魔神封印記

資山 将花

プロローグ

【光失われし闇夜が訪れる時。それ即ち、魔神復活の前兆なり】

 

 古の文書の中に、記されている一文である。


 荒唐無稽、根拠もなく他の関連する資料もないその妄想にも近い一文は、各国において最も重要視される一文であった。


 それは、古の吟遊詩人がお遊びに綴った一文などではなく、神々が残したとされる文書の中に記されていた一文なのである。


《魔神封印記》


 五大国に一冊ずつ存在するその本には、上記の一文に続いて、もう一文記されてあった。


【精霊より鍵を授かり、封印の鍵を持って魔神を封印せよ】


 海を隔てた五大陸、五大国。大陸の名がそのまま国の名前となっているそれぞれの国には、精霊が住んでいると言われている。


 マルー大陸のマルー王国には、炎の精霊イフリート。

 シーカク大陸のシーカク王国には、水の精霊ウンディーネ。

 ダイケイ大陸のダイケイ王国には、土の精霊ノーム。

 ヴァーツ大陸のヴァーツ帝国には、雷の精霊ヴォルト。

 サンカック大陸のサンカック王国には、風の精霊シルフ。


 数千年の間、各国で精霊の存在を見た者はおらず、そして、闇夜など訪れることもなかった。


 だが。時は来た。


 一月前に突如訪れた、音もない漆黒の夜。人工的な光さえ飲み込まれたその夜が明けると、奇怪な化け物たちが現れた。化け物たちは陽の明かりを背後にして人々に襲い掛かり、昨日まで燦燦と輝いていた数多くの命の輝きを奪っていった。


 各国の王たちは、先日の闇夜が文献に記されていたものだということを瞬時に悟った。そして、いるはずもないであろうと思われていた魔神の存在は、生物学を覆す化け物たちの存在によって確約されてしまったのである。


 まるで星そのものが怯えているかのように、海は荒れ、大地が揺れ、空気が震えた。

 

 王たちは重い腰を上げて、号令を放つ。


 魔神を封印する鍵を手に入れるために、世界が慌ただしく動き始めた。


 たったの二文しか記されていない、神々が記したと言われる《魔神封印記》。空白を埋める冒険が、人の手によって始まる。

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