第16話 箱入り娘と現実2
前書き(時間が空いたので)
前回のあらすじ
地下室に行ったアリエスとガーネット,いろいろあって魔族に襲われる.
_________
時を同じくして外では,大量の魔方陣に囲まれているエリが,ツインテールを触りながら杖を構える魔族の方向を見ていた.
「人間の魔法使いか.」
魔族はそう言って笑った.
「殺す気満々じゃない.白々しい……少なくとも,魔王軍の役職持ちぐらいかしら.少し,気が付くのが遅れたわ.それに仕事の邪魔をされたわ.」
エリは,そう言うため息をついた.
「失礼だな.死にたくなければ,降伏しろ,命は助けてやる.俺は,博愛主義者でな.博愛主義者のアウトで有名だからな.」
魔族は,そう言うと,杖をエリの方向に向けた.
「ふっ,聞いたことないわね.有名なのは地元だけじゃないかしら?無知って言うのは怖いわね.気が付くのは遅れたって言ったけど,対処してないとは言ってないわよ.」
エリは,ツインテールを振り,そして上空を指さした.
「動くな.何もしなければお前には死なないんだぞ.」
そう,声を上げて魔法を発動しようとする,魔族を見て.エリはわざとらしく,ゆっくりと首を傾げた.
「そんな嘘に騙されませないわよ.それと終わったは.」
「何を言っ」
魔族はそう言いかけて言葉を止めた.その後の言葉をいう事が出来なかった.
「雷撃」
そのエリの言葉と連動して,雷が魔族に降り注いだ.
辺りに,雷鳴と眩しい輝きが広がり,辺りを揺らした.
魔族は,黒焦げになり,両膝をついた.魔族の集中力が切れたのかエリの周りを囲っていた魔法陣も消えていた.
魔族は,
「……」
意識があるのかないのか分からないが,ただ一点を無言で見ていた.
「……もっと良い名前は無いかしら,アリエスもセンスないしな.」
エリは,その光景を見て,ツインテールを触りながら,杖で空中に浮き,生存確認のために,魔族に近づいた.
エリと魔族の距離が2メートル程度になったころで,魔族は,立ち上がり
「……はぁあ,はぁあ.」
息を切らしながら,自身に魔法をかけて,傷を治した.
「回復魔法を,そんな器用に.まあ,そうよね.少し油断してたわ.」
エリは,首を小さく横に振り,杖を構えた.
「……人の分際で,何故だ,いつ,魔法を使った.こんな事が出来る人間なんて,まさか.貴様,勇者パーティーの魔法使い.」
(人間の魔法使いでこのレベルの実力者は勇者パーティーの魔女ぐらい.でも,何故ここに,そんな大物がいる?勇者パーティーは前の魔王様を倒して,撤退したはず.)魔族のアウトは,そう考えつつ,攻撃の隙を伺っていた.
「……違います.」
(ここは,バレてないなら嘘をついておいたほうが良いかな?まあ,騒がしくなるのは仕方ないか.アリエスのところに来たんだからそれは,仕方ないか.さっさと終わらせるかしら.)
エリは,杖を小さく動かした.
「……どちらにしろ,貴様が魔法使いということが分かった.だったら戦い方を変え.」
魔族アウトは,基本的には魔法使いであった.相棒のインと共に行動しているときは,相棒が近接戦闘を担当することから魔法を使っていたが,近接戦闘の心得はあった.一方,エリは近接戦をほとんどしたことがなかった.
地面を蹴った魔族を見ながら
「そう,まあ,それができればだけど.」
エリは,ツインテールを揺らしながら得意げに胸を張って,杖を持っていない手で指を鳴らした.
「何を言っている」
「悠長に,喋ってる間に魔法で攻撃したわ.簡単な魔法でも速さがあれば必殺の一撃になるのよ,」
エリに攻撃が当たる手前で複数の光の矢が四方八方から魔族を突き刺した.
「ぐっふふ.」
魔族は,全身を貫かれて,血を吐きながらその場で両膝をついた.
(魔法をいつ,発動した.速すぎる.見えない.何だ,この人間.絶対に勝てない.そもそも,この人物は敵なのか?魔族の味方を人がするか?)
「聞きたいことがあるんですけど.良いかしら.」
立てずにいる魔族を見てエリは,自分の仕事の続きをすることにした.
「貴方は,ガーネットの味方か.」
「何で,そっちが聞くのかしら?まあ,敵ではないわね.」
「……何故だ?人が何故,魔族の味方をする.」
(理由次第では,敵対より勧誘がましだ.こんな相手,魔王軍の四天王クラスの人物を連れてこないとどうしようもないだろ.あの人が来ないと俺らの手に負える相手じゃない.)
魔族アウトは冷静だった.流石に力の差を認識していた.
エリは,魔族の言葉に一瞬のためらいもなく答えを返した.
「私は,アリエスの味方よ.アリエスがガーネットを助けるなら,私も助けるは,それだけよ.魔族とか人とかどうでも良いわ.」
「……」
魔族は,目を見開き,小さく震えていた.
その時,爆音が周辺に響き渡った.それから,煙とともに何かが少し先の地面に激突して砂ぼこりが舞った.
周辺をよく見直すと,前線基地の一部に風穴があいており,その風穴に人影があった.
「ヤバい.やり過ぎた.インさん,生きてますよね.」
その風穴からそんな,アリエスの声が聞こえた.
「アリエス……」
「ああ,エリ.聖剣を見つけました.後は,居場所を聞き出せば.」
「うん?それは,後で話をしましょう.あとさっきの話,……聞いてないわよね.アリエス」
「何がですか?」
「なら良いわ.さっさと捕まえて聞きましょうかね.」
エリは,いろいろ言いたいことを抑えて,杖を魔族に向けた.
その空いた風穴から下を除いたガーネットは小さく手を叩いた.
アリエスとエリが倒した二人は,追手の主戦力だったのだ.
「……アリエス.それは勇者の名前.やはり,お前は.それに,俺の相棒が.」
魔族は,小さく震えていた.勝てないことを悟っていた.舌を嚙む用意をしていた.
「…まあ,死なない程度に気絶させるわ.命は奪わないわよ.博愛主義だから私.」
エリは,そう言ってドヤ顔を決めた.エリが魔法を放った.その魔法は真っすぐ,アウトに飛んだが,魔法防御に防がれた.その場にいたアウトにもインにも,ダメージの状態的に魔法防御を張ることなど出来ないはずだった.
魔法の激突によって出来た砂埃の中から剣を持ち騎士姿の目が真っ黒な少女が現れた.
「それは,遠慮させて貰おうか.勇者と魔女,久しぶりだな.あの魔法使いどもはそういう意味か.はは,ざまあねえな.」
荒々しい声でそう言って二人を笑った.
「「誰ですか?」」
エリとアリエスは見覚えなのない人物にそう首を傾げつつも戦闘態勢を取った.
「イオナ……」
ガーネットは,その場で崩れて,呆然としながら小さくそう呟いた.
「私はイオナではない.そいつの魂はもう死んだだろう.中々しぶとかった,俺が精神を奪い取るまで時間が掛かった.ああ,俺は先代のサウスだ.」
現れた魔族は,そう言って両手を叩いて笑った.
「「……」」
(先代のサウスは確かに僕が殺してしまったはず,意味が分からない.)
アリエスは混乱していた.
(魂と肉体が合っていれば,魔法的には可能なのか,でも.そんなことは)
エリは困惑していた.
「まさか俺を殺した奴らに会えるとは.まあ,そのお返しは後でしようか.」
「サウスは前にアリエスが.倒したはずなのに.」
「ああ,俺は死んだ.でも,一応保険を作ってたんだよ.俺が死んだときに蘇る肉体として,これを作ったのだが,何故か魂が宿って.まあそんな話は良い.一度撤退させてもらう.」
サウスはそう言うと,倒れていいる二人を持ち上げた.
((……))
アリエスとエリは固まった.
「ふざけるな.私のイオナを返せ.」
ガーネットは立ち上がると,そう叫んだ.
それに,サウスは大笑いをして
「元々俺の所有物だった.ガーネット様と仲良くしたのが想定外だったんだよ.恨むなら,俺を殺したそいつらを恨め.俺が死ななければ,肉体を奪い取ることも無かったからな.また来る.」
そう言い残してその場から消えた.
残った三人は,無言でしばらく下を向いていた.
_________
あとがき
久しぶりの更新です.
来週の更新も恐らく遅くなります.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます