第30話 聖女リズロッテと教会神父
「リズ、大丈夫か!」
俺はニワトリを完全に灰にすると、すぐにリズの元へ駆けつけた。
「はい、私は大丈夫ですよ。最後は吹っ飛ばされてしまいましたけど」
「そうか、良かった。しかし凄かったな、あのデカい鏡!」
「ええ……夢中でやっただけなんですけどね。偶然にもうまくいきました」
「ハハッ、偶然なんかじゃないだろ。今までリズが頑張ってきた結果だ」
「そうでしょうか……」
「そうだ! リズは紛れもなく凄い聖女だよ」
やっぱりこの子は凄い。どんどん成長していく。
彼女には無限の可能性があるからな。おっさんとは大違いだ。
「立ち上がれるか、リズ?」
彼女の手を引くと、リズがあっと声を上げた。
リズの聖杖が折れ曲がっていたのだ。
先端についている宝玉みたいなやつも欠けている。
「仕方ないですね、年季ものですから……」
曲がった聖杖をじっと見つめて呟くリズ。
ずっと大事に使っていたからな。朝は必ず磨いていたし。
だが形ある物、いつかは壊れてしまう。
「新しいの買うか?」
「いえ、聖杖は特別で普通に売ってないんです。教会で修理できるか試してみたいです」
「ああ、もちろんだ」
「実は、昔お世話になった教会が近くの町にあるんです」
◇◇◇
聖杖は教会の特殊な洗礼をうけて作成されるらしい。
清めるという作業が入る為、一般的な武器屋では修理が出来ないとのことだ。
「わぁ~~あたし教会って行ったことないの~楽しみ~」
「そうだなカルラ。俺も初めてだ。魔界にはないからな」
「……意外です」
キャッキャッするカルラを見てリズがポツリと呟く。
「どうしたんだ?」
「いえ、魔族って教会は避けてるのかなと」
なるほど、教会と言えば神や天使を連想させる。
魔族とは真逆の存在といったところか。
「いや、そんなことはないぞ。そりゃ忌避しているやつらもいるだろうが、気にしていない魔族もたくさんいる」
たしかにかつて魔族と天使は戦争した。
今は一時和解という状態だからまったく敵対していないと言えば嘘になる。
「魔族はけっこうさっぱりしている奴が多いんだ」
まあ天使側がどう考えているのかは知らんけどね。
「そうなんですね。それもイメージとちょっと違うかもです」
「まあ少なくとも俺は気にしていない」
「あたしもだよ~~リズ~~」
「フフ、でもよく考えたら私、聖女ですしね」
「ああ、そうだな。俺たちは変な組み合わせなのかもな」
などと談笑していると目的の教会についたようだ。
「へぇ~~綺麗な建物だね~~」
「フフ、カルラ。建物自体は古いですが、ここのみなさんが毎日綺麗に掃除してますからね」
たしかにリズの言う通り年季の入った建物だが綺麗だ。毎日しっかり掃除をしているのだろう。
今も教会の出入り口で掃き掃除をしている人がいる。
「あれ~~リズ……?」
箒を持つ少女がこちらに気付いたようだ。
「お久しぶりです。シスターマリル」
「わぁ~やっぱり~~リズだ~~!」
両手を掴んで再会を喜ぶ少女2人。
リズはこの教会に2年ほどいたらしい。なんでもリズの家は代々神官を出しているらしく、その修行として来ていたらしい。
マリルという少女に案内されて、俺たちは教会に入り神父に会った。
歳は俺と同じぐらいだろうか。リズが随分とお世話になった人のようだ。
「なんと、キングコカトリスを討伐したのですか。頑張りましたね、リズロッテ」
「はい神父様、私だけの力ではありません。バートスとカルラが手伝ってくれました」
「そうでしたか。お二人がリズロッテを支えてくれているのですね。ありがとうございます」
神父さんは俺たちに視線をむけて柔らかい笑みをこぼした。
それからリズの教会にいた頃の話などでひとしきり会話を交わした俺たち。
神父さんが改めて口を開く。
「さて、随分と話し込んでしまいました。リズロッテはなにか用事があってここに来たのではないですか?」
「はい、神父様。実はこちらを見て頂くて」
リズは折れ曲がった聖杖を神父の前に出す。
「これは随分と無茶をしましたね」
「申し訳ございません。教会が私の為に作ってくださったのに」
「わたしが心配しているのは聖杖のことではありませんよ。リズロッテあなたのことです」
「え? 私ですか?」
「そうです。聖杖がここまでボロボロになるなんて、どれほどの危険を犯したのですか」
「えと……無我夢中で魔物に立ち向かっていたら。その……吹き飛ばされてしまいました」
神父が深いため息をついた。
「リズロッテ。あなたが聖女として使命を全うしようとしているのはわかっているつもりです。ですが、死んでしまったら意味はないですよ」
「……はい」
「あなたが聖女に認定されて2年ですか。随分辛い思いもしたでしょう」
「はい……神父様」
神父はリズの事情をある程度知っていたのだろう。それゆえに、リズが無茶をしているのではないかと心配しているようだ。
「神父さん、俺はリズの従者としてともに仕事をしているが、彼女はちゃんと考えて行動している。そりゃあ無茶をすることもあるが、それは前向きな無茶だ」
俺は2人の会話に割って入る。
「なるほどバートスさん、ありがとうございます。ですが彼女は聖女に認定されてから辛い日々を送っていたはずです。この子は根が真面目で責任感が強いので、全てを抱え込んでいるのではと心配なのです」
確かに、リズは神父さんの言うように色々抱え込んでいた。
「俺がリズと出会った頃は、彼女は仕事を楽しんでいない顔だった。だが―――今は違う」
少し自信を失っていただけだ。
だがリズは変わった。
「神父さん、リズは大丈夫だ。自分の力で道を切り開いている。おっさんが保証するよ」
余計な一言かもしれなかったが、俺はどうしても言いたくなったので言った。
「リズロッテ?」
神父さんがリズに視線を向ける。
彼もリズをいたずらに追い込みたいわけではない。神父の言葉には温かみが感じられるからな。リズの事を本当に案じているのだろう。
俺と神父のやり取りに終始無言だったリズが、口を開いた。
「神父様。私は少し前までは全てを諦めかけていました。いえ……諦めていました。でも、バートスが全てを変えてくれたんです」
少し俺に視線を送ってから、リズは続けた。
「バートスに出会ってようやくわかりました。私は聖女でありリズロッテであると」
リズの言葉に力がこもる。
「たしかに魔物討伐は危険な旅です。苦しい事も多いです。でも―――
――――――今がとても楽しい」
神父はリズの目をまっすぐに見て、少しばかり微笑んだ。
「わかりました。もう私からは何も言いません。良き従者さんに出会えたようで安心しました。バートスさん、カルラさん、これからもリズロッテのことをよろしくお願いいたします」
「「もちろんだ」です~」
俺とカルラは神父さんに力強く頷いた。
「さて、お説教はここまでです。こちらの聖杖はわたしが見てみます。ですが完全に修復するのは難しいかもしれません。やれるだけやってみますので、数日の時間を頂けますか?」
「はい、もちろんです。神父様」
「では教会に泊まっていってください。みんなもリズロッテとお話したいでしょうしね」
そう言うと、神父は聖杖を持って去っていた。
神父の開けたドアから、シスターたちがわっと入ってきてリズが囲まれる。
みんな再会を心から喜んでいるのだろう。
リズは今日一番の満面の笑みを浮かべた。
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