人生に絶望した少女は転生して狂人少女として名を馳せるそうです〜異世界知識ほぼ0の少女は、自戒のスキルで最強に至る〜

@Hisui_51

第1話 ほんの少し間近な「死」

 あの日、恐怖を知った。生まれてからのまもないある日、目の前で母親が死んだ。

 確かトラックに跳ねられたんだと思う。赤信号のど真ん中で立ち往生するおばあさんを助けに言って、そのまま二人ともはねられて死んじゃったんだよね。

 あの時は何が何だかわからなくて、でも辛すぎて今でも鮮明に覚えてる。

 そして今日、私も同じ死に方をした。人助けをしていた母さんとは似ても似つかない醜い自殺。でも頑張ったんだよ? 私だって辛くって辛くって、なんだども逃げ出したかったけど、生にしがみついて。手首だって切り傷でボロボロ。ただ空末 くるみそらまつ くるみは自由に行きたかっただけだったのに。


「でもさーまさか別世界に転生するとは思わなくない?」


 ほんとどこだよここってね。さっき頭上をドラゴン? みたいなのが飛んでったし、見渡す限りの草原だし、空を見上げたら太陽2個あるし。

 それに、転生って言ったら赤子からのリスタートだと思ったけど、見た感じ死ぬ前と何一つ変わっていない。服装も、手首の傷も、いじめられてついた一生傷もそのまんま残っている。


「これくらいは治してくれてもよかったのにねー」


 額についた切り傷をさすりながら呟く。

 まあ終わったことを今更掘り下げるのはあまりしたくない。思い出したくないこともせっかく全部向こうの世界に置いてこれたのだ。この世界ではこの世界なりの生き方を、自由を謳歌していこうと思う。


「とりあえずこれからどうしようかな。道はあるけど街はないしな。日も高いし歩くかー」


 歩くのは好きだ。前の世界では引きこもりのような生活を送っていたが、本当は家の中より外の方が好きだった。だけど外は怖いことが多すぎて、ほんの少しだけでも楽な家にいた。誰にも会わないのは心地よかったし、自分自身それでいいと思ってた。


「魔法とかってあるのかなー。あったらいいなー楽しそうだし」


 そんな呑気なことを考えながら、荒く舗装された細道を歩き始めた。


—————————


 あれから何時間歩き続けただろうか。未だ街は見えず、出発地点と同じような草原が永遠と続いているだけ。

 運動をほとんどしていなかった私にはかなーりきつい。


「足痛い、歩きたくない。はぁー普通もっと街の近くからスタートとかじゃないの?」


 好きなものでも限度がある。そして、今が限度の時だ。

 流石に永遠に続く草原を歩くのは飽きる。動物もいないし、街も何もかもがない。

 しかし、さっき一度見かけた分かれ道からというもの、少し道が太くなり車輪の後のようなものがついているのに気がついた。

 運が良ければ乗せてもらえるかもしれない。というか今はそれ以外に望みはない。


「もう日暮かー元の世界と時間感覚は変わらないっぽいなー」


 これで前より24時間長いですなんて言われたら、かなりきついところだった。

 慣れた環境から叩き落とされるのは本当に慣れるまで時間がいる。新しい母親がきた時なんて地獄だった。


「私頑張ってたなー」


 今からまたあの日常をすごせなんて言われたら、迷わずもう一度道路に飛び出す自信がある。


「おーいそこの君。そんなところで何突っ立ったんだ」


 歩き疲れてその場で立ち尽くしていると、歩いてきた方の道から男の人の声が聞こえた。私は少し驚きながら振り向くと、そこにはゆっくりと馬車を歩かせる初老の男がいた。


「すみません迷ってまして。もしよかったら街まで乗せてくれませんか?」

「ああ、馬車に乗せるのは問題ないが、その見た目どこの国の人間だ?」


 硬そうな見た目の割に案外優しそうな人のようだ。

 今着てる服はジャージなのだが、この世界では珍しい格好なのだろうか。それともこの真っ白な髪か? 何か病気らしいが綺麗なので気にしていなかったのだが。

 街に着いたら見た目も気を遣った方がいいかもしれない。


「ありがとうございます。生まれは極東の辺境ですね。今はフラフラ当てのない旅をしてる身です」

「ふーむ。俺は西の商人だから極東のことは生憎知らないな。まあ乗れ、平原を抜けるまで丸二日かかるがゆっくりしてるといい」


 日本は極東の国だと聞いたことがある。ここには日本もないだろうし、その極東の国がなんて国かなんてわからないが異世界からきたなんて言われても信じがたいだろうし嘘ついても平気だろう。

 私は樽などが置いてある馬車の荷台に乗り込み楽な姿勢で座る。


「じゃあ進むぞ、かなり揺れるから心しとけよ」

「わかりました。本当にありがとうございます」

「ああいいよ、俺もちょうど話相手が欲しかったんだ」


 彼が言った通りに進み出した馬車はガタガタと体が痛くなるほどに揺れ、体が休まるどころではなかったが、歩くよりは確実に早く心地よい風を感じることができた。


「あんた名前は?」

「空末 くるみです」

「空末 くるみ……珍しい名前だな。俺はゲイル。西と中央を行き来する旅商人ってところだ」


 彼が極東の国を知らないなら本名を名乗っても平気だろう。

 ゲイル……外国人っぽい名前だな。服装も現代とはかけ離れているし、やはりここは異世界なんだなと思い知らされる。


「西側ってどんなところなんです?」

「ん? お前も西側にいたんじゃないのか? この平原は西と中央の間に広がる大平原なんだが」


 やべ、そうだったのか。だとしたらかなり変に聞こえることを言った気がする。ここからどう言い訳をしようか。

 バレると面倒ごとに巻き込まれるのが目に見えてわかるため、できれば誤魔化していきたいところだ。


「いやーぶらぶらとしているうちに平原に出たと思ったら道がわからなくなってあっちへこっちへぐるぐるしてたらこんなところまで……」

「はっはっは! あんた旅向いてねーよ!」


 適当に頭から捻り出した言葉をつらつらと並べる。こんな適当なことじゃ逆に疑いが増さないか心配だったのだが、御者席に乗りながらバシバシと自分の太ももを叩きながら大笑いするゲイルさんを見てホッと一息吐き出す。どうやらうまくかわせたようだ。


「そうですかね。私はそれでも楽しいと思いますけど」

「そうだな。俺達旅商人みたく道を間違えたら終わりじゃねーからな。一人でぶらぶら彷徨うのも一興か」


 実際私が旅をするならば、目的地をしっかり決めた旅ではなく適当にぶらぶらと寄り道をする旅がしたい。

 この異世界で何ができるかはわからないが、機会があればそんな旅もしてみてもいいかもしれない。


「まあ西側はよく言えば落ち着いていて、悪く言えば完全に田舎だな」

「へーそうなんですね。いつか行ってみたいものです」

「やめとけやめとけ。今の西側は魔物と大陸正教会の争いでかなりあれてるからな。俺は仕事だからいくしかねえが、旅の人は戦争に巻き込まれる可能性が高いからやめといた方がいい」

 

 魔物、この世界にはファンタジー世界あるあるの魔物が存在するようだ。

 しかし戦争とは、平和な日本で戦争を経験して来なかったとはいえ、間近に戦争があるという感覚はさぞ怖いのだろう。


「そうなんですね。どこも物騒で困ったものです」

「本当だよ。ここ最近世界情勢がサイコロの目のように読めなくなってきやがった。良くも悪くも異世界人達のせいだろうがな」

「!? 今なんて——」


 ゲイルさんの発した言葉に私が身を乗り出すと同時、馬車の揺れとは似ても似つかない地鳴りが私たちの乗る馬車を揺らした。

 地震とはまた違う、ただ馬車をつけあげるように響いた振動の後、私はわけもわからず放り出され、地面を転がった。


「ゲイルさ……」


 その時までは、まだこの世界を前の世界と重ねて見ていたのかも知れない。日本のように平和で、私も過ごしやすい世界。そんな理想は目の前に広がる地獄にやって塗り替えられた。


「な、え?……なに、これ……」

 

 聳える石柱と、そこからしたたり落ちる赤い雫。目を背けたい、そんなことすら考えられないほどに動揺が酷かった。なんせ初めてだったのだ、串刺しにされる人間など見たのは。




・あとがき

最後までお読みいただきありがとうございます。新連載です。投稿頻度は適当ですが、早いうちに投稿したいと思います。

あと先に言っておきますが、俺はメインキャラ以外は平気で殺します。







 





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