第44話外伝(ハイドレンジア視点)
五百年経ったか、千年経ったか。
私は相変わらずここで一人、スコーンを焼いている。
時折池に一瞥をくれるけれど、眺めるほどの勇気はなく、ましてや、人間が聞こえるかもわからないメッセージをくれてやる気分にもならなかった。
だから、自分の国がどうなっているか等、知る由もなかった。
『よし、今日は上手くできたな』
ナッツのスコーンをカゴに詰めて木の下でお茶を飲もうとしたら、スコーンが手から滑り落ちた。
ぽちゃん、と池に飛び込んでしまったので
『あーあ、せっかく作ったのに』
思わずそんな言葉が出た時
「だあれ?誰かいるの?」
少女か成人女性か、私は人間の年齢がよくわからないけれど、とにかく人間の女が辺りをキョロキョロ見渡した。
『…私の声が聞こえるのか?』
「やっぱりなんか聞こえる!!なにこれなにこれぇ…ねえ、誰なの!?」
耳を押さえながら辺りを見回している。
『…私の名前はハイドレンジア。この国の神だよ。君の名前はなんて言うんだい?』
「えっと…?私の名前は、ミンミだけど…。神様…って本当?」
『そうだよ、この国を作ったんだから。敬って』
「随分偉そうねえ」
『ふふ、久しぶりに人と話したから、もう頬っぺたが疲れてきたよ』
「なにそれ。……あれ?泣いてるの?」
『え?そうかな…ぐずっ…はーっ』
「やっぱり泣いてる。どこか痛いの?神様のくせに?」
『神のくせには余計だ。ぐすっ』
「痛い痛いのおまじない、してあげるね」
『え?』
〜♪
音程が所々違うし、歌詞も意味不明だけど、これは…
『聖女の、祈り歌…』
「…?なにそれ。怪我したり風邪引いたりしたら、みんな歌うでしょ、普通。神様何も知らないじゃん」
『とことん無礼だ…』
「お祭りで歌ったりするよ。"セイジョのカンシャサイ"とか言うやつ。出店も出るし、キャンベルぶどうのジュースが配られるよ!国で一番盛り上がるの。確か、来月じゃなかったかなあ。ハイドレンジアも一緒に行こうよ」
『……君…その祭りの由来を知っているかい?』
「んー?考えたことないや。じいちゃんも知らないんじゃないかなぁ。」
それにしても、地面が見えない。
何に覆われているんだろう。
木よりも高く聳え立っている石の様な建物はなんなのだ。
千年ほっとくとこれだ。
この国は、一度作り直した方が良さそうである。
(壊すか)
「ねえ、ハイドレンジア!!白いダリアが咲いた!」
『……』
「私が育てたんだよ!感謝祭までに育てて、お祭りで持って歩くと幸運が訪れるんだよ。まだまだ咲きそうだから、これハイドレンジアにあげるよ!あれ?どうやってあげればいいんだろう?ねえ、どうやってあげれば良いの?」
ふっと笑いが漏れる。久しぶりに笑ったので、口端が切れた。
『…ああ、頂こうかな。神殿にでも供えてくれ』
「はぁーい」
ミンミが駆けて行く。
もう少しだけ、この国の行末を見守ろうと思う。
魔塔に幽閉された偽聖女なのに、今頃助けてなんて言うの? あずあず @nitroxtokyo
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