする。


「痛てっ!」


 左腕は捨ててでも急所を守ったつもりだったが、俺の左腕はちぎれてはいなかった。

 しかしズキリと痛みが走る。鈍器で殴られたかのような。


 原理は良く分からんが、火を固めたのか?

 たぶん硬さ重視だな。熱さはまったくないから。


 凄いなこいつ。


 魔法使いのはずなのに剣術も達者とは。

 とてもじいさまの動きとは思えないぞ。


 俺の叫びに一瞬アルバートの表情が固まったような気もするが、彼はすぐに二の太刀を浴びせてくる。


「痛てっ!」


 今度は右手で防いだが、やはり痛いなこれ。


 アルバートが「馬鹿な……」と呟いたような気もするが、それどころじゃない。

 こんなの何発も喰らったら、両腕が死んでしまう。


 アルバートは炎からあの剣を生み出したようだ。


 てことは―――



 おっさんもやってみよかな。



 え~~と。【焼却】を発動してと。


 ―――ボウッ!


 これを剣のように凝縮するんだな。


 噴き出す炎を一つにまとめるべく、炎を操作するが―――


 くっ……


 めっちゃムズい。


 集中、集中、集中!


「ぐぬぅうううう!」


 なんとか一本の棒状にまではできたが、アルバートのようにスマートにはいかない。


 おっさんこれが限界だ。


 もうできた! 出来たってことにする!



「――――――【焼却】ソード!!」



 自分で言っておいてなんだが……ネーミングがダサすぎる……余裕がある時にいい名前を考えよう。


「ば、バートス! それソードじゃないです!」

『ふわぁ……アホみたいにでかいのじゃ……』

「あたしのバートスさま、すごい……」


 ヤバイ、味方からため息が漏れているじゃないか。



「な、なんだそれは……」



 ほらぁ。アルバートも呆れてるぞ。

 俺のは剣というより丸太だ。しかも極太の。


 だが、なにも得物が無いよりは良い。

 とにかくこれでアルバートの剣に対抗できる。と、思いたい。

 素手で戦うよりはマシだろう。


 アルバートは一瞬固まった仕草をみせたが、顔色を変えると火の剣を打ち込んできた。


「―――ぬぅううん!!」


 俺はアルバートの剣にあわせて、炎の丸太を振り下ろす。


 交差する剣と丸太。


「ぬぐっ――――――!!」


 アルバートの剣は四散して、彼は後方に吹っ飛ばされた。


 あれ?


 どうしたんだ? 


 運よく弱点にでも当たったのか。



 吹っ飛ばされたアルバートは起き上がり、こちらに鋭い視線を向けて来た。

 肩で息をしている。


 さっきからずっと気になっていたのだが。


 ―――もしかして調子悪いのか?


 俺がそう思った理由は明確で、彼の炎はたいして熱くもない。

 今のところ、炎を固めた剣がもっとも痛かった。


 だが熱くはない。


 だが、かれは王国最高の火魔法使いのはず。


 なぜ得意の火魔法でガンガンこない?



 そういえばアルバートは夕食後にお邪魔したとか言ってたが、晩飯食べてないんじゃないか。

 それは絶対にしてはいけない行為だ。


 俺は前の職場では絶対に飯を食べていた。どんなに忙しくても朝昼夜3食きっちりだ。食べないといい仕事はできんからな。


 いずれにせよアルバートは本調子ではない。


 まあ、おっさんにはそれぐらいのハンデをもらわないとな。なにせ相手は王国最強なのだから。



「ということで―――【焼却】発動!」



 ――――――ボボボウっ!!」



 アルバートを中心に俺の炎が燃え上がる。



「ぐぉおおおお―――三重詠唱スリーマジック

 ――――――上級火炎防御ハイファイアーシールド

 ――――――上級魔法防御壁ハイマジックシールド

 ――――――魔法防御力上昇マジックディフェンスアップ!」



 アルバートの周りをドーム状の透明な壁が包み込んでいく。

 が、俺の炎はなんでも燃やすからな。


 これだけが俺の特技だ。



「ぐはぁあ……ふ、防ぎきれん! 魔力をかなり失うがやむを得ん!

 ――――――緊急転送魔法スクランブルトランスぅうう!!」



 うぉ!!


 アルバートが一瞬にして、俺の炎から離脱した。

 すこし離れた場所で片膝をついている。



 すっげぇ……一瞬で移動した。あんなんおっさんできんぞ。



 本調子ではないとはいえ、やはりこの男はとんでもないな。


 だが、切り札はおそらく火魔法だろう。


「わしに転移魔法を使わせるとは。とんでもない御仁だな」


 なんだか勝手に恐縮されているぞ、おっさん。

 だが、ちょっと気分がいい。



「どうしたこれで終わりじゃないだろう? 全力でこい! アルバート!」



「なるほど……全力のつもりだったが。

 いいだろう、わしの最大最高の魔法でけりをつけてくれる!!」



 しまった! 


 つい流れで調子に乗って煽ってしまった……



 今度こそヤバい魔法がきちゃう。





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