第1章 〜シスターズ・パニック〜

第1話 大欲情


 俺は妹に欲情した。しかも結構強めに。

 狂っている。とにかく狂っている。これ程までに人が狂うことはあるのだろうか。自分でも引くくらいに嘗てないほど狂っていた。いやほんとにやばいんだって、実の妹だぜ?いやまあ、この文章だけ見て、みんながどんなことを想像してるか分かんないけど、(おおよその予想はついているが……)でも残念、多分そっちじゃない。

「お兄、何でそんなに鼻の下のびてんの」

 この悪魔め。色欲ぶん巻きやがって……。こっちの気持ちも知らないで。

「いやいや、何でもないよ」

 平然をなるべく装い、精一杯誤魔化してみる。情けない兄です、我ながら。

「何かキモい、さっきまですごい嫌らしい顔してたよ」

 齢16にして、核心を突いてくる、我が妹ながら中々に鋭い妹だ。今日から夏休みがようやく始まったというのに、初日からこんなことになるとは……。例年の夏休みとは違った波乱の夏休みである。因みに俺は、夏でも冬でも学校から与えられた長期休暇は、基本的にだらだらと内容が特にない日々を過ごし、気付けば課題が大量に溜まっていることに焦り、猛スピードで課題を消費するという過ごし方でこれまで生きてきた。今回の夏休みもそうなると予想していたのだが、どうやらいつも通りのマンネリ長期休暇にはなりそうにない。グッバイ、俺の愛しのぐうたらライフ。

「今日これからどっか遊びにいく感じ?」

「お兄に関係ないでしょ」

 一蹴された。情けない兄です、我ながら。

「教えてくれたっていいじゃん」

「お兄、ほんとにキモい、普段そこまで話しかけて来ないのに」

 一蹴されてもめげない、兄としてのプライドがある。決して妹がこれから何処に行くのかとか、何をするのかとかそういった類のことに興味があるわけでは無い。決してな。だが、これ以上粘っても、何も得られる情報は無さそうなので、少し話題を変えてみる。

「夕飯は要る感じ?」

「要るー」

 淡白な返事が返ってくる。

「母さんに伝えとく」

「よろしくー」

 そう言って、妹はいそいそとリビングから出ていき、玄関の扉を勢いよく開けて、行ってきますも言わずに家を出て行ってしまった。何だか少し寂しい気持ちになっている俺がいた。待って、キモ過ぎないか俺。ハハッっと誰もいない家で一人、小さく笑ってみる。

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