第16話 花火大会と迷子の……
「リーフ、なんかかわいい話をして」
『えーと……、リスはたんぽぽを食べる事があります!』
「かわいいー!! てか、いきなり無茶ぶりしてごめんね!」
『いいえ、お気になさらず』
私が次の漫画のネタを考えながら湯船に浸かっていた時に、浴槽の半分だけ蓋をした上に置いた洗面器でお風呂に入るリーフに何気なく訊いてみると、想像以上にかわいいネタを貰った。
おかげでほのぼのした気分で入浴できた。
* * *
さて、花火大会へ向かう日になった。
私はまた濃紺に白い芍薬の花柄の浴衣を着たし、
ひなたにも金魚柄の浴衣を着てもらった。
今日の花火大会へはご近所さんが野菜のお返しのパンのお礼に行きは車で送ってくれるそうな。
ラッキー!
お返しはとりあえずなんかしらしておくべきだね!
とりあえず他の人には見えない筈のリーフはひとまず私のカゴバッグの中で寝てる。
そしてしばらく車に揺られていたけど、ついに花火大会の会場に到着した。
車を出してくれた夫婦はそのまま親戚の家に行くとかで、そこでお別れになった。
「それにしても流石に花火大会は凄い人だね」
「ホントですね」
人も出店も多いから、惹かれる店の前で足を止めていちご飴やら焼き鳥やらを買い食いしたりした。
「鈴先生、私思ったんですけど、綿あめくらいならリーフちゃんがカバンから出て、こっそりと食べてもあまり目立たないのでは?」
「綿あめ! 確かに!」
「ちょっとあのレインボーな色の綿あめ買ってきます!」
そう言って、ひなたは綿あめを買いに行った。
私は花火がそこそこよく見えそうな場所を確保。
小さなビニールシートを腰の下に敷くために、リーフを起こすことにした。
「リーフ、起きて、もう到着してるよ……」
私はカゴバッグの中で爆睡してたリーフに小声で声をかけた。
『はっ!!』
小走りで戻って来るひなた。
「買ってきました!!」
「ほら、ひなたがリーフでもあまり目立たず食べられそうな綿あめを買ってくれたよ」
『おお! なんと素晴らしい! ありがとうございます! ひなたさん!』
「いいってことよ、先生がお小遣いくれてるし」
『あはは、出資元の鈴にもありがとうですぅ』
「よきにはからえ」
「『はは~〜っ!』」
私はリーフがカゴバッグから出たので、すかさず取り出したビニールシートを敷いて、花火見物の準備。
リーフは綿あめを手にもつひなたの肩に移動し、こっそりと食べた。
はたから見ると妖精が綿あめに顔を突っ込んでいる。
『甘い……』
小さくそう言ったリーフは花がほころぶように笑った。
気に入ったみたいね。
虹色のカラフルな綿あめはとても可愛かった。
しばらくすると大きな音が響いて、花火が打ち上がり、皆が歓声をあげた。
「綺麗だねー」
私がそう言うと、リーフも綿あめを食べるのを一旦止めて、キラキラした瞳で夜空に咲く花を見上げた。
『本当に……綺麗ですねぇ』
「そうですね、皆花火をスマホで撮影するのに一生懸命ですよ」
「あ、そうだ、資料写真、私も撮ろう」
ふと、自分の本業を思い出す。
花火と屋台を撮影し、そこそこ満足した頃合いで帰る事に。
遅くなりすぎたら帰りのバスがなくなる。
電車で地元の最寄りの駅まで来たところで、バスに乗った。
花火大会の時は田舎でも夜中にもバスを出してくれる。
そしてバス停から降りた後に、誰かが叫ぶ声が聞こえた。
「武蔵ーーっ! 武蔵ーーっ!!」
「鈴先生、誰かが剣豪を呼んでますね」
街頭の下で、五十代くらいの女性の姿を見つけた。
「迷子のペットでしょう。 叫んでるのは佐々木さんの奥さんだし。確かあそこの猫の名前は武蔵」
「佐々木さんの家の猫なら小次郎のがよきでは?」
「もう既に家に佐々木がいたからでは」
「な、なるほど、家の人が皆佐々木だから」
『やれやれ、私の出番のようですね』
「リーフ、居場所がわかるの!?」
『探してみます』
リーフはそのへんに生えている木の根本に立ち、その幹に触れた。
その姿は、なにか植物相手にテレパシーで会話でもしている風だった。
ややしてリーフが戻って来て、
『武蔵の居所が分かりました』
「どうやってなの?」
ひなたが思わず突っ込んだ。
『植物のネットワークです』
「「へぇ~」」
と、私とひなたのセリフが被った。
リーフのナビで武蔵を探したら、猫の集会に遭遇した!
すごい!
野良猫がいっぱい集まってる!
ファンタスティック!
どうして飼い猫まで集会に混ざったのかは知らないけど!
あ! 沢山の猫たちの中に、首輪をした茶トラの武蔵がいた!
リーフがボス猫っぽい白い猫に声をかけた。
『飼い主さんが心配して探しまわってるから、武蔵さんをお家に帰してやりたいのですが』
貫禄のある白猫が一声鳴いたら、武蔵がこちらにやってきた。
すかさず抱っこして確保!!
「もー、武蔵ちゃんったら、佐々木さんが心配してたよ!」
「ニャー」
ニャーではなにかわからないけど、素直にこっちに来てくれたし、ひとまずはお礼だ!
「ボス猫さん、ありがとう!!」
『ありがとうございました』
私とリーフがお礼を言うと、ひなたも慌てて礼を言った。
「ありがとうございました! 武蔵ちゃんは連れて帰りますね!」
それからまだ猫を探して叫んでいた佐々木さんを見つけて、無事に引き渡した。
「ああー! 武蔵もう! いつの間にか脱走して! 心配したでしょ! でもよかったぁ。高野の家のお孫さん、見つけてくれてありがとうねぇ」
佐々木さんはがっつり額から汗を流してたし、シャツもぐっしょり濡れていたようだった。
必死で探してたのね。愛だなぁ。
「いえいえ、無事に見つかってよかったです」
その手柄は本来リーフのものだが、佐々木さんには妖精が見えないからね。
そして私達もどうにか家に帰った。
「ーーはあ、はあ。か、帰りは予想以上に歩いたわね」
日頃の運動不足がたたってめちゃくちゃ疲れた。
「まさか迷子の猫を探すとは思わなかったですよね」
「シャワー浴びよ、シャワー!!」
「鈴先生お先にどうぞ!」
「一緒でもいいわよ!」
「いえ! 私は後で!」
「そう? ならお先に」
急いでシャワーを浴びてひなたと交代した。
既にクーラーのスイッチ入れてくれててよかった。
「はー、疲れた」
私は疲労困憊で畳の上に転がって、気がつくと朝だったし、体にはタオルケットがかけてあった。
これはひなたがかけてくれたのかな?
リーフはまだ居間の座布団の上で寝てるし、体の小さいリーフにはタオルケットは大きいし。
ま、ひなたには後で礼を言うとしよう。
とにかく今年の花火は妖精と一緒で、ほんとに特別感あったなぁと思いつつ抱きしめたタオルケットは、ひなたの香りがした。
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