とある新聞部員との会話


 長き冬が終わると、桜舞う季節がやってくる。

 あなたは過酷な受験戦争を乗り越え、この春、兵庫県立成尾高等学校に合格することができた。

 あなたは新入生だ。入学してから、慌ただしくも数日が経った。そろそろ部活を決めなければならない頃合いになる。ひとしきりの部活は見学したが、どれも自分の思う高校生活にはしっくりこなかった。

 しかしあなたにはまだ一つだけ、見学していない部活があった。


 それは新聞部だ。

 名前の通り、作成した新聞を校内に掲載する部活だろう。あなたはあまり新聞を読むほうではないし、ゴシップに火をつける趣味がある訳でもない。

 ただ、あなたはなぜだか無性に新聞部のことが気になって仕方がなかった。

 理由は自身にもわからない。


 星が引力に導かれるように、気づけば新聞部の部室へと足を運んでいた。

 ゆっくりと部室の扉を開けると、中はこじんまりとした質素な部屋になっていた。

 どこか懐かしいような雰囲気がする。

 部屋の中央の古びた椅子には、一人の小柄な男子生徒が座っていた。彼の他に部員はいないようだ。


 すると、こちらに気づいた男子生徒が穏やかな口調で語り掛けてきた。

 






【とある新聞部員との会話】


 こんにちは。入部希望の新入生かな?

 ボクは二年の植木だよ。

 とりあえずそこに座ってもらえるかな。■■さん。ちゃんとしたおもてなしができなくてごめんね。何を隠そうこの新聞部、三年がいなくなってからは部員がボクだけなもんでさ。部費がもうカツカツなんだよ。


 君は…‥そうだね。とりあえず仮入部ってことで、いいかな?

 いきなりで悪いけど、君にはまず、いつもボクたちがどんな活動をしているかを体験してもらおうと思ってる。

 まぁそう気構えなくていいよ。

 ボクが集めた資料や記事について、ちょっと意見を出して貰ったり、考察するだけのことだから。それに記事って言っても、学生レベルのものだしね。

 ……ただ、ボクにはもう時間がないんだ。

 

 それで、記事の題材は何かって?


 ああ。それはずばり、この成尾高校に密かに伝わる、五つ怪談についてだよ。

 ほら、よくあるだろう?いわゆる学校の七不思議ってやつ。トイレの花子さんとか、動く人体模型とか、歩き回る二宮金次郎とかさ。

 ただ成尾高校のそれは、普通のものと一味違う。

 例えば、どうして七不思議じゃなくて五つ怪談なのか、とかね。


 どう?こういう話ってなんだかゾクゾクワクワクしない?

 ……なに? そうでもない?

 それは残念。


 まあそれは置いといて。この話が最も生徒の間で流行ったのは今から十数年前になるかな。それが今や、その存在すら知られていないよね。

 まあ、過去にあんな事件があったんだ。みんな忘れたくもなるか。


 記事の題材についてはそんな感じだよ。

 そこで、君にしてほしいことはたった一つ。

 ボクが集めた過去の情報をもとに、五つ怪談の謎を考察すること。高校が舞台の、ちょっとしたフィールドワークみたいなものだよ。

 

 急に色々と伝えすぎちゃったかな。

 それでも、引き受けてくれるかい?


 ……ありがとう。

 さあ、さっそく始めようか。


 キミの無事を祈っておくよ。くれぐれも、怪談には気を付けて、ね?





 【鳴尾高校 五つ怪談に関するメモ】



 一 階段男

 二 呪いの絵画

 三 楠の下のもの

 四 ナガレ先生

 五 ウツロ様

 

 

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