最終章

第41話赤いケープ(ルイス視点)

「聖女の感謝祭、ですか?」

「そうだ。今まで世話になった君への感謝祭だ。君だけじゃない、歴代聖女を讃える感謝祭にしよう」

そう言えば、君は断らないだろうと踏んでのことだ。

「それならば」

とはにかみながら申し出を受けてくれた。


はにかむ時、君は口に手を当てて伏し目がちに僕を見るんだ。


(どうして君は…)


「そんなに可愛いんだ…」

「き、急になんです?」

「惚れた僕の負けだ…」

「ルイス!?」


小さい肩におでこを乗せる。

「………」

君の匂いと、僅かな筋肉の震えに、キャンベルが戻ってきたと思うと、胸の奥がすごく痛い。


「もう、重たいですわ」

「……」

ぎゅっと細い腰を抱きしめた。


暫くそうしていただろうか、顔を上げるとキャンベルが微笑んだ。

それにすごくホッとさせられる。


(君が無言だとすごく不安になるんだ)


腰を抱きながら、じっと見つめる。

「さっきからどうしたのですか?」

「君は困惑しているんだろう?僕は、君がいなくなったらと思うと不安でたまらない」

「ルイス」

キャンベルは僕を力一杯抱き返してくれる。

「私、ハイドレンジアに、死んだ後も迎えに来なくて良いって言ってやりました。だから、もう二度と私はルイスから離れません。嫌だと言われても側を離れませんから」

精一杯力強くあろうとする語気を感じて、涙腺が痛くなる。

「何が、あった?何をされて、何を言われた?」

聞くつもりじゃなかったのに。僕はどうしてそんなことを聞いてしまうんだ。


「…すごく、すごくあまいスコーンを作ってくれました。それからカップに紅茶が湧いて…それから……唇を…っっ」

「うん」

「ルイスを見ながら…愛し合おうとそう言われて……」

「ッ…う、ん」

「でも!でもくちづけされましたがそれ以上のことはしてませんよ!断じて!」

「……そうか」


キャンベルは僕を心配そうに見つめて、僕の頬を指で何度も拭っている。


「ねえ、キャンベル、目を閉じて」

「え?」


必要以上にぎゅっと瞼をきつく閉じた君の肩に、赤いケープを掛けて胸の前でボタンを留めた。


「これは?」

「祖母の…前王妃のケープだ」

「赤い、ケープ…王族だけが使う…」

「そう。正式な場では、国王は赤いマント、王妃はケープを纏う。…こちらへ」


キャンベルの手を取って、大きな姿見の前に立たせた。

「わあ…すごい…」

「背中を向けてみてごらん。…ほら、背中に王族の紋章が描かれているんだ」

「これを、私に?」

「聖女の感謝祭で使うと良い。僕もお揃いのマントを纏うからな」

それはつまり、公の場で夫婦として出席するのと同義である。

キャンベルは何度も何度も振り返ったり、前に向いてみたりと、くるくるくるくる回っている。

それがあんまり可愛いから、回る君を抱き止めた。

風を孕んだスカートが、ふんわりと元に戻る。


「君の唇に触れても良いかな」


大きな瞳を隠す瞼にくちづけして、それから


「好きだ」


唇を重ねた。

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