アンダー&ハイ
Hr4d
第1話
ガヤガヤと騒がしい、汗や泥、血の匂いで臭い大きな建物『冒険者ギルド』そこで彼女は冒険者になるべく書類に記入していた。
スカイ。名字は付けない、お忍びだからバレてはいけない、怒られて連れ戻されるから。性別は女、種族は人間。年齢は16。
出来ることは……魔法とお料理、お縫物。
学歴は……アルフ君は冒険者で10本指になるって言って卒業後に冒険者になっていたから……書いていいかな。叡智教立ゼニアシエル学園卒業。メイン依頼は採集と探索。サブは討伐狩猟と捕獲。指名依頼は受ける。
よし。出来た。
「あのー、よろしいですか?」
書き終えた書類を持ち、受付の女性に声を掛ける。
「あーはいはい。書けた?じゃあそれを頂
戴。」
「はい。お願いします」
書類を受付の女性に渡す。
受け取った受付の女性は書類を手に奥へ消えていった。これで書類が通れば晴れて冒険者になれる。
…受付の方が戻ってくるまで暇なので周囲を見渡してみる。
人間の筋肉質な男性が多い。肩やお腹、背中には分厚い装備を着用しているけど、腕には何も付けていない方が多い。何故なのだろう?
女性も少いけど居る。しかし露出が多い方が多い。はだ寒そう。胸と鼠径部のみを隠している方や長ズボンを履いているけど上半身は胸の先を隠しているだけの方など肌を見せつける方が多い。恥ずかしくないのかな?
しばらく周りを見渡していると名前を呼ばれた。
「スカイさーん!来てくださ〜い!!」
「はい!」
返事をしてから受付の方のもとへ向かう。
「はいはい。えーと、スカイさんはまず1本指級からですね。魔法使いということで剣士や格闘家と言った近接戦闘を得意とする先輩冒険者を呼んで、パーティを組むこともできますけど呼びますか?」
どうしよう。学校でモンスターとの戦い方は習ったけれど実践は王族という理由でできなかったから心配。……お願いしよう。
「お願いします」
「はいはい。じゃーなにか希望はありますか?女性が良いとか歳が近い人がいいとか。」
「では、女性の方をお願いできますか?」
「はいはい。女性で。他には?」
「特には。大丈夫です」
「はいはい。じゃあ…クラン『七星夜』の3本指冒険者ハズキさんを呼びますね。」
受けつけの方はそう言うと、紙に記入を始め書き終えると私にソレを渡してきた。
「これは、紹介状ですね。裏に地図を書いてるんで七星夜についたら中に入って受付にそれを渡してください。そうしたらハズキさんが出てくるはずなんで。」
「わかりました。」
「えーっと、あとはコレですね。ギルド証明。」
受付の方から薄い金属の首飾りを受け取る。
「まず、それには正義と断罪の神『ジャズメント』様の加護があるので、偽造などは出来ません。なので何かあったら身分証明としてそれを出せます。次にそれには調和と契約の神『ヘルメア』様の加護があるので、貴方になにかがあった、というかそれに3日間以上に加えて360秒以上継続して貴方の身体に触れていないと、何か危険な目にあったとして自動で捜索願いが依頼として出されます。ヘルメア様の加護のおかげでそれの位置はわかるので、それの位置を中心に周辺の地域内の探索依頼が出ます。」
「なるほど。わかりました」
「はい。で、ですね。さっき行ったことに関係して、もしそれをなくしてしまったら、すぐに近くのギルドに言って再発行手続きをしてください。銀貨3枚、3000クヌで出来ます。もしそれがなかったら冒険者ギルドで依頼を受けられませんし、ギルドを通さずに直接依頼を受けて何かあっても特別保険は降りませんので気をつけてください。」
「わ、わかりました。」
途中からこんがらがりそうだったけれど、なんとかわかった。つまりこの首飾りをなくしたら駄目ということだね。
「最後にそのタグを見せれば、ギルド支援店の証明であるこのマークのあるお店で割引やプレゼントがあるので、ぜひ使ってみてください。」
受け付けの方は木の板に書かれたマークを見せて説明をしてくださった。
マークは赤い縁の盾に剣と杖が交差して重なり両端に金貨と薬草が描かれていた。
「では、説明は以上です。冒険者ライフ頑張ってください」
「ありがとうございます」
私は感謝を述べた後に冒険者ギルドを出てクラン七星夜に向かった。
冒険者ギルドから徒歩15分程度の位置にある東洋風の様式が混じった建物、冒険者クラン七星夜のクランハウスについた。
「入ろう」
紹介状を手に門をくぐる。
入ってすぐ目の前に受付があり、そこにいる受付の方へ事情を説明して紹介状を渡した。
紹介状を受け取った受付の女性は、奥へ行き暫くすると、東洋の剣士が来ているという道着姿の女性が受付の方とともに現れた。
「こんにちは。スカイさんでいいかな?」
「はい。ハズキさんですか?」
「うん。そうだよ。とりあえずこれからの説明をするからついてきてもらえるかな?」
「はい。わかりました」
ハズキさんは受付から出ると小さく手招きをして、私を導きながら階段横の扉に入っていった。それに続き入ると、中には2人の女性がいた。
「じゃあ好きなところに座ってね」
「はい」
先に居た2人の位置を把握してちょうどいい距離の席に座り、ハズキさんの方を見る。
「うん。よーし、来る予定の人達はこれで全員だね。じゃあまずは自己紹介から始めようか」
「私はハズキ。ここ、クラン七星夜に所属している3本指級冒険者です。特技は剣術と生け花です。今日からしばらく皆さんの指導役として一緒にパーティを組みます。よろしくお願いします!!」
「よろしくお願いします」
「お願いします」
「……しゃす」
私が拍手をしながら返事をすると2人も続いて同様のことをした。
「うーん。ありがとう何気に全員が返事をくれたのは初めてだから嬉しいね。じゃ、次はスカイさんからユフィさん、アルケンさんの順で自己紹介いってみよー」
「はい」
返事をして立ち上がり皆が見える方向を向く。
「私はスカイと申します。去年、叡智教立ゼニアシエル学園を卒業しているので、座学知識はあります。魔法が得意で一応全ての色と神聖術は扱えますが青魔法が1番得意です。よろしくお願いします」
「よろしくね〜。学園卒か!じゃあ結構期待しちゃうよ〜!?」
「実技は苦手でしたが座学では上位でしたのでお任せください!」
「アハハハ!じゃあ現地で問題いっぱい出しちゃおー。じゃあ次。ユフィさん。」
「はい」
ユフィさんと呼ばれた金髪のショートボブに革鎧を身に纏った比較的軽装の方が立ち上がった。
「ユフィ・カトラです。年は14。鼻と耳が良いのでシーフやります。よろしくお願いします」
そう言って座るユフィさんに拍手を送る。
「はい。よろしくね〜。シーフということは毒植物とか罠の知識が結構ある感じ?」
「まぁ、少し。お母さんが獣人国の田舎出身だからそれで。」
「え!?もしかしてハーフ?」
「まぁ」
「わぁ!良いじゃん!獣人のハーフは獣人譲りの身体能力に人間の器用さがあるから、シーフとしてあっちこっちのパーティに引っ張りだこだよ!!将来のパーティは安心できるよ!」
ハズキはユフィさんに向かってサムズアップをしてから次に進めた。
「じゃあ最後にアルケンさん。お願いね」
「…は、はい」
「えーっと。アルケン・F・ミトゥンです。エルフで……年は55歳です。ず、ずっと引きこもっていたけど……えっと、お母さんにいい加減働けって言われたので冒険者になりました。えっと…あの…えっと、魔法と薬が得意です…あの、よろしkっおねがしゃます…」
アルケンさんが最後の言葉を言いながら座るのを見てから、拍手を送った。
「うんうん。よろしくね~。エルフってことは……人間年齢で11さいか…11歳!?わっか!」
「あ、あの…エルフは20歳で働k※×”#…」
「あー!そうなんだ。へー。そっか肉体はある程度成熟してるもんね。はぁ~。勉強になった。」
ハズキさんは感心したように頷いてから本題に戻った。
「よし。自己紹介はこの辺にして、本題に戻ろう。まず、私達はゲルド平原にある薬草の群生地に行って、薬草を取りつつ薬草を食べ過ぎちゃうモンスター『グリーンイーター』を討伐します。」
グリーンイーター。寝ているとき以外は目に付く植物を食べ続ける鹿型のモンスター。
お肉は美味しいらしく、庶民の食卓で愛されているらしいので1度は食べてみたい。
「ですのでまずは陣形ですね。つまり立ち位置を決めます。この陣形はというのは戦闘の上で1番必要と言えるくらい大切なものです。陣形は色々と種類があるんですが、まぁ今回は魔法つかいが二人いるので三角型の陣形をつかいます。」
斜めがけのバックからメモ帳を取り出し言われたことをメモする。
「戦闘に前衛職と呼ばれる役割、今回では私ですね。剣士とか武闘家とかそういった人が前衛でモンスターの気を引く事をします。次に後衛職と呼ばれる役割、今回ではスカイさんとアルケンさんですね。魔法つかいや神官といった人達が前衛や他の人達の援護をします。中にはま後衛の人達がメインの火力として戦うパーティもありますが、基本的には後衛の人達は援護をする役割です。」
私は援護をする役割。
ふと気になり二人を見ると、ユフィさんはハズキさんをじっと見つめて聞き、アルケンさんは緑魔法で何かをしていた。おそらくは音記憶の魔法だと思う。かなり難易度の高い魔法なので実力が垣間見えた。
「えー後衛の援護なんですが、モンスターの逃げ道を無くす、脚を止める、目眩ましをするといったモンスターの動きを止める事を意識すると前衛の人は戦いやすいです。それを頭に入れておきましょう。」
後衛はモンスターの動きを止める事を意識する。
「最後に遊撃職と呼ばれる役割、今回はユフィさんですね。遊撃は直接戦闘に関わることは少ない役割です。基本的に周囲の警戒と迷宮内での罠解除やサバイバル中の生活補助がメインの役割です。戦闘に参加する場合は戦いになっているモンスター以外のモンスターを寄せないようにする行動や絶対に他のモンスターは来ない状況ならば、戦闘中のモンスターに対して動きを止める動き、後衛と似たような意識をすれば戦いやすいです」
「でぇ、今説明したのは前衛がメインの火力として戦うことを前提とした動きや意識なので、もし後衛がメインの火力、遊撃がメインの火力として戦うパーティの場合は勝手がかなり変わるので、そこは臨機応変に対応してください。」
「はい!」
「あい」
「……ぁい」
ハズキさんの言うことにそれぞれが返事をした。
「じゃあ次に必要なものを配っていくから。全部無料であげるから安心してね。これは七星夜くらいでしかやってないサポートだよ。運がいいねぇ。君たちは」
そう言うとハズキさんはポーチが付いた革ベルトを一人一つ配っていった。
「はい。ポーチを開けてください。中に赤い液体の入った小瓶と青い液体の入った小瓶があるのでだしてください。」
5センチ位の高さがある小瓶を出す。
「まず、赤色。それは回復薬です。即効性のやつで値段は銀貨1枚、1000クネします。」
即効性回復薬って意外と安いんだなぁ。
「たっか…」
「高級品だぁ」
私の認識が間違っていたようです。
「はい。消耗品のくせに凄い高いです。ですが勿体ぶらずに使ってください。怪我をして勿体無いって使わずに街まで帰って、そのまま死んじゃったとか、腕を切り落としたというのは私は何度も見て聞いています。つい、2ヶ月前にもクランメンバーの2本指級冒険者の子が勿体無いといって回復薬を使わずに街まで帰って来たら、腕が壊死していて切り落とさなくちゃならなくなったということがありました。その子は私と同じ剣士だったのでもう冒険者として生活ができなくなってしまい、今はここの事務として働いています。」
死んだり、腕がなくなりたくないのなら勿体無いと言わずに回復薬を使う。
メモをする。
「3人にも夢とか冒険者をやらないといけない事情というものがあると思います。でも回復薬を勿体無いといって使わないだけで、冒険者ができなくなり、夢も追えなくなって、生活もできなくなるかもしれません。それってとても嫌じゃない?お金がないと食ご飯にも困るし、私達は女の子だから身体をキレイにしたいじゃん?でも、キレイにするための水浴びもできなくなるし、実家に帰ればいいじゃんって考えても、もしそこが実家から遠い場所で、治療のために大金を使って帰るためのお金がなくなって帰れないかもしれない。」
「だからそういうふうにならないためにも、回復薬は高くても勿体ぶらずにキチンと使いましょう。」
「はい」
「はい」
「…ぁい」
「はい。次に青色のやつ。これは魔力回復薬です。勿論即効性のやつね。これはまぁ、ユフィさんとか私にみたいに魔法を使わない人にはあまり必要ないものだけど、万が一があるのでそういう人も1瓶は持っておいたほうが良いです。スカイさんとかアルケンさんみたいに魔法を使う人には必須アイテムかな?これは魔法を使った戦闘が終わったら必ず1瓶を飲みきってください。」
魔法を使ったら1瓶魔力回復薬を飲み切る。
「ここに所属してる5本指級冒険者の魔法使いの人によると、魔法を使ったら想像以上に魔力を消費してるらしいです。で、もし魔法を使った後に予想以上の激戦がおきたとしたら、魔法が使えずに成すすべ無く殺されてしまうかもしれないので、魔法使いの人は常に魔力は万全の状態でいましょう。まぁ、意識としては回復薬と同じです。後悔するなら使って後悔しましょう。」
「次に布3つ全部出してください。白2つに黒2つ、緑と赤一つずつね。」
言われたとおりに出していく。
「この布、すっごい大事です。まず白い布。これは傷の手当などにつかいます。出血具合などを確認するために白い布を使うんですが、わかればいいので色が薄いのなら何でもいいです。次に黒い布。これはトイレの後につかいます。ポーチの中に葉で巻かれた視界やつがあると思うんですけど、それは洗剤です。馬の油から作った洗剤です。それで黒い布や他の布も洗います。前衛や遊撃の人はまぁ、日帰りだとあまりないんですけど魔法使いの人は魔力回復薬をいっぱい飲むので水分をとても取ります、更にあまり動くこともないので汗もあまりかきません。なのでとてもおしっこがしたくなります。」
たしかに。魔法使いは魔力回復薬を必ず飲まなければならないから水分をいっぱい取る。
「男性ならまぁ、うんちのときくらいしか拭かないので1枚でいいんですけど、女性はおしっこのときも拭きますよね?というか、絶対拭いてください。不衛生だと臭いが発生してモンスターに気づかれたり、痒みで探索に集中ができなくなるので。で、女性はおしっこのときも拭くので、うんちが付いた布でおしっこの後拭きたい?」
全員が首を横に振る。
「だよね?だから2枚あります。使用後は水辺があったら必ず洗ってください。水辺が全然無い!でも洗わないと汚い!というときはもう飲み水か魔力回復薬で洗ってください。魔力回復薬なら最悪、飲まなくても危険度は上がりますが死にはしないので。回復薬ではなく、魔力回復薬で洗ってください。」
水がないときは飲み水か魔力回復薬で洗う。
「で、緑色の布は迷宮に入った時に使ってください。パーティメンバーで話し合って分かる場所に結んで付けてください。目印です。赤色も同じでこっちは森林で使ってください。迷宮には人を騙すモンスターが居るのでそういったモンスターの対策で目印をつけます。赤色の方は遭難したりして見つからなかった。そのまま死んでしまった時に、わかりやすいようにつけます。死体が見つかればタグも見つかって、残された人たちに保険金や報告が向かうので絶対につけておいてください。」
緑色は迷宮内で目印。赤色は森林で目印。
「じゃあ、説明は以上なので全部ポーチにしまってから、ベルトを付けてください。ベルト穴がなくても付くようにピンチタイプの留め具が付いてるので、ベルト穴が無い人はそれで止めてください。あと、今日はいいですけど冒険や依頼に行くときは必ず動きやすい服装で行ってください。でないと少しの失敗で死にますので。では準備ができたら外に出て待っててください。トイレは受付正面右側にあるので絶対に行ってください。」
「「「はい」」」
私達は返事をするとハズキさんは部屋から出ていった。
「なんか脅しばっかだったね」
ユフィさんが言う。
「そうですね。それだけ気をつけろってことじゃないですか?」
「なんだろうね。アルケンはもう準備できた?」
「う、うん出来たよ…」
「スカイは?」
「出来てます!」
「じゃあトイレ行って外に出てよ」
「そうですね」
「だね…」
私達は部屋から出るとトイレに行ってから外でハズキさんが来るまで待機し始めた。
「ここって結構金持ちなんだろうね。トイレすごい綺麗だったしさ、スライム式じゃないとかすごくない?」
「うん…!うん…!全然臭くなくて使いやすかった」
トイレは魔石式が当たり前では……??
スライム式がわからない……けれどお話は合わせるべきですからね。
「そうですね。個室が多くて凄かったです」
「だよね。しかも全部椅子型だからビックリした」
「うん…!うん…!下穴型って落ちそうでこ、怖いから椅子型の安心感すごかった」
「ね。めっちゃ落ち着いてできた。」
し、下穴型?落ちる?どういう…もの…なんだろう?下穴型ってことは下に穴がある…んだよね…?
下穴型のトイレについて考えていると東洋式の甲冑に身を包んだハズキさんが来た。
「はいはい。おまたせー。ごめんね待たせちゃって。」
「いいえ。大丈夫です」
「ありがとうースカイさん。じゃあ早速いきましょう。」
私達はハズキさんの説明を始めに聞きながら歩いてゲルド平原へ向かった。
「今日は近いので歩きで行きます。今回くらいは歩けないと冒険者なんてできないので頑張りましょう。」
説明後はしばらくは無言だったのだが、ユフィさんによってトークが始まった。
「ハズキさん」
「ん?どうしたの?」
「七星夜のトイレめっちゃ凄いですね」
「トイレ?…あー全部魔石式椅子型だもんね。私も来たときすごい感動したよ。」
「道具といいトイレといい、あれだけ揃えられるってことは七星夜って金持ちクランですか?」
「まぁ、この国では2番目に大きいからね。うち。もし入りたいのなら受付で書類書いたら人事が審査するよ。うちは女性限定クランだから君たちは大歓迎だよ〜」
「え、じゃあこれ終わったら書類書いてもいいですか?」
「ぜひぜひ!受かるかはユフィさんしだいだけど、大歓迎だよ。」
「…あ、あの私もいいですか?」
「勿論だよーアルケンさん!魔法使いは貴重だからね!多分確定で受かるんじゃないかな?スカイさんはどう?うち来てみない?」
「……そうですね。私が冒険者になった理由はソルの冒険に憧れたからなので……色々と縛られずに世界を回ってみたいので遠慮させてもらいます」
「そっか~!夢を追ってきたタイプかー。学園卒だから大丈夫だと思うけど、気をつけてね?夢を追って冒険者になったタイプの人は早死することが多いから」
「はい。気をつけます」
「うんうん。あと気が変わったらぜひ来てみてね歓迎するよ」
「はい。その時はよろしくお願いします」
そういった話をしながら進むとあっという間に着いた。
「はい。到着〜。先ずは薬草採集から始めましょう。」
私達はハズキさんの説明に従って薬草を集め始めた。
学園で教わった通りだ。
子葉から十字になるように交互に葉が生えている、葉周がギザギザとしている濃緑色の背の高い草が回復薬になる薬草『ヘエル草』。
地面に這うように生えていて1センチ間隔で茎が天に伸びて先に4枚の葉と小さな白い花を咲かせる魔力回復薬になる薬草『マゲヘル草』。
今回はこの2種類を10本ずつ採取していく。
採取方法は、ヘエル草は根を残して茎をちぎって取り、マゲヘル草は伸びた茎のみをちぎって取る。そうするとしばらくしたら再び生えてくるらしい。
30分程で全員が採集し終わると、ハズキさんが小さい革袋を出しその中へいれるように言われた。
「みんな上出来だよ!!じゃあそろそろ戦闘に入ろうね」
ハズキさんがそういい、木々が深いところへ入っていき、しばらくすると走って戻ってきた。
「全員戦闘準備!!」
ハズキさんがそう叫ぶと同時に東洋剣を抜き構える。
私達も陣形に合わせて動きつつハズキさんと同じ方向を見た。
ドドっドドッ
短く跳ねるような重い音が段々とコチラへ近づいてくる。
3秒後。
「コゥルクラァララァ」
独特の鳴き声を放つ体躯に対し異常に大きい角を持つ巨大な男鹿が現れた。
ハズキさんがグリーンイーターを見た瞬間、近づき振り下ろされた角を東洋剣で受け流す。
「スカイさん!アルケンさん!逃げられないようにして!」
「はい!」
ハズキさんの命令に従う。
「青5位階 《
「緑2位階 《
私が泥沼を唱えてグリーンイーターの足元を泥濘ませて動きにくくさせる。
そこにはアルケンさんの草鞭でグリーンイーターを縛り捕縛した。
「ナイス連携!!素晴らしい!」
ハズキさんはそういって褒めてからグリーンイーターの頸動脈を切り裂き、心臓を貫いた。
「ふう。いい感じだね。ユフィさん!周囲に気配は?」
「……なんか凄いのが2つある!」
「どういう事!?すぐにこっちに来て説明して!!」
グリーンイーターの首を完全に切り落としてから東洋剣の手入れをしているハズキさんの下へ全員が近づく。
「ユフィさん説明お願い。」
「まず1つ目がゆっくり動く小さい気配。でも恐ろしさはこっちのほうが大きい。なんというか理性はあるけど本能に生きている感じがする。」
「もう一つは?」
「とても大きくて野性的。空腹なのかもしれない……あ。こっちに一気に来はじめた。それの匂いにつられたのかもしれない。」
「まずい。すぐに逃げるよ!片方はもしかしたら5本指級のモンスター『クレイジーベア』かもしれない。予想外に近い位置にまで来てたみたいだから帰ったらすぐに冒険者ギルドへ報告するよ。」
「「「はい」」」
3人は揃って返事をすると4人で街へ向かって走り始めたその時。
「ブモァァ!!フシュッ!!フシュッ!!」
後ろから恐ろしい鳴き声が聞こえた。そちらへ向くと3メートルはありそうな巨大な赤毛の熊が血眼で現れてこちらを見ている。
「みんな逃げて!!そして冒険者ギルドへ報告して!!ハズキは死んだ!!クレイジーベアが出たって!!」
ハズキさんは死ぬ気で逃がす気だ。
「ダメです!4人で戦えば倒せるかm…」
「ダメ!!逃げて!教官つき新人パーティは教官命に必ず従うことはルールなの!!逃げて!!」
「……わかりまs」
「わ、私は生存のための魔法が得意だから残る」
「え?」
思わず声を漏らす。
アルケンさん?
「……私も残りたいけどシーフの役目を果たすよ。」
………魔法使いは前衛の援護が役割だから。
「ハズキさん私も残ります。魔法使いは前衛の援護が役割ですから。ハズキさんが戦うなら援護は必要ですよね?」
「……わかった。正直私も死にたくないし、全力で生き残るよ。ユフィさんがよんでくる助けが来るまでは」
「「はい!」」
……そこからは地獄だった。
初めはアルケンさんと私でうまく動きを止めて、ハズキさんがクレイジーベアの足や腕を切り戦えないようにしていたのだけれど、それは五分程度だけでクレイジーベアは痛みなど関係がないようにハズキさんの下へ向かっていって、甲冑ごとお腹を引き裂いて内蔵をズリ出した。
「ブモォァ!!」
「キャァガァ…!」
ハズキさんは腹を引き裂かれ、腕で跳ね上げられた後、力なく地面に落ちて動かなくなった。
クレイジーベアはハズキさんのもとへ向かうとハズキさんの内蔵をズリ出して貪り始めた。
「う、うぼぇ…」
小さなうめき声と地面に液体が落ちる、びちゃびちゃという音がアルケンさんの方から聞こえた。
私はハズキさんの様を見て全身が激しく震え、また周りが生暖かくなっていった。
恐怖で何もできなくなった私は見ていることしかできなかった。
「お、おぇうぇぇ……」
自身の吐瀉物の上に崩れ落ちたアルケンに向かって、クレイジーベアはハズキさんを投げつけた。
ゴッ
低く鈍い音がなり、そちらの方へ向くとハズキさんが地面に赤い軌跡を残しながら吹き飛び、その手前にあらぬ方向へ首が曲がったアルケンさんが居た。
「………ヒュ」
自身もああなってしまうのか。そういう考えが脳裏をよぎり呼吸が上手く出来ず変な音がなる。
「ヒューハッ…ヒューハッ…ヒューハッ」
うまく息が吸えない。頭が痛くなってきた。気持ちが悪い。怖い。どうしよう。どうすればいいのだろう。何をすれば良いのだろう。怖い。あれってなんだっけ。怖い。ハズキさんはどこに行ったの?嫌だ。怖い。
パニックになり、体の震えから力が入らなくなり地面に引き寄せられるように尻餅をつく。こちらに来るクレイジーベアを見つめ続けることしか出来ない。
近くにクレイジーベアの生臭く熱い息を感じ、爪が目の前に来た瞬間。
クレイジーベアが吹き飛んだ。
「グバァァ!!」
「おう、ゴルァクソグマ。んだよこれよ、だるいことしてくれたなぁオイ」
男の人の声がする。
「おいガキ大丈夫か?おい?聞いてんのかぶっ殺すぞ」
声の方を見てみると、ベタベタした長髪にみすぼらしい黒ずくめの格好をした大男が居た。
「は、はい。大丈夫…です」
「おうそうか。じゃあちょいまってろクソグマぶっ殺してから街まで連れてってやっから」
大男はそう言うと、クレイジーベアにむかい技術も何も無い殴打を始めた。
一発、頭に当たると身体が勢いよくのけぞる。
二発、胴に当たると毛皮の上からでもわかるほどに凹みができ、クレイジーベアが中身を吐き出す。
三発、右腕に当たるとひしゃげて肌を骨が突き破る。
四発、かかとを背中に振り下ろすと海老反りになりクレイジーベアは泡を吹いて力尽きた。
4回、たったの4回殴蹴を下だけで私達を壊滅に追い込んだモンスターを倒した。
大男はこちらに近づきしゃがみ込み、私と目線を合わせた。
「おう。もう大丈夫だぞ歩けっか?」
みすぼらしい姿に対して、とても強くて優しく、凛々しくも美しい透き通った青い瞳を持つ彼を見て、私の胸は締め付けられた。
無言で頭を横にふると彼は困ったように眉をひそめてボロボロの帽子の上から頭を掻いた。
「あー、じゃあいいわ。担ぐわ」
彼はそう言うと、私の身体に優しく腕を回し抱き上げた。
「ッチ、おいションベン垂れてんじゃねぇか」
恥ずかしい。思わず顔に熱がこもる。
「ごめんなさい。汚いですよね」
「……はぁ。ッチいいよ別に」
彼はそう言うと私を抱いたまま街へ歩いていこうとしたが私が声をかけて止めた。
「あの、少し良いですか」
「あ?んだよ」
「タグをとりたくて」
「タグだ?……あぁ、ッチしゃーねぇなハァ」
彼は面倒そうにしつつもハズキさんとアルケンさんのタグをとり、丁寧に布に包んで私に渡してくれた。
「もうほかにねぇよな?」
「はい。ありがとうございます」
「おう、んじゃ今度こそけぇんぞ」
そう言って彼は私を抱えて街へ向かった。
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