第12話触るな(前半、サハリン王太子視点、後半、セイレン視点)
正直言って、セイレンにはがっかりした。
どこでうつったのか知らないが、結核だなんて冗談じゃあない。
セイレンが隔離されている間は大分遊ばせてもらったので、悪い時間ではなかったが。
セイレンがいないのを良いことに、王宮に何人もの女たちを呼び寄せた。
侍らせた女たちの中にキャンベルという名前の者がいた。
顔立ちは全然違う。けれども髪の毛の色が同じだ。
四つ這いを見下ろすのは、なんという優越感だろうか。
一番いじめてやった。
草臥れても、失神しても、構わずに。
他の女たちが目を背ける。逃げ出す者もいた。
それでも構わずに"それ"だけをいじめぬいてやった。
何時間過ぎただろうか、"それ"が泣いて喚いたので、急激に冷める。
「次泣いたら、お前が嫌がることを選りすぐる。分かったらさっさと続けろ」
すると今度は無表情になったので、それはそれでつまらなくなった。
「明日も励め」と言い、その日は休んだ。
次の日キャンベルは来なかった。
女たちに問いただすと、自殺したと聞いた。
本当につまらない。
セイレンが回復したので、口止め料を含む賃金を握らせて女たちを帰した。
セイレンは病に伏した数週間で信じられないくらいに痩せた。
豊満な胸はしぼみ、全体がガリガリだし、十歳は老け込んだように見える。
(あんなの抱けるかよ)
それでもセイレンは完治してからというもの、毎日私に擦り寄って来るのだ。
今の自分を鏡で見てみろと言いたくなる。
どう見ても婆だ。
まだ自分が綺麗なままのつもりなのだろう。
或いは現実が受け止められないのかもしれない。
高いヒールでふらふらと歩く姿は信じられないくらい不気味である。
それでも市民たちの「聖女様」を求める声は日増しに大きくなっていった。
バルコニーで祈り歌を歌い終えると、すかさず私の腕に絡まる。
「サハリン様ぁ。最近どうして口付けもしなくなったのですか?」
腕にまな板の胸を擦り付けて来たので、思わず振り払った。
「やめろ!穢らわしい」
音もなく床に転がる。
「どうして…」
「…どうして!?鏡で自分の姿を見てみろよ!」
チッと舌打ちして、わざと大きな靴音を立てて去った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
鏡の前、美しい私がいる。
「ねえ、私の中にいる誰か、聞こえているんでしょう?」
((もちろん。やっとセイレンから話しかけてくれたね!ワタシのことはエストと呼んでよ))
「エスト、サハリン様がね、私のことを穢らわしいというのよ。鏡で自分の姿を見てみろとも言った。あんなに愛し合って婚約したのに、なぜだと思う?」
((…可哀想なセイレン。病気で痩せてしまったからね、仕方がないよ。ワタシが力を貸してあげようか?))
「まあ!本当に!?」
((もちろんだよ。みんなが振り返る昔のセイレンに戻してあげる))
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