ゆらぐ旅人~江戸時代勇者の旅や魔物魔法賢者の石とエメラルド版

松川 i

〇 時間X 森

0 プロローグ、鬼を殺して

 ブン! ギリギリでかわした刃が空気を切り裂く。

 首を落とされるところだった!

 緑色の鬼。長く鋭い人差し指はまるで刀だ。

 激しい怒りがこみ上げる。

 死ぬところだったぞ!

 鬼が再び指を振り出すより早く蹴り飛ばす。

 鬼は樹木に背を打ち付ける。驚いた鳥たちが木々から飛び立つ。

 もう一撃! しかし鬼はすぐさま攻撃体勢となる。

「耳を塞げ!」

 “魔法使い”が叫ぶ。

 ほとんど間を置かず轟音とともに稲妻が鬼にぶち当たる。

 火花が舞う中に“騎士”が飛び込む。

「ヒョイ!」

 奇声を上げながら腹に槍を打ち込んだ。鬼は赤く光る目を見開く。

 騎士は槍をさらに深くえぐるように動かす。

 鬼は口から血を垂らしながらも指を振り上げようとする。

 魔法使いが剣を抜きその腕を斬り落とす。

 “元修道士”が駆け寄りメイスで頭部に一撃を加える。鈍い音が響く。

 騎士が槍を抜いた直後に魔法使いが首をはねた。

 鮮血が噴き出る前に鬼は消滅し、真っ黒な球体が地面に落ちる。




「ヒヤッとした! 今までで一番危なかったね」

 騎士が言う。

 

 まったくだ。また命拾いした。

 足には元修道士の手が添えられている。足腰がひどく痛む。

 森の中は鳥たちのざわめきが止み、鳴りを潜めていた虫の声が戻っている。

 

 元修道士が言う。「いい蹴りでした。追撃しなかったのも、いい判断だった、と思います」

 その手元が白く輝きだす。

 温かな光に包まれて、足の痛みが引いていく。


 あの時あのまま踏み込むのは危険と感じた。それを察知して踏みとどまれたのだから、また一つうまく戦えるようになったのだ。


「ああ。オマエは一撃だけ入れてくれれば十分だからな」

 魔法使いが言う。

「久々のわりにいい仕事だった。まあ、たしかにかなり危なかったがな。これでもうひと月くらいはゆっくり過ごすとしよう」


 草むらにうつぶせになって腰を治療してもらう。地面はヒンヤリとしている。雨季も終わりだ。腰に温かさを感じ、痛みがなくなる。

 宿に、洞窟のように水没する日々に戻ろう。


  狩りあとやまたしばらくは草のいお

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