追放
第1話 追放
「元勇者アリエス,お前を国家反逆罪でこの国から追放する.」
神聖たる王ヘンリーの御前で,多くの官僚や貴族がいる場で,英雄アリエスは,そう王の側近であると思われる初老の男性ザルドがそう宣言した.
「はい?えっ?」
アリエスは同様のあまり,敬語を忘れて言葉を発していた.国家反逆など彼には,身に覚えが無かった.
彼は,元勇者であった.魔王との戦いで聖剣を折ってしまい勇者ではなくなったが,聖剣を代償に魔王を倒して戦争を終わらせた英雄であった.
魔王を打ち取り戻ってきて,王宮に呼び出されたのだ.だから,彼は,今日,褒賞されると思ってこの場にやって来ていた.
初老の男性は動揺するアリエスを無視して言葉を続けた.
「お前は国家転覆の疑いがある.本来ならば死刑だが,陛下の寛大な処置で勇者としての実績を踏まえて追放のみで許しているのだ.」
アリエスは,数秒間頭が真っ白になった.この国の為に,国民の為に,命をかけて戦った.その為に生まれて来た存在だった.勇者になるために生まれて勇者になるために育てられた.
「……何かの間違いでは?」
アリエスは,声を震わしながら尋ねかえした.
「間違いではない.分かっているのだ,お前が勇者としての名誉を利用してこの国を簒奪しようとしたことは.」
初老の男性がそう告げると官僚の凍てつくような視線が一斉にアリエスに刺さった.
アリエスは絶望した.彼は力があったが,このような権力闘争の知恵を持っていなかった,ひたすら強い勇者になるためだけに育てらていた.ある意味,兵器として育てられていた.
「……そんなことは,ありません,陛下.」
「黙れ,言い訳は見苦しいぞ,出ていけ.」
初老の男が国王の代わりに返答した.
「……皆さん,私を首にしたら,魔王軍の残党はどうなさるのですか?」
アリエスは,一縷の望みにすがり声をあげた.
「そんなもの,新しい勇者がいる.それに,聖剣が折れた貴様はもはや,勇者ですらない.もう不要なんだよ.」
「……分かりました.では,出ていきます.その前に,時間をください,荷物をまとめる時間を.」
アリエスは,絶望した.
「時間?荷物?貴様の所有しているものなどこの国にはないぞ」
初老の男がそう言うと国王は笑った.それに釣られてその場にいたアリエス以外の官僚は全員笑った.
「何をおっしゃってるのですか?」
「反逆者の所有物は国が没収するものであろう.貴様に残っているのは,今貴様が持っているものぐらいだ.その程度は温情で与えてやるよ.」
初老の男が陛下の代わりに答えた.
「…………陛下,分かりました.出ていきます.」
アリエスは,そう言うと立ち上がろうとした.
「それは,罪を認めるということか?ならば」
刃物を抜く素振りを見せる大衆をアリエスは睨みつけた.
「殺せますか?僕を,全力で抵抗しますよ.」
「……出ていけ,今すぐ.1週間後に指名手配をする,それまでの間にこの国から出ていけ.」
「そうですか.では,失礼します.折れた聖剣は選別として貰っていきますよ.」
彼には,今ここでその場にいた人物を全員叩き切る選択肢もあったが,それは勇者ではないと思った.聖剣は折れ,国から濡れ衣を着せられても,彼は昔,恩人から聞いた勇者でとしてこの国を出るまではあろうとしたのだ.
アリエスは,国を追放された,理由も分らぬまま濡れ衣を着せられて,追放された.行く当ても何もない彼は,ひとまず国境に向かって歩き始めた.
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