第7話私は偽聖女ですが?
久しぶりに鴨肉のローストを食べた。
ベリーのソースが美味しくておかわりしてしまった。
うん、と伸びをしてお昼寝をしようとベッドに潜り込む。
窓から吹く秋風が、そよそよと心地よい。
(サボンの香り)
洗濯したばかりのシーツほど気持ちの良いものはないだろう。
すぐに微睡んで、
(一時間で起きよう)
と決めたけれど、少し自信がない。
風がまた一つ吹いて、止んだ。
その時
「キャンベル!!キャンベル・ノイージア!!」
私は眠りの淵から一気に現実へと引き戻されて、ベッドから転げ落ちた。
窓に近づいて、そうっと外を見る。
(王太子…殿下…サハリン王太子殿下!!!)
壁に背をつけ、へたり込んだ。
(どうして!!!!)
隠れていても、私は確実にここにいることは知られているのだし、窓から返事をするより他にない。
梯子をかけられて侵入されたら、私の楽園が汚される。
ぐっと意を決して、窓辺に立つと大声で叫んだ。
「何か御用でしょうか!!?」
「生きていたか!!!キャンベル・ノイージア!!」
そう言われて
(死んだフリでもしておけばよかった)
などと思う。
王太子は良く通る声で叫んだ。
「至急登城せよ!!!」
私はきょとんとした。
「幽閉したのはそちらですが!?」
「こしゃくな…!!これは王命である!!!!」
「断ればどうなりますか!?」
「今すぐ梯子を掛けて、お前を連れ出すまで」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「キャンベル・ノイージアか。久しいの」
(狸ジジイ…)
私はこの人、国王陛下が嫌いだ。
王位継承権五位だった現国王が国王になれたのには少々経緯がある。
継承順位一位の前王太子が急死、二位と三位は暗殺、四位は行方知れず。
前王太子の急死以外、公に公表されてはいない。
私は聖女として何度も登城するようになってから、それとなく聞こえてきた話である。
(国王陛下は必ず裏で手回しをしている)
私は跪いて頭を垂れる。
「お久しぶりでございます。火急のご用件と伺っております。私は魔塔に幽閉される身。どのような訳があって、魔塔より呼び出されたのでしょうか」
相変わらずの、軽い声が返ってくる。
「どうだ、久しぶりに祈り歌を歌ってみたくはないか?」
「…偽聖女が歌う祈り歌など、なんの意味もありません。従って、もう歌うつもりもございません」
「そうか。儂は聞きたいがな、そなたの祈り歌」
「…それは王命ですか?」
「うん?そう重く捉えるなら捉えるが良い。バルコニーから秋桜が見られるぞ。秋風も気持ちがいいものだ」
バルコニーに出て、祈り歌を歌え、ということだ。
「恐れながら、セイレン・シャンドラ伯爵令嬢…聖女様はどうされたのでしょうか?」
「そなたは知らなくて良いことだな」
(ここで歌わなかったら、魔塔へは生きて帰れない。歌っても帰れないかも知れないのだろう)
「失礼致します」と言って、王の間から続くバルコニーへ歩み出した。
「昨夜の雨で滑るかも知れんからな、気をつけるのだぞ」
「…ご忠告に感謝します」
確かに少し濡れているらしい。
(変ね、昨日は雨なんか降らなかったのに)
この国の、王城付近だけが降ったということだろうか。
民衆からの鋭い視線が一気に集まる。
「帰れ!」「偽聖女!」「セイレン様を出してよ!」
凄まじいブーイングの嵐である。
この中で歌えなどと酷なことを言う。
(セイレンはどうしたのよ!?まさか…)
群衆の中にその姿を探したけれど、見当たらない。
(考えすぎかしら)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます